注目された米中首脳会談では、対中追加関税を一時的に見送ることで合意し、貿易摩擦の更なる悪化はひとまず回避されました。しかし、ブレグジット(英国の欧州連合(EU)離脱)問題を巡り、新たな火種が燻り始めており、世界株式市場は当面、不安定な相場展開が続きそうです。
一難去ってまた一難。12月はリスク・イベントに事欠かない
米中両国は現地12月1日の米中首脳会談で、米国が2019年1月から予定していた中国製品に対する追加関税率の引き上げを猶予することで合意し、貿易戦争はひとまず休戦状態に入りました。現地12月3日の世界の株式市場は、このニュースを好感するかたちで上昇する展開となったほか、オフショア人民元(対米ドル)も人民元高へシフトしました。
しかし、米中貿易問題は引き続き協議される予定で、90日以内に合意できなければ、2,000億ドル分の中国製品に対し追加関税率が10%から25%へ引き上げられるため、いまだ予断を許さない状況です。さらに、足元で燻り始めているのが英国のブレグジット問題です。英国はメイ首相がEU各首脳との間で合意に至った離脱案を、12月11日に議会で採決する予定です。しかし、英国の与野党からはアイルランドの国境問題等で厳しい批判を受けており、議会承認を得られるかは不透明な状況です。仮に、採決で離脱案が否決された場合、マーケットはEUとの合意がない「無秩序なEU離脱リスク」を一部織り込みにいくことが想定されます。英ポンドを見るかぎり、無秩序なEU離脱リスクはほとんど織り込まれていないため、12月11日は比較的大きなリスク・イベントになる可能性があります。
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[図表1]世界の主要株式市場の推移
[図表2]英ポンドとオフショア人民元(対米ドル)
EU離脱案が否決されれば、テール・リスクが意識される局面に
イングランド銀行(中央銀行)によれば、仮に英国が無秩序なEU離脱を選択した場合、英国経済は2019年1-3月期のGDP水準から最大8%減少し、リーマンショック時を超える可能性があると試算しています。
[図表3]無秩序なEU離脱による英国経済への影響(最大)
また、英国はデリバティブ(金融派生商品)市場の精算拠点としても重要です。現状、英金融規制は(期限付きで)EU規制との同等性評価が得られる見込みですが、ブレグジット後に満期を迎える店頭デリバティブ契約は、名目想定元本で45兆ポンド(約6,500兆円)に及ぶため、マーケットが多少なりとも動揺する可能性があります。このため、確率としては低いものの、発生した場合の影響が大きいテール・リスクの可能性について、警戒すべき局面かもしれません。
(2018年12月4日)
田中純平
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト
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