患者に「よかれ」と思ってしたことが裏目に!?
クリニックの院長に求められる3つめのポイントは、意外に思われるかもしれませんが、「常に全力投球をしない」ということです。この表現は誤解を招くかもしれませんが、的を射ています。
言い換えるならば「常にニュートラルでいよう」ということかもしれません。
医療現場においては、些細なミスがときに致命的となるため、日々の仕事に対して常に緊張感を持って臨むことが要求されます。このような状況下において、人間が常に100%あるいは120%の力を発揮し続けることは困難であるといえます。
まして、開業医としての人生は20年、30年という長丁場です。こうした長丁場において、絶えず力を入れ続けた状態であると、疲労やストレスも蓄積されていくでしょう。これらが、医療事故を招く原因にならないとは限りません。
また、全力投球型のドクターにおいては、開業時に、次のような過剰サービスを提供し、それが後々、裏目に出てしまうことも往々にしてあります。
開業したばかりの頃は、患者数も少ないので、時間をかけて診療し、病状に関する訴えなどにもじっくりと耳を傾けるなど、一人ひとりのチェアタイムがつい長くなりがちです。
しかし、時間の経過とともに次第に患者数が増えてくると、段々とこうした余裕はなくなっていきます。歯科医院を例にするならば、以前は1時間取ることのできたチェアタイムは必然的に30分しか取ることができなくなり、さらには院長だけでは診きれなくなり、最終的には代診の歯科医師に治療を委ねるような状況になりかねません。
そうなると、開業当初から通っていた患者の間からは、「あそこのクリニックは、以前は1時間じっくりと診てくれたのに、最近はその半分にも満たない」「院長が治療するのは3回に1回で、あとの2回は若い代診まかせ」などといった不平不満が聞こえてくるのです。
その結果、既存の患者は受診に来なくなり、さらにこうした不平不満が“悪評〟となってゆっくり広まっていくので、新患の来院にも悪影響が生じてくるという状況に陥ってしまいます。
全力を尽くすタイプのドクターほど「患者によかれ」と思って、開業時に必要以上の過剰サービスをする傾向がみられます。しかし、こうしたサービスがかえって仇となり、後々、経営に大きな不利益をもたらす場合があることを十分に理解しておく必要があります。
「増患したとき」を想定して予約の入れ方も工夫する
何も診療において、全力投球をしないでくださいと言っているわけではありません。開業時点から、きっちりとしたペース配分で臨まないと、途中で息切れがしたり、かえって悪い結果を呼び込むこととなってしまう可能性があることに留意していただきたいのです。
なお歯科において、もうひとつ注意すべき点としては、予約の取り方が挙げられます。ほとんどの歯科医院においては、急患以外は完全予約制となっています。開業間もない頃というのは、患者が少ないので、どんな時間帯でも予約を受け付けることができます。
だからといって、主婦や老人のような通院時間にあまり制約のない患者の予約を入れる場合に、何時でも良いとオープンにしてしまうと、後悔することになりかねません。むしろ、意識的に、患者の予約の入りにくい午後いちばんのような時間帯に入れておくことをお勧めします。
というのも、開業後、徐々に増患していく中で、サラリーマンやOLのように夕方以降しか通院ができない患者が増えてくると、主婦や老人については、当然のことながら、夕方以降の予約を断っていくようになるからです。
そうなると、「以前は何時でも予約ができたのに、最近はさっぱり希望時間帯に予約を入れてくれない」などと不平不満が生じて、結局、こうした患者が来なくなってしまうリスクがあるのです。何事も最初が肝心とはよく言ったものです。