今回は、転職をする前の「属性」の高さを利用した高金利の融資で投資物件を購入、その後の行き詰まった状況を打開したサラリーマン投資家の事例を紹介していきます。※本記事は投資クラブを主宰する小嶌 大介氏の著書『だから、失敗する! 不動産投資【実録ウラ話】』から一部を抜粋し、著者が見てきた投資家の失敗や、そこからどのようにリカバリーしたかを解説していきます。

「属性があるうちに買わなければ…」という焦りで失敗

セオリーを守って買い進めたはずが行き詰まる 吉田行男さん(仮名)

 

吉田さんは30代前半のサラリーマンで愛知県に住んでいます。 初めての不動産投資は2016年に岐阜県にあるボロ戸建てを270万円で購入。夫婦でDIYをして利回りは実質15.6%を達成しました。ここまで聞くといい感じですが、実際は心身共にボロボロの社畜リーマンだったと言います。

 

彼が20代のころに勤めていた会社は、大企業の子会社で相当なハードワークだったそうです。朝早くから深夜まで連続勤務、東南アジアを相手とする商社ということもありインドネシアやベトナムなどへの出張も多く日々過酷な労働を続けていました。

 

「心も体もボロボロで家族に辛く当たったり酒に溺れたり今振り返っても最悪です。精神状態がいよいよ限界となり、診断書をもらって残業から解放されるようになったのです」

 

似たような経験を持つ僕からすれば、その辛さはよく理解できます。しかし、彼のまわりは理解する余裕がなかったのか、会社内で人間関係が悪化。さらには親会社から出向してきた上司のパワハラもひどくなりました。

 

吉田さんはすでに戸建て投資をはじめていましたが、1棟目の戸建ての購入で貯金を使い切ってしまったため次の物件が買えません。さらには会社での風当たりが強くなり、転職を視野に入れるようになりました。

 

さて、ここで問題です。サラリーマンが融資を受けて不動産投資をするときに絶対大事なもの、それは「属性」です。本連載にもすでに何度か出てきました。年収はもちろん、会社の規模や勤続年数なんかも大切です。

 

「当時勤めていた会社は大企業の子会社ですから、世間一般には名が通っており融資が受けやすいと考えました。また転職をしてしまえば当分は融資が受けられませんから、今のうちに買わなければと焦ってしまったのです」

 

つまり吉田さんは、キャッシュを使った再生投資から融資を使ったハイレバレッジ投資に方向転換したわけです。ここからが行き詰まりのはじまりです。

 

なにしろ現金がないのです。会社にだけ依存する人生から脱出するため「1棟物件を買っていこう」そう決意したのに買えません。そこで吉田さんは融資セットで物件を売るような業者から買うことになりました。

 

そうして買ったのが、愛知県N市にある木造の築浅アパート。ターミナル駅から徒歩10分で立地が良いですが利回りは7.5%です。かばうようですが2016年はちょうど不動産価格がピーク。高値買いをしやすい時期だったと思います。それをオリックス銀行から金利2.5%の融資を受けて買いました。

 

「今となってはすべてが言い訳ですが、会社を辞めるにあたり、属性があるうちに買っていこうという焦りがあったのです。そして築浅木造アパートの後、転職にギリギリに間に 合わせた形で岐阜県の郊外に重量鉄骨マンションを2棟一括(築14年、築24年)で購入しました」

 

これがスルガ物件です。買った当初はスピーディに物件が買えたと喜んでいたそうです。

 

「安易に高金利で物件を買ってしまったのも間違いですが、この物件があるエリアの需給バランスが崩れていることに気付かず買ってしまったのも大間違いでした。インターネットの情報では人口も増えており、客付に苦労しないという見込みだったのですが、まわりを見渡すと同じような物件が大量にあったのです。今でこそ満室になっていますが16室中、4室の空室が半年くらい続きヤバイと思いました」 と吉田さんは言います。

 

なにしろ金利4.5%です。4室が空室でトントン。これ以上1部屋も空室は許されない状況で毎週末物件へ通い、さびていた鉄階段をDIYで塗装したり自販機を置いたり、ステージングをしたり、考えられることはすべて行いました。最終的には管理会社を変えて、まわりがAD1カ月のなかAD3カ月出して埋めました。

