認知症と「遺言書の有効性」をめぐる諸問題の現状

本連載は、株式会社メディカルリサーチ代表取締役・圓井順子氏の著書、『人生のリスクを未然に防ぐ意思能力鑑定』(株式会社ザ・ブック)を一部抜粋し、遺言書作成時の被相続人の意思を鑑定する「意思能力鑑定」等について見ていきます。

遺言書作成時の「判断能力」に疑念があると…

「エンディング・ノート」を用意して、終末期の医療や葬儀、お墓についての希望をあらかじめ書いて備えようという人が増えてきました。

 

誰でも家族などにトラブルを残すことなく、きれいに死にたいと望んでいると思いますが、残念ながら本人の意に反した出来事が起きてしまう場合が多くあります。最近、相続や株式譲渡などで、故人の遺言書が有効か無効かをめぐって紛争になるケースが増え、メディカルリサーチに相談が寄せられるようになってきました。

 

「うちは金持ちじゃないから関係ない」と思っている方も多いかもしれませんが、実は、遺産分割に関する裁判件数は年々増えており、このうち3割が1千万円以下の比較的少額といえる遺産の分割をめぐる争いとなっているのです。

 

遺言は、公証役場で公証人に作成してもらうことが最も確実な方法とされていますが、遺言作成時の本人の脳の状態によっては、財産分割の相手や金額についての判断能力が怪しまれるケースがあります。

 

このような判断能力について、メディカルリサーチでは意思能力®と定義し、登録商標を獲得しています。中には医学的見地からの専門的な鑑定が必要になることがあり、その分野を専門とするメディカルリサーチに対して、弁護士事務所等からご相談をいただくのです。

 

[図表]遺産分割事件の対象金額別の内訳

出典:平成27年司法統計年報
出典:平成27年司法統計年報

 

認知症をめぐるトラブルは他人事では済まされない

メディカルリサーチが得意とする意思能力®鑑定は、脳の状態について医学的に鑑定をするものです。

 

たとえば遺言書を作成したときの本人の意思能力®については、PET(陽電子放出断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの画像データ、精神科医によるカルテの精査のほか、行動や心理面での異常がなかったかどうかについての家族などの証言等をもとに判断します。その際、認知症や高次脳機能障害といった、意思能力®に影響する病気が疑われれば、その根拠を明らかにして「意思能力なし」の鑑定を下し、意見書にまとめて代理人や弁護士、保険会社等に提出します。

 

最終的に裁判で勝つか、負けるかは弁護士の守秘義務があり、私たちの知るところではありません。その意味では、私たちは裏方のような存在です。一般の方々とはほとんど接点はありませんが、認知症をめぐる社会的なトラブルが他人事では済まされなくなっている中で、意思能力®鑑定の意義を多くの方に知っていただき、もしもの時の備えの在り方についてご理解いただきたいのです。

「成年後見人契約以前」の不当な契約の問題

そうした予防の意味ばかりでなく、トラブルが起きてしまったあとの問題解決にも意思能力®鑑定は効力を発揮します。

 

認知症になった方が不利益をこうむらないようにするための制度としては、成年後見人制度があります。この制度を使うことによって、たとえば1人暮らしのお年寄りが悪質な訪問販売の被害に遭わなくて済むといった予防策につながります。

 

ただ、成年後見人をつける以前に起きてしまったトラブルについては、この制度は効力を発揮することができません。その点、意思能力®鑑定であれば、過去の不当な契約についても、契約時の当人の意思能力®を医学的な方法で鑑定することにより、契約を無効にすることができます。

 

訪問販売の中にも数百万円といった高額の契約がなされる場合がありますが、話が遺産相続や株式や土地の譲渡ともなれば、数千万や数億といった高額になるかもしれません。悪意のある人物が判断能力のない本人をそそのかし、遺言書や譲渡契約書を書かせるといった事件が実際に起きているのです。

認知症ドライバーによる事故を未然に防ぐには

メディカルリサーチのオフィスには、常に看護師が3名常駐しています。ほかのスタッフは総合病院等で医療事務やマネジメントを経験しており、顧問の医師の指導を受け、最新の医学知識をもとに的確な情報を提供するように努めています。

 

代表取締役の私自身も、以前は病院の看護師をしていました。日々、患者さんのケアに追われる毎日でしたが、命に関わる病気や事故が起きてしまったあとでは、私たちにできることには限度があり、悔しい思いをすることが多かったのです。

 

私と同じように感じていた看護師の多くは、予防医学の世界に転じます。ただ、実際は、人間ドックなどの検査を専門に行う医療機関の仕事というと、1日に50人以上の人の血液をひたすら採血し続けるなど、同じことの繰り返しが多くなります。

 

全体として見れば早期発見で早期治療につなげる重要な役割の一端を担うわけですが、やっていることは採血などの検査だけですから、患者さん1人ひとりの問題にじっくりと関わり、解決していくといった手ごたえが感じられないのです。

 

それでも私には、もっとほかに予防医学における看護の役割や専門を活かせる仕事の可能性があり、今後さらに社会的に大きな意義をもつようになるという確信がありました。そしてご縁があってメディカルリサーチの事業に参画しました。

 

認知症、高次脳機能障害といった脳の意思能力®を侵す病気を治療する技術はいまだに確立されていませんが、早期に確定診断を下し、適切な治療に結びつけることにより、これらの病気がもたらす社会的な問題を予防し、解決できることに強い関心をもちました。

 

そのために必要なことを知っていただきたくて、本書籍『人生のリスクを未然に防ぐ意思能力鑑定』に多くの事例と解決のヒントをご紹介することにしました。予防医学の活用に関する知識が、穏やかで満ち足りた生活を続けていくことにつながり、老後の不安も軽減されるでしょう。

 

認知症については、軽度認知障害(MCI)を早期に発見して早期に適切な治療を始めることで、重症化を防げるようになってきています。

 

また、死傷事故を起こす事例が増えている認知症ドライバーの問題も、早い時期に認知症であるという判断を出せれば、家族や周囲の人が本人に強く免許証の返納を迫ることができ、事故を未然に防げるのではないでしょうか。

 

メディカルリサーチ株式会社 代表取締役

兵庫県生まれ。地元短期大学卒業後に就職するが、幼少期からの看護師になることを諦めきれず、25歳で看護専門学校に入学。
現在、メディカルリサーチ株式会社代表取締役として、認知症や遺言作成時における意思能力などについて精力的に講演活動を行なうとともに、民間の法医学研究所として、医療過誤や死因不明、交通事故後の後遺障害などの依頼を多数取り扱う。
また、予防医学やがんの啓蒙活動に従事するため、NPOピンクリボンうつのみや理事に就任。

著者紹介

連載もしかして認知症!?遺言書の有効性をさかのぼって検証する「意思能力鑑定」とは

人生のリスクを未然に防ぐ意思能力鑑定 「認知症」でも家族が納得する遺産相続

人生のリスクを未然に防ぐ意思能力鑑定 「認知症」でも家族が納得する遺産相続

圓井 順子

株式会社ザ・ブック

親が書いた遺言書は有効なのか。長寿社会では認知症が疑われ、トラブルが続出。そんな時のために必要な意思能力鑑定を徹底解説。 【内容紹介】 (1)あなたの親が書いた遺言書は有効なのか。超高齢化社会では認知症が疑わ…

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