今週28日、パウエルFRB議長の発言に政策金利に関する表現の変化があったことを市場が好感、それを受け、米株式市場は大幅高となった。翌29日に発表された11月のFOMC議事録を読み解くと、利上げ姿勢の変化に際し市場との対話を巡る伝達方法について議論を始めることについて記述されており、政策スタンスに変更が出てくる可能性も読み取れる。しかし米経済指標からは賃金とインフレの抑制は未だ必要と読めるため、利上げの打ち止めを語るには時期尚早とも言えるのではないか。

パウエルFRB議長の表現に変化…米株式市場は大幅高

今週28日、パウエルFRB議長が、現在の米国の政策金利は中立とされるレンジを「わずかに下回る」水準にあると述べたことから、今後のFRBの利上げ姿勢がこれまで市場が想定していたものより、柔軟になるとの見方が広がった。米ドル金利は低下、為替市場でも米ドルは売られ、株式市場に至っては8か月ぶりの大幅高となった。

 

9月の今年3回目の利上げ以降、市場に対して金利の上昇に備えるよう繰り返し述べていたパウエル議長は、先月には政策金利について「中立スタンスとされる金利まで長い道のりがある」とコメントしていた。実際、市場は金利の上昇に過敏に反応するほどになっていた。長期金利(10年米国債金利)は3.00%近辺から一時3.26%にまで上昇し、市場はアレルギー反応を見せていたほどである。ところが今回、パウエル議長は、政策金利が中立金利から「わずかに下回る」水準にあると、表現を変えてきたのである。この変化から、市場は、今後の利上げの幅がそれほど大きくならないと受け止めた。

FOMC議事録に「市場との対話」に関するくだりが

パウエル議長の表現の変化の背景は、翌