「人を助けたい」という気持ちがイノベーションを生む
株式投資型クラウドファンディングの解禁をきっかけに期待されているのが、新たなベンチャー企業が育ち、それらの企業が主体となって日本全体のイノベーションが促進されることです。
クラウドファンディングは、もともとチャリティー的なことから始まっていますから、「共感・共鳴」の気持ちがベースにあります。
実は、イノベーションの中にも、共感や温かい気持ちから生まれているものがたくさんあります。そういう意味では、クラウドファンディングとイノベーションは、とても親和性の高いものです。
私が聞いた話で面白かったのは、ストローとカーディガンが生まれた理由です。どちらも同じ理由で生まれたそうです。
それは、障がい者に使ってもらうためです。
ストローは、グラスを手で持つことができない人のために開発されました。グラスを持てなくても口で吸えば飲むことができます。
カーディガンは、手に障がいを持っていて服を着ることが難しい人が着られる服として生まれたそうです。
ストローとカーディガンの話を聞いて調べてみると、ウォシュレット(シャワートイレ)も同じ理由で生まれたことがわかりました。
ウォシュレットは海外の高齢者施設・障害者施設で、自分でお尻を拭(ふ)けない人のために医療用として開発され、使われていました。それをTOTOが輸入して販売し、その後、国産化して、さらに良い商品にしていったそうです。
おそらく最初に開発した人は、お尻を拭けずに困っている姿を見て、何とかしてあげたいと思ったのでしょう。
障がいのある人を助けたいという気持ちから、ストロー、カーディガン、ウォシュレットが生まれ、それが広がって健常者にも使われるようになりました。人のやさしさが生んだイノベーションと言っていいでしょう。
その後に聞いた話ですが、ライターも、片手が不自由でマッチで火を付けられない人のために開発されたのだそうです。
目の前にお困りの人がいれば、手をさしのべて助けてあげる人は多いと思いますが、困っている人が1人いるということは、他にも同じように困っている人がいる可能性があるということです。
目の前の人を助けてあげるだけでなく、他の人も助けてあげたいと思うと、そこにイノベーションのヒントが見つかります。
解決法を考えるプロセスの中から、画期的なイノベーションが生まれ、それによって社会全体が良くなっていきます。
思いついた解決法を完成させるためには、開発資金が必要になることがあります。解決法の開発のために多くの人から少額の資金を出してもらう仕組みがクラウドファンディングです。
社会性に共感して株式投資をする人が増えてきている
一般に投資家は、利回りやPER(株価収益率)によって投資を決めています。
しかし、今は賢い投資家が増えてきて、「利回りはよくないけど、この会社は社会貢献をしているから、投資しよう」とか、「この会社は、利回りがいいけど、地球環境に配慮していなさそうだから、こんな会社に投資するのはやめておこう」といった具合に、社会的なことを意識するようになっています。それだけ世の中が成熟してきたということでしょう。私が「クラウドファンディング2.0」を提唱している原点がここにあります。
時代のキーワードとなっているESG(環境 Environment 社会 Social ガバナンスGovernance)投資など、社会との関わりの中での投資も増えてきています。通常の株式取引でも、社会性というものが重視されてきています。
少しずつ投資家のレベルが上がってきており、金銭的なことだけでは、投資が集まらなくなっています。社会的なことを意識して、共感を得ることが、資金調達のうえでも必要になっています。
株式投資型クラウドファンディングは、資金調達の過程で、社会的な共感を強く意識させてくれる仕組みです。
「我が社は、こういう社会問題を解決したいんです。そのうえ金銭的な利益も考えています」という会社に投資家は共感を持ちます。
社会問題を解決するための組織としては、株式会社以外にもNPO法人があり、寄付型のクラウドファンディングもあります。
NPO法人との大きな違いは、株式投資型クラウドファンディングは、社会問題を解決しながら、利益が出たときには、その果実を会社と投資家が分かち合える仕組みになっていることです。
バングラデシュのムハマド・ユヌス氏は、貧しい人たちに無担保で少額の資金を貸し出すグラミン銀行をつくり、ノーベル平和賞を受賞しています。ユヌス氏をはじめとして、社会課題の解決のために資金を使おうという意識が世界的に高まっています。
佐藤 公信
株式会社パブリックトラスト代表取締役