今週(11/27〜12/3)の国際マーケット展望。25日、臨時EU首脳会談にて、英国のEU離脱条件が正式に合意された。EU側はこの合意案への「代替案」はないとしており、今後、英国議会での採決次第で混乱も予想される。英国の離脱問題以外にもEUはイタリア予算案、ドイツ銀行の資金洗浄疑惑と波乱要因を抱えており、注意が必要である。今週末にはG20サミットが開かれる。貿易摩擦を巡るトランプ米大統領と習近平中華首席の接近にも注目したい。

ブレグジット…英議会は「合意案」を受け入れるか

欧州連合(EU)は25日に臨時EU首脳会議を開催し、英国のEU離脱条件で正式に合意した。合意案の審議の舞台は、英国議会に移り、メイ英内閣は12月中に採決を目指す考えである。しかし、離脱案に対しては、与党保守党内部でも反対する声があり、強い抵抗が予想される。

 

EUは、声明で今回の合意案に代替案はないとして、英国議会に対して早くも警告するという異例の合意である。合意案は、英国とEU間が自由貿易圏を創設し、規制・関税面で密接に協力するという内容で、離脱交渉で最も難航したアイルランド国境問題に関しては、EUと英国双方が永続的な解決策に取り組むとの宣言にとどまったものだが、合意なき英国のEU離脱よりはマシといえる。

 

英議会が今回の合意案を否決した場合、英国は来年3月29日に合意がないままEUを離脱することとなり、何の移行期間も設定されず、EUにも英国にも混乱が予想される。

 

 

ハモンド英財務相は、「無秩序な状態が続いて起き、EU離脱自体がなくなるかもしれないという可能性」にも触れ「EUからの円滑な離脱を秩序立って実行することは、英国経済にとって数百億ポンド相当の価値」があるとコメントしている。12月中も、ポンド、ユーロとも英国議会の成り行きに左右される展開が続きそうである。

イタリア予算案…ESIFの支援が凍結される可能性も

また、イタリアの財政問題を巡ってのEU内の不協和音も気がかりである。欧州委員会は先週21日、イタリアの2019年予算案について、公的債務に歯止めをかけるEUの財政規律に沿っていないとの見解を表明した。

 

欧州委員会は、債務比率の高い国には財政を均衡させ債務を減らすことを求めており、一国の財政規律の欠如がEU全体に波及し、混乱を起こしかねないことを危惧している。24日には、ユンケル欧州委員長とコンテ伊首相がこの問題を巡って会談したが、意見のすり合わせはうまくいかず、さらに協議を続けるとして結論を先送りした。イタリアの抱える財政赤字や公的債務は、EU内で問題視されており、イタリアの予算案への批判は強まっている。

 

協議が不調に終わった場合には、欧州委員会はイタリアに対して「過剰財政赤字是正措置(EDP)」を発動することになっている。この場合、イタリアには同国GDP比0.2%相当の罰金が課されるうえ、欧州構造投資基金(ESIF)からの支援が凍結されることになる。イタリアは2014年から2020年までの間に、同基金から427.7億ユーロという多額の資金支援を受ける予定だが、これが凍結された場合には、影響は極めて大きい。

 

冷静に考えれば、EUに許容されない財政赤字を拡大するような予算案を優先するよりも、上記のようなEUからの事実上のペナルティを受けることによる不利益を被ることの方が経済的な悪影響が大きい。

ドイツ銀行…欧州最大級の資金洗浄疑惑へ関与の疑い

欧州関連では、先週、ドイツ銀行の株価が、欧州最大級の資金洗浄疑惑への関与の疑いから大きく下げ、安値を更新した。デンマークの大手銀行であるダンスケ銀行の資金洗浄疑惑は、2300億ドル(約26兆円)という大規模なもので、ドイツ銀行の米国部門がコルレス銀行(中継銀行)として関与していたという情報が発端となっている。これも波乱要因として要注意であろう。

 

なお、今週末には、アルゼンチンで開かれる20カ国・地域(G20)サミットに出席するトランプ米大統領と習近平中国国家主席が首脳会議を行う予定である。米中両国は、首脳会談を前に協議を続け、内容を詰めていると伝えられ、双方の歩み寄りや対立緩和への期待が高まっている。貿易摩擦の問題は、短期的に雲散霧消するようなものではなく、より長期的な問題として残るだろうが、両大国の歩み寄りは市場に好感される可能性は高いだろう。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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