今回は、遺言書作成時の被相続人の状態を担保することの重要性を中心に解説します。※本記事は株式会社メディカルリサーチ代表取締役・圓井順子氏の著書『人生のリスクを未然に防ぐ意思能力鑑定』(株式会社ザ・ブック)から一部を抜粋し、社会的トラブルを防ぐ「意思能力鑑定」、その活用法について事例を交えながら解説していきます。

脳出血が、認知症や高次脳機能障害を引き起こす場合も

前回紹介した、認知症の父親が二男を後継社長に指名したことで、長男が鑑定を依頼したケースの続きです。

 

④脳出血の後遺症で高次脳機能障害を引き起こす

 

図表1・図表2のように、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの脳血管疾患は、日本人の死亡原因の8.4%を占め、がん、心疾患、肺炎に次ぎ第4位となっています。

 

幸い父親は、一命をとりとめましたが、高次脳機能障害がカルテに記されています。高次脳機能障害は、脳損傷に起因する認知障害全般のことで、失語・失行・失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれます。高齢者で脳卒中を発症した場合などは、高次脳機能障害と認知症を同時に有しているケースもあります。

 

父親の場合、自分の便をもて遊ぶといった不潔行為は、認知症の高齢者によく見られる症状です。他方、失語は高次脳機能障害に多い症状です。株主総会に出席したときの父親は「うん」と返事をする以外の言動がなく、失語の状態でした。

 

[図表1]日本人の死亡原因

平成28年患者調査より作成:厚生労働省
平成28年患者調査より作成:厚生労働省

 

[図表2]脳卒中の種類まとめ

 

今回の事例は脳の血管が破れることにより起きる脳出血です。脳出血は、出血の部位によって発症数が異なり、今回の視床出血は2番目に多いもので、脳出血の約35%となっています。

 

⑤認知症が進むと脳が縮む

 

発症後2か月のCT画像には、脳室内のびまん性萎縮が認められます。脳のひだ状のすき間の黒く写っている部分が大きくなっている様子が見えます。

 

びまん性萎縮とは、脳の細胞の一部ではなく脳全体にわたって細胞が死んでしまい、脳が縮んだ状態のことです。発症後3年の画像を見ると、頭がい骨と脳の間の白い部分が広くなり、脳全体の萎縮が見て取れます。また、脳室の形が当初とはまったく違って大きくなっています。脳の萎縮が起きると容積が減るので、脳室すなわち脳の空間が大きくなるのです。

 

現代の最新医学でも、いったん萎縮してしまった脳細胞は、二度と元の状態には戻りません。萎縮の進行を引き延ばすのが精一杯です。したがって、記憶力、判断力といった認知機能は急速に失われていきます。

 

遺言書の作成と株式の譲渡契約は、いずれも発症後3年後のことであり、このときの父親の脳の状態では、遺言、契約、株式といった言葉の意味をまったく理解できなかったことでしょう。

いつ脳出血が起こってもおかしくなかった父親

脳卒中などの脳血管疾患の患者数は117万9,000人で、介護が必要になる原因の第1位、約2割が脳卒中となっています(一般社団法人日本生活習慣病予防協会のホームページより)。

 

脳出血の場合、「最大の危険因子が高血圧」ということがはっきりしています。その予防には血圧管理が最重要事項となり、塩分摂取を控えること、肥満・メタボの解消が基本となります。

 

この父親の場合、肥満体質で高血圧・高血糖・脂質異常の症状が3つとも現れているメタボリックシンドロームであったので、食事などの生活習慣を改善しない限り、いつ脳出血を発症してもおかしくない状態だったのです。

 

厚生労働省では、約2000万人がメタボリックシンドロームと予備軍に該当すると考えており、とくに中年男性では2分の1が発症すると予測されています。

 

予防医学に対する国民の意識が高まらない限り、脳卒中によって脳の機能が損なわれ、遺言書作成の意思能力®が疑われるケースは今後も増える可能性があります。

意思能力鑑定により、遺言書の「品質保証」が可能に

脳の機能が損なわれてしまってからでは、遅いのです。宝石のような高額の商品に鑑定書や保証書が付いているのと同様に、遺言書を作成するときには意思能力®鑑定を受けて、その品質を保証することが、今後は常識となっていくかもしれません。

 

きょうだい間で相続を争うケースは、ほかにもさまざまにあります。親は「均等に分ける」と言っていたのに、死後、長男の妻や子どもたちがそろって親と養子縁組をしていたことがわかったケースもあります。養子縁組をしたときの親の意思能力が正常であったかどうかは、調べてみなければわかりません。

 

遺産分割を争う裁判は、数年間もかかり、弁護士費用もかさみます。親族間の争いは、どちらが勝っても禍根を残すでしょう。何より悲しいことは、故人の遺志がかなえられないことです。自分が築いた財産を、愛する家族のために平等に残したいという思いがあるのならば、生前にきちんとした遺言書を作成するのみならず、そのときに意思能力®鑑定を受けて、遺言書の品質を保証しておくのが良いでしょう。

 

遺産分割の当事者だけでなく、保険会社や信販会社に被害が及ぶ事例もあります。カードローンで多額の借金を払いきれずに自己破産した息子の保証人は、認知症を患う父親でした。保証人の契約時に認知症の症状があったとわかれば、契約が無効となり、信販会社は貸金を回収できなくなる可能性があります。

 

幸か不幸か、このときは姉も保証人になっていたので、姉が返済を引き受けることになり、信販会社はリスクを抑えることができましたが、今後に活かせる「教訓」を得たことになるでしょう。

 

実際、リスクマネジメントとして、高齢者と契約するときには特別なルールを設ける会社もあります。たとえば、訪問販売で高額商品を売るときに、70歳以上の高齢者に対しては家族の同意を得るという自主規制をしている会社が多くあります。

 

たとえ家族の同意があったとしても、あとで認知症が発覚した場合には、その契約が無効になることも考えられます。ここにも意思能力®鑑定のニーズがありそうです。

 

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    圓井 順子

    株式会社ザ・ブック

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