クリニックには問題がなくても、同じビルに入るほかのテナントが集患数に影響を及ぼすことがあります。今回は、「物件選び」について留意すべき点を見ていきましょう。

患者さんの数は、周囲の環境にも左右される

駅前ビル2階のテナントでレディースクリニックを開業したA医師。3階にはアロマテラピーの店が入っていました。3階に訪れる客は、上品な雰囲気の女性ばかりで、階下にあるクリニックの落ち着いた雰囲気をかき乱す物音や気配など、つゆほども感じることなく、診療に専念することができました。

 

ところが、2年後、アロマテラピーの店は移転し、代わりに学習塾が入ってきました。塾の時間になると、エレベーターに大勢の子供がどっと押し寄せ、2階と3階をつなぐ階段では大きな話し声が聞こえ、さらには飲み食いをしている子供までいて、騒々しいことこの上ありません。診療している最中にも、うるさいなあとばかりに眉をひそめる患者もちらほら見受けられます。

 

“塾ができてから、心なしか患者さんの数が減り始めているような気がする……”
開業当初は明るかったA医師の表情は、最近、曇り始めています。

 

このようなA医師の“災難”は、開業時の物件選びに関する問題点を十分に理解していれば、未然に防ぐことができた可能性があります。

テナント・自己所有など選択肢ごとにリスクは異なる

クリニックの物件を検討する際、①テナント、②集合医療施設テナント(医療モールや医療ビレッジ、医療ビル)、③自己所有(土地を購入してクリニックを建設する)という3つの選択肢があり得ます。いずれの場合においてもそれぞれ固有のリスクや注意点があるので、物件を決定するにあたっては、その内容をしっかりと把握しておかなければなりません。

 

まず、①「テナント」を借りる場合のリスクから見ていきましょう。

 

人の往来の多い商業ビル等の中にあるテナントは、一般的には、確実な集患が見込めるはずですが、上下もしくは同一フロアに、クリニックにとっては望ましくない業種が入った場合は話が違ってきます。

 

冒頭に挙げた学習塾のほかに、そのような業種としては、飲食店が挙げられます。階下に焼肉店や焼鳥店があって、そこから発する煙や臭いが漂ってくるようなクリニックに通いたいと思うような患者はおそらく少ないでしょう。また、消費者金融のようにクリニックのイメージとは相容れない業種も、できるのであれば避けたいところです。バーやクラブ、パチンコ店なども同様です。

 

そこで、テナント選びの際には、このような業種がビル内にテナントとして入居していないことを事前に確認するのはもちろんのこと、テナント契約締結時に、ビルオーナーに対して、将来的にもそうした業種をテナントとして入居させないことを賃貸借契約書に特約事項として明記させることが望ましいでしょう。

 

当然のことながら、オーナーサイドで特約事項として記載をしてもらえないケースも多々あります。これは、いくらクリニックが良質の店子であることが明らかであっても、将来の空室リスクを考えると、賃貸する側としてはこうした特約は自分の首を絞めることになりかねないからです。

 

特約事項の記載ができない場合の自衛策としては、できるだけフロア数の少ないビルにあるテナントを選択するとよいでしょう。たとえば、8階建てのビルよりは4階建てのビルの方が、望ましくない業種が入る可能性が減少するからです。

 

同様の見地から、ワンフロアあたりの面積が大きいビルよりは、フロア面積が小さく1テナントしか入居できないようなビルを選ぶという対策方法も考えられます。

 

次回も、引き続き「物件選び」の注意点を見ていきましょう。
 

本連載は、2016年4月刊行の書籍『改訂版 クリニック開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 クリニック開業読本

改訂版 クリニック開業読本

髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

2000年から2015年の医療機関の倒産件数は527件。経営破綻した医科・歯科クリニックの8割は破産を選択せざる得なく、再起も難しい状況です。このような厳しい状況の中でも集患に成功しているクリニックが存在するのはなぜでしょ…

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