自分の思い描いた人生を後見人に託す「任意後見制度」
成年後見制度のもうひとつの柱である「任意後見制度」についてご説明します。
任意後見制度は、認知能力が低下する前にあらかじめ任意後見人になる人を決めて、その人と契約を結び、将来、認知症などで判断能力が不十分になったときに支援を受ける制度です。契約は公正証書で行います。任意後見人は、相手の同意さえ得られれば、本人が自由に選ぶことができます。ここが、法定後見制度で選任される成年後見人とは大きく違うところです。
法定後見制度は、「もうこの人には判断能力がありません。自分で物事を決めることができません」という段階になったときに、後見人が選任される制度です。つまり、この段階に達したときには、本人にはすでに、「自分が判断能力を失った後、どのような環境でどのような生活を送りたかったか」を伝えるすべはありません。後見人がついた後の自分の人生を自分で決めることはもはや不可能で、自分以外の人に託すしかなくなっているのです。
一方、任意後見制度は、認知能力がしっかりしているときに、後見人として信頼できる人を自分で選び、「将来、もし自分が認知症になって判断能力がなくなったとしても、こんなふうにしてほしい」ということを、託すことができる制度です。生活や療養看護の環境、財産管理などについて、任意後見人に代理権を与える契約を結ぶことによって、最後まで自分の人生を自由に思い描き、実行するのを可能にする制度なのです。
オーダーメイドの老後プランを実現することも可能
本連載の第5回の事例で、資産が5億円もあるのに、設備もサービスもよくない施設に入った人の例を取り上げましたが、こんな人にこそ任意後見制度を利用してもらい、事前に将来のことを決めて、最後まで自分らしく生き抜いてほしいと思います。
例えば、任意後見制度を利用すれば、こんなことまで決めておくことができるのです。
「自分が将来、認知症になって施設に入るようになったとしたら、これくらいのグレードの施設に入居させてほしい。ベッドも枕も、○○という銘柄のものが気に入っているので、施設の自分の部屋では、それを使ってほしい」
まさにオーダーメイドの老後プランをつくり、それが実行されるように細かく契約で決めることができるのが、任意後見制度です。
自分の人生を思うままに自由にデザインし、認知症を発症した後も自分らしく尊厳のある人生を送るのに役立つ制度、ということができるでしょう。