前回は、「3RICH」を目指す上で押さえておくべきポイントを紹介しました。今回は、アーリーリタイア実現に向けたライフプラン策定の具体例について見ていきます。

勤務医の段階から早期に準備し、資金調達等に備える

開業前の勤務医、もしくは開業してから5年未満の開業医は、まず医院を開設して医院経営を軌道に乗せることが最優先事項になります。

 

開業医が成功するためには、医療技術が高いということはいうまでもありませんが、地域のニーズを的確に把握するといったマーケティング力も必要となります。

 

また、ある程度年齢を重ねてから開業する人の場合は、10年後、15年後にリタイアを考えなくてはならないため、短期間でリタイア後の収入を確保しなければならず、できるだけ早めに準備を進める必要があります。

 

事業承継によって20代から開業される人たちも、医院経営だけに注力するのではなく、将来の目標を設定して、金融機関などからの信用を獲得しておくといいでしょう。たとえば医療法人を設立して分院を数多く作り、自分はいずれ全体の理事長に就くといった具体的なプランがあったほうが、資金調達もしやすくなります。

 

このように最初の段階では、将来像をきちんと描いて、その目標に向かって早めにスタートさせることが大切になります。地方の人口が大きく減少していく事態が予想される現在、こうした未来を予想して、早めに対策が打てるのも、このステージの特徴と言えます。

大まかな青写真を描き、課題を明確にする

【相談時の状況】

愛知県名古屋市歯科医院分院長Nさん(勤務医)36歳

家族構成:妻(専業主婦)36歳、子供5歳、3歳

年収:1600万円

資産:預貯金2500万円

 

勤務医として現在の医療法人に籍を置いて約10年。年収は固定給+成果報酬で約1600万円です。Nさんの悩みは、このまま勤務医を続けていくのか、それとも開業医として再出発するのか・・・今後のキャリアプランを見直して、自分の人生を再設計したいと相談に来られました。

 

Nさんに将来の夢について伺ったところ、次のような明確なビジョンをお持ちでした。

 

●できれば60歳でリタイアして、故郷の北海道で小さな牧場をやってみたい

●それまでに牧場ができる土地を購入し、リタイア後の収入は年間で1000万円(月額約80万円)を確保できるようにしたい

 

Nさんの場合、リタイア後の年収1000万円をどう確保するのかがポイントでした。

 

もともと開業の意思が強く、アーリーリタイアも希望されていたので、個人事業と資産形成を同時に行うプランを一緒に考えました。お子さんの年齢も考慮して、現実的に60歳、遅くても65歳でリタイアできる状態が構築できるようポイントをまとめることにしたのです。

 

その結果、今までの経験を活かして開業し、20〜25年でリタイアできる将来のビジョンを次のように作成しました。

 

①キャリアプラン・・・4年後の40歳には開業、それまでは開業資金を準備

 

②開業後10年間・・・教育資金の準備と余剰金で、出来る限りの資産形成を始める

 

③子供の進路確定後・・・60歳で収入転換、65歳の完全リタイアに向けて積極的に資産形成を行う

 

④60歳時点・・・長男が29歳、歯学部を卒業し承継の意思があれば、引き継ぎ準備を始める。後継者候補がいなければ、クリニックのゴールを決める(廃院、売却など)

 

⑤65歳時点・・・年間1000万円の資産収入を確保し、北海道にて牧場経営をスタート

 

最初の段階では、こうしてざっくりとした青写真を描き、リタイアまでのイメージを掴んでいただくことが大切です。Nさんも、具体的なライフプランを設計することで、現在や今後の課題が明確になったと大変喜ばれていました。

 

[図表]NさんのCASE

計画が実現可能なものか、時間をかけて検討する

その後は、開業資金の準備と大まかな事業計画書の作成に取りかかりました。

 

現在の勤務地は名古屋でも人口が集中している都心部にあります。勤務医として10年のキャリアがあり、馴染みの患者さんもいらっしゃるので近場での開院を希望されていましたが、すでに歯科医院は過密状態にありました。

 

そのため、他の候補地として自宅のある郊外の住宅地の検討をお勧めしました。最近交通網が整備されたことで、今後の住宅需要が見込まれる場所です。長時間勤務でお子様との時間があまりとれていなかったことも考慮しました。

 

開業資金としては4000万円を想定。現在の預貯金は2500万円ですので、預入先である信用金庫に融資を受ければ、十分対応可能な範囲です。しかし、開院後の運転資金を考慮して、あとプラス1000万円の資金を貯めることを目標としました。

 

Nさんの場合、早めに相談いただいたことが一番のポイントでした。最近、開業で失敗している方の場合、ご自身でざっくりとしたプランニングをしたり、得体の知れないコンサルタントに資金計画を任せてしまい、1年ほどで廃院に追い込まれたケースがありました。

 

スタートでつまずいてしまってはその後の資産形成がうまくいくわけがありません。ファイナンシャルゴールまでの道のりが実現可能なものかどうか、様々な状況を踏まえたうえで、じっくりと検討する時間が必要なのです。

 

現在、Nさんは2つの候補地を検討しながら、2年後の開業に向けて日々忙しくご準備をされています。 

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    本連載は、2015年8月4日刊行の書籍『開業医のための資産形成術』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    恒吉 雅顕

    幻冬舎メディアコンサルティング

    かつて開業医は、勤務医より圧倒的に収入が多く、リタイア後の悠々自適な生活を保障されていたことから、将来安泰な職業だと言われていました。しかし今、税制改革による富裕層への増税や、2025年問題へ向けた医療制度改正によ…

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