流行している「新築アパート投資」だが?
今回は「アパートの失敗」がテーマですが、ここではあえて新築アパートを取り上げたいと思います。正直いって新築アパートは僕にとって未知の世界です。うまくできる手ごたえなんて、まったくないのですが、世間的には新築アパートが流行っています。
その理由は、融資が引き締まってきた中でも、比較的に長期融資が出やすいということ。また新築アパートは競争力があり入居付けが難しくないということ。さらに当たり前ではありますが、新築はあらゆるものが新品ですから、早々には壊れません。つまり当分は大きな修繕費用がかからないですし、建物の躯体や設備なんかも保証期間があるので安心感があるというわけです。
くわえて言えば、何年か持って売却を検討したときも、築浅物件であれば「買いたい!」という人も多いです。新築なら10年所有したところで築10年ですから、僕のボロアパートを売却するときよりは、よっぽど売りやすいでしょう。その代わり利回りはたいして出ませんし、よっぽど市況が良くならなければ大きな売却益が出る可能性も少ないです。
つまり、ドカンと大きく儲かる要素は少ないですが、大きく失敗する要素も少ない・・・いわゆるローリスク・ローリターンの投資というわけです。
こんな安全そうな投資にどんな失敗があるのでしょうか?
近隣にアパートが建ち並び…賃料は下落、広告料は上昇
竣工時に市況が激変して想定家賃が下落!! 丸亀晴明さん(仮名)
神奈川県在住の丸亀さんは10年目のキャリアを迎える40代の事業家大家さんです。サラリーマンは卒業済みですが、自身の事業と大家業の2本柱があります。
「自分自身の人生における居場所をつくりたくてサラリーマンを辞めて、ライフワークに多くの時間を割く環境を整備することを前提に不動産投資をスタートしました。退職といっても仕事をしないわけではなくて、ライフワークに邁進するために大家業をやりたかったのです」と言います。
不動産投資を選んだ理由は金融機関出身で、不動産に深くかかわっていて馴染みがあったから。また経営コンサルタントとして事業経営についても知っていたから。さらに人事の専門家でもあったので、遠隔地方に満室チームを育てて運営していくためのノウハウを備えていたからだそうです。
そうして現在、10棟70室+戸建て1戸を所有、家賃収入は満室想定で4300万円程度と、充分に実力も経験値もあります。
これまでは中古再生物件を中心に物件種別にこだわらず、順調に高利回り物件を買い進めていたそうですが、今回の新築は土地から仕込んでいます。
「もともと投資基準に合えばどこでも買うわけでなく北海道、神奈川県、香川県などエリアはバラバラですが、主に経営コンサルティングで構築できた人間関係を基準に買っていました。今回は縁のある地域の駅徒歩3分に新築用地を割安で購入できたことがきっかけです」
土地を購入したのは2016年、そこから既存の建物(RC造)を解体して、木造のアパートを新築することにしました。
「駅から近いため、大手企業の転勤族の社宅としてのニーズがある、と仲介店さんのヒアリングから情報を得たため、そこをメインターゲットとしました。単身赴任が多いということで、グレードの高い単身向けのプランを考案しました。 そうして2017年に建築、2018年2月に引き渡しとなりました。しかし、繁忙期に間に合ったにもかかわらず、3月末で1室しか埋まらないのです。これはおかしいと気づきました。結局のところ、賃料設定と広告料の見誤りがあったのです」 と丸亀さん。
どういうことかといえば、計画をしていた2年前と実際の募集時では需給バランスに変化が起こっていたのです。 近隣にメーカーアパートが建ち並んでおり、競争が激化して家賃が下落、広告料も上がっていたということ。そうした状況を関東に住む、丸亀さんが把握できていなかったのです。状況を把握したときは繁忙期が終わるタイミングで時すでにおそし。広告料も当初1カ月と聞いていたのですが、某アパートメーカーは3ヶ月もつけていたそうです。
●丸亀さんの新築アパートの概要
香川県M駅徒歩3分 木造アパート 2億2000万円
部屋数 2棟20室
家賃 月128万円(満室想定)
ローン返済 月80万円 利回り6.9%
ピンチに立たされた丸亀さんは、すみやかにヒアリングを行い、社宅需要のほかに、地元アッパー層をとりこめる賃料に下げたところ4月中旬~下旬に5室が入居決定。7月末現在の空室ははあと2室となりました。
「家賃の見直しから周知する期間を考えると10日程度で5室が決まっているので、この調子でいけば満室は難しくないでしょう。ただし損失は少なくありません。家賃相場が1万円下がり20室12カ月で240万円。10年間で考えれば通算2400万円の収入減です。また客付が3カ月遅れて300万円の機会ロス。広告料の追加で100万円。また大手アパートメーカーに合わせて、無料インターネットを追加をしたのでさらに100万円かかり、トータルで約3000万円の損失です」
結構な金額ではありますが、彼は地方の高利回りアパートを複数満室に近い状態で運営しているので、この失敗で倒れることはないでしょう。
施行中に、近隣の家賃相場が崩れることは多い
丸亀さんは「失敗とは、短期的にうまくいかなかったこと」と言います。
たしかに短期的にうまくいかなくてもトータルでプラスに持っていって、長く事業が続くのであれば、それは失敗ではありません。丸亀さんはある程度の投資規模があり経験もあります。状況を冷静に捉えられているし、次の打つ手もすでに答えを持っていますが、もし人が違えば、致命傷になったわけです。
丸亀さんのほかの物件の話をすれば、任売(任意売却・ローン返済できなくなった場合、売却後も債務が残ってしまう不動産を金融機関の合意を得て売却する方法)で購入した再生物件を売却する予定で、売却益が約1000万円出るため、今期500万円の新築の損を消すことができます。そう考えると、上手く行くことも、そうでないことも起こりうる、それが事業です。
施工中に大手メーカーがたくさん物件を供給したことで近隣の家賃相場が崩れるというのは、日本中どこでもありそうな出来事です。新築は完成するまでに時を要しますから、僕からするとやはり不確定要素が怖いようにも感じます。やはりリスクをとるときに、飲み込めるかどうかで自分の受け入れ態勢を整えておくしかないのではないでしょうか。