アベノミクス3本目の矢である日本再興戦略。日本産業再興プランでは、中小企業・小規模事業者の革新の一環として「開業率10%台」が目標に掲げられましたが、現状における国の創業支援策では、なかなか難しい動静にあるようです。 ※本連載は、株式会社パブリックトラストの代表取締役である佐藤公信氏の著書、『クラウドファンディング2.0』(日本文芸社)から一部を抜粋し、新時代のクラウドファンディングについて解説していきます。

短期のキャッシュフローで判断される「融資審査」

「中小企業の社長には、ワンマン社長が多い」と言われますが、連帯保証制度によって社長に責任を100%負わせているわけですから、「ワンマンになるな」と言うほうが酷(こく)な話です。

 

経営に失敗したら、家や土地など財産すべてを失い、それでもまだ返せないほどの莫大(ばくだい)な借金を背負って残りの人生を生きないといけません。人生がかかっていますから、ワンマンにならざるを得ない面があります。

 

しかし、よく言われているように、ワンマン経営では、経営は失敗する可能性が高まります。部下の考えや外部の人の考えをよく聞いて、それを生かしながら経営したほうが会社は成長します。

 

連帯保証という制度のために、強烈な心理的重荷を受けて、知らず知らずにワンマン社長になっていく。その結果、経営が独(ひと)りよがりになって、会社が行き詰まって借金を返せなくなる。そういった悪循環が起こっています。

 

メディアでは、「経営者のオープン・マインドが必要」と言われています。「株主に対しても、オープン・マインドになって、株主の意見に耳を傾けましょう」と。

 

それは、借金の個人保証をしていない0.2%の上場企業の社長に対して言える話であって、99.8%の社長は、オープン・マインドをうんぬんする以前に、連帯保証というもっと大きな問題を抱えています。

 

株式投資型クラウドファンディングという制度が普及して、連帯保証なしで資金調達できる道が開かれれば、中小企業の社長の考え方も変わります。オープン・マインドが取り入れられて、外部から多くの情報が集まってきて、より成長する経営に変えられるかもしれません。

 

株式投資型クラウドファンディングは、疑似公開のようなものですから、株主を意識した経営をせざるを得なくなります。社長自身の経営に対するスタンスが変わり、経営能力の向上につながる可能性は大です。

 

経営者の能力向上という面からも、株式投資型クラウドファンディングは、日本のベンチャー企業、中小企業に大きなインパクトをもたらしうるものです。

 

日本で連帯保証制度が取り入れられている理由は、社長のモラル・ハザードを防ぐためだと聞いています。社長が返そうとしなくなる恐れがあるから、連帯保証なしでは貸さないのだそうです。

 

そもそも返そうとしない社長には、初めから貸すべきではありません。貸す側の人間は、この社長は「返そうとする社長」か、「返そうとしない社長」かを見分ける能力を磨く必要があります。

 

ところが、日本の銀行は、連帯保証制度があるため、社長の見極めをせずに貸すやり方に慣れてしまっています。私がクレジットカード会社のクレディ・セゾンに勤務していたころ、初期の段階で教育されたことがあります。それは、

 

「返せない人には2通りいる。返したいけど返せない人と、返したくない人がいる」

 

ということです。

 

返したくない人を排除して、そのうえで、この人は経済的にきちんと回っていて返すことができるかを判断することが重要と教えられました。つまり、2段階の審査があるということです。

 

「この人は返す気持ちがある」というのが第1段階、「この人の経済力から見てどの程度の限度額にしたらいいのか」というのが第2段階。この両者の能力を磨くことが審査能力を高めることだと習いました。

 

銀行は長年、第1段階の審査をやってきませんでした。人物審査はほとんどせずに、第2段階の「いくらの限度額まで貸せるのか」ということを中心に融資を決めています。連帯保証を求めれば、返したくない人は判子を押しませんから、連帯保証の判子さえあれば、第1審査は通過して貸し出しの方向で検討します。

 

クレジットカード会社は、無担保、無保証で、面談もほぼなしで、履歴だけを見て与信(よしん)枠を付けています。

 

社長になって2、3年経営してきた人で、クレジットカードの取引履歴を数年間調べて返済に問題がなさそうなら、200万円から300万円くらいは無担保、無保証で与信枠を付けます。

 

あるクレジット会社では、数千万円の枠を付けたそうです。「無担保、無保証で、買掛金の支払いに使っていただいてもけっこうです」と言って、クレジットカードで数千万円を使えるようにしていました。

 

申込時の属性を調べれば、中小企業の社長であることがわかります。過去の履歴を調べると、たとえば、毎月200万円くらいカードを使ってくれていて、5年間くらいきちんと返済してくれているというデータを取れます。会社がよほど危ない状況でなければ、まじめに返済する人物であると推測できるわけです。

 

人物としては信用が置けますので、あとは、会社について信用調査をかければ、会社の状況が見えてきます。総合的に判断して大丈夫そうだという場合は、無担保、無保証で数千万円の枠を設定することをしていました。

 

カード会社には、与信先の会社ごとの担当者はいませんが、銀行の場合は、担当者がいて、相手の会社の社長にも会っています。本来は人物調査もきちんとできるはずですが、現状では銀行の担当者は、キャッシュフローを調べて、返済資金があるかどうかを中心に短期的なスコアリングだけで判断しています。

 

新規事業というのはすぐに利益が出るわけではありません。短期のキャッシュフローで判断されると、新規事業をやっている会社は融資してもらいにくくなります。

 

そういう意味では、ベンチャー企業の育成には、融資という制度はあまり馴染(なじ)みません。

国の支援策を利用しても「身ぐるみ剥がされる」?

これまで国が創業支援のためにやっていたことは、日本政策金融公庫と信用保証協会の支援です。

 

多くの創業者は日本政策金融公庫から500万円借りられます。また、信用保証協会に保証してもらえば、金融機関に持ち込むと、さらに500万円借りられます。「誰でも1000万円のお金を借りられますよ。だから創業してください」というのが国が用意した創業支援策です。

 

しかし、どちらも融資ですから、ベンチャー企業を支援するのに向いた資金ではありません。

 

さらに言えば、信用保証協会を利用した融資にも連帯保証が必要です。

 

「信用保証協会が保証しているのに、連帯保証をとるのはおかしい」ということで社会問題になり、第三者の連帯保証はほとんどなくなりました。それをもって「連帯保証はなくなった」と言われていますが、まったくの間違いです。

 

社長以外の第三者の連帯保証は原則禁止されただけで、社長は連帯保証を求められます。

 

国の支援策を利用して会社名義で借金をして会社を起こしたとしても、会社が借金を返せなくなれば、社長個人が返さなければなりません。返済できなければ、身ぐるみ剥(は)がれてしまう可能性があります。

 

有限責任の原則によって守られているのは、0.2%の上場企業の経営者だけで、中小企業の大半の経営者は、無限責任に近いくらいに、とことん責任を負わされます。それが、開業率が高まらない要因の一つだと考えています。

 

 

佐藤 公信

株式会社パブリックトラスト代表取締役

 

本連載は、投資を促したり、特定のサービスへの勧誘を目的としたものではございません。また、投資にはリスクがあります。投資はリスクを十分に考慮し、読者の判断で行ってください。なお、執筆者、製作者、日本文芸社、幻冬舎グループは、本連載の情報によって生じた一切の損害の責任を負いません。

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