今回は、技術の発展が「イノベーションのジレンマ」見ていきます。※本連載は、株式会社パブリックトラストの代表取締役である佐藤公信氏の著書、『クラウドファンディング2.0』(日本文芸社)から一部を抜粋し、新時代のクラウドファンディングについて解説していきます。

大手企業にとって「自分たちの殻」を破るのは難しい

イノベーションには、継続的に改善・改良をしていくタイプの「継続的イノベーション」と、既存のものを破壊して新しいものをつくっていくタイプの「破壊的イノベーション」があります。

 

大手企業の場合は、企業内で破壊的なイノベーションを起こそうとしても、なかなか自分たちの殻を破れないのが実情です。

 

リーダーに女性を登用したり、他部門の人を開発部門に送り込んだりして、新たな視点を取り入れたりするのですが、それでも社内の常識に縛られてしまって、大胆な発想はなかなか生まれません。

 

結果的に、自社内で完結する範囲の小さな改良しかできなくなってしまいます。「破壊的イノベーション」を目指していたのに、「継続的イノベーション」になってしまうことはよくあります。

 

既存の企業がイノベーションに手こずっている間に、新たな発想を持った新興企業が出てきて、マーケットのニーズをつかんでマーケットを占有するということが起こります。

 

常識に縛られて自己否定できずにいた企業が、市場から退場を迫られ、イノベーションを起こした新たな企業が、市場で支配的な地位を得ていきます。

 

イノベーションは、下記のようなカーブの図表で表されています。

 

[図表]商品サイクルとイノベーション

 

商品には、黎明期があり、隆盛期があり、安定期があり、下降期があります。衰退し始めると、何か新しいことをやらなければいけないと思い、焦りますが、既存のものを改良するだけでは衰退を食い止められません。

 

多くの場合はそのまま衰退していきます。その間にプレーヤーの交代が起こり、新たな企業が生まれます。こうして、栄枯盛衰がくり返されていきます。

 

過去の成功体験から抜け出せずに衰退期の商品にしがみついてしまうと、会社そのものが衰退していきます。自己否定をして、まったく新しい商品に切り替えることがイノベーションには必要です。

「顧客満足度を超越した商品」は、売上につながらない

これまでのイノベーションは、技術開発者たちが「便利にしよう」「もっと便利にしよう」と考えてやってきました。新しい技術で製品を開発すれば、お客さんのニーズに近づきますので、付加価値が高まり、高い値段でモノが売れました。

 

ところが、技術が発展しすぎて技術力がお客さんのニーズを追い抜いてしまいました。顧客満足度を超えてしまっていますから、どんなに高性能にしても売り上げにはつながりません。その結果、技術的にはそれほどすぐれておらず、チープな商品のほうが売れてしまう逆転現象も起こっています。

 

大企業は、これまでずっといいモノを作ってきましたから、今さらチープなものは作れません。別のプレーヤーが入り込んできて、顧客のニーズに合ったものを投入して、売り上げを伸ばしていきます。

 

イノベーションの例として、関西学院大学の玉田俊平太(たまだしゅんぺいた)教授は、魔法瓶の話をされています。

 

昔の魔法瓶は、熱いお湯を入れても冷めないものでした。当時は、ものすごいイノベーションだったのでしょう。だからこそ、「魔法」という言葉が付いています。

 

技術革新が進んで、魔法瓶に電気コードがついて、魔法瓶に水を入れておけば、お湯が沸(わ)くようになりました。さらに技術革新が進んで、上から強く押さなくても、ボタンにタッチするだけで、お湯が出てくるようになりました。

 

さらに技術革新が進んで、魔法瓶を使うと、ネットを経由して離れた場所に住んでいる子供など親族、知人に連絡がいくようになりました。

 

これらの技術革新のうち、ボタンをタッチするとお湯が出てくるところまでは、多くのお客さんのニーズを満たす技術革新です。

 

しかし、ネットで子供に連絡がいくという技術は、お客さんのニーズを超えてしまっています。たまにそういうニーズを持った人がいるかもしれませんが、ほとんどの人にとっては、「そこまでの魔法瓶は要らない」ということになります。

 

今、売れているのは、1分間でお湯が沸く電気ケトルです。既存の電子ポットの大メーカーからすれば、「そんな技術は、うちは20年前からありましたよ」という感じでしょう。

 

既存メーカーは、今さらそんな付加価値の低い製品など作れませんが、多くのお客さんにとっては、あっという間に沸く、3000円くらいの電気ケトルのほうがよほど価値が高いのです。

 

似たような例として、出版社の人から聞いたのですが、10年くらい前に発売されたポメラ(株式会社キングジム)という簡易入力機がヒットしたそうです。今も著名な作家やライターに愛用されているそうです。

 

パソコンはどんどん高性能化していき、不必要な機能がたくさん付いていきました。ポメラは、白黒ディスプレイとキーボードだけの単純なものです。できることは「文字入力」だけですが、文章を書くことを専門としている人には、これで十分であり、むしろパソコンよりも使いやすくて重宝されているのです。

 

軽いのでどこにでも持ち運べて、メモリーに膨大な文字量を保存できます。出力のためにパソコンとつなぐこともできます。

 

こういう商品は、一流のパソコンメーカーには作れません。技術的に作れないのではなく、「今さら、こんな性能の低いものを作れるか」という常識にとらわれて、作れなくなってしまっているのです。

 

他にも高性能を追求した例として、テレビの画素数があります。

 

4K、8Kと高精細化が進んでいますが、ニーズがあるのかどうか、私にはよくわかりません。電波が8Kに対応していないのに、受信機だけ8Kにしても意味がないのではないかと思います。

 

8Kテレビは、今のところブルーレイで映画を見るというようなニーズに限られます。

 

8K放送が始まったとしても、ニュースやバラエティを見るのに8Kを必要としている人はあまりいないでしょう。スポーツを8Kで見るとか、美しい映像を8Kで見るといったニーズはあるかもしれませんが、一部の人のニーズです。

 

技術追求型の開発は、もはや本当のイノベーションにならなくなっています。人間のニーズを超えてしまったら、技術としては優れていても、商品としての価値は低下します。

開発の行き詰まりを、クラウドファンドディングで解消

イノベーションには、こうしたさまざまな課題があり、「イノベーションのジレンマ」と呼ばれています。

 

最先端の技術力を持った大企業の場合は、イノベーションのジレンマが起こりがちです。大企業には優れた技術者がたくさんいるのですが、会社の技術開発の歴史や会社の常識に縛られて、大胆な発想ができなくなっています。

 

昔は、継続的イノベーションを続けていくと、顧客ニーズを満たして業績が上がりました。

 

しかし、今は、技術力が顧客ニーズを上回ってしまって、継続的なイノベーションの追求が通用しない時代になりました。

 

こうした行き詰まりを打破するには、クラウドファンディングはとても有効です。

 

クラウドファンディングを使って外の資金を入れようとすれば、必然的に外部の人の目にさらされることになり、そのプロセスの中で、外部の視点や新しい発想に触れることができます。

 

本連載は、投資を促したり、特定のサービスへの勧誘を目的としたものではございません。また、投資にはリスクがあります。投資はリスクを十分に考慮し、読者の判断で行ってください。なお、執筆者、製作者、日本文芸社、幻冬舎グループは、本連載の情報によって生じた一切の損害の責任を負いません。

クラウドファンディング2.0

クラウドファンディング2.0

佐藤 公信

日本文芸社

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