 

こうして、がんばって満室になったところで、吉田さんはふと立ち止まりました。「借金を2億円弱して1年に3棟買ったのですが、まったく金持ちに近づいていないんですよ。CFは満室で年間300万円、月にすると25万円。でも今後の大規模修繕を考えると自由になる25万円ではありません」

 

そして、吉田さんは新たに金を借りることはできず、借換えもままならない、行き詰り状態にハマっていることに気づきました。

格安物件をリフォームせずに貸し「超高利回り」を達成

「自分は会社生活には不適合だから、そこから自由になりたかったのに、自由どころか身動きがとれません」そんな吉田さんは行き詰まりから脱出すべく、行動を起こしました。

 

まず、今年の2月に三重県Y市で路線価ベースで200万円、250万円で売られていた戸建てを70万円で買いました。

 

「土地が50平米で狭いため売れ残っていました。廃屋というほどのボロボロ物件ではありませんが、トイレは汲み取りだし、傾いているしで250万円は高いと思いました。そこで50万円で査定したところ、70万円で差し戻されたのです」 。

 

それと同時に2016年に270万円で購入した岐阜県の戸建てを450万円で売却しました。

 

●吉田さんの物件一覧

① 岐阜県G市 木造戸建て 270万円(450万円で売却済)

利回り約15%→13%で売却

 

②愛知県N市 木造アパート

8100万円 利回り約7.5%

 

③岐阜県M市 重量鉄骨マンション2棟一括

9200万円 利回り約11%

 

④三重県Y市 木造戸建て

70万円 リフォームなしで入居中 利回り約35%

 

⑤三重県Y市 木造戸建て

300万円 リフォームなしで入居中 利回り約21%

 

⑥三重県Y市 木造戸建て

260万円 リフォームなしで入居中 利回り約21%

 

⑦愛知県T市 木造戸建て

50万円 リフォームなしで入居中 利回り約60%

 

そこから先は車で全部の路地の売り物件の看板を見て、直接アタックするドミナント戦略で物件を購入しています。

 

コツは激安で買って、極力リフォームをせずに現状で貸すこと。僕は物件再生が得意ですが、彼の場合はとにかく徹底して物件に手をかけません。 こうして独自のノウハウを見つけて、超高利回り戸建てを買い進めています。さらに今は金利交渉を進めており、うまく進めば1棟物件の収支も大きく改善します。

 

失敗の多くは「はじめての投資」が多いのですが、吉田さんは戸建て投資で成功しているにもかかわらず、焦って1棟物件に手を出して失敗した珍しいパターンです。1棟物件は、戸建て投資で基礎を積んだ人間が次のステップとして1棟物件に行くべきという風に考えていたのですが、吉田さんの失敗を知って、その考えはちょっと違うのかなと思い直しました。

 

吉田さんの場合は戸建てからはじめて、1棟物件というきちんと手順を踏んでいるにもかかわらず、「あかん物件」を買ってしまっています。とはいえ、それなりにリサーチをしているため、同じスルガスキームで行き詰った人と比べても、数字的にはそこまで悪くありません。ただ客付が難しい埋まりにくい物件です。

 

前提として1棟物件がダメということではなくて、急いで行ったから手痛い目にあってしまった。会社の仕事がキツイ中で、おそらく「ほしいほしい病」に罹って目が曇ったのもありますが、「現金で戸建て」と「融資で1棟マンション」ではルールが違うということです。

 

結果的に今は戸建て投資で成功していますが、1棟物件の失敗がなければ、そこまで戸建て投資で利益を出すこともなかったかもしれません。

だから、失敗する! 不動産投資【実録ウラ話】

だから、失敗する! 不動産投資【実録ウラ話】

小嶌 大介

ぱる出版

〜失敗パターンとリカバリー研究〜 「それをやっちゃうから、失敗するんでしょ! 」 エリートほど失敗する! ★「誰にも言いたくない失敗談」を赤裸々に告白した16事例 投資クラブを主宰する著者が、恐ろしい失敗事例…

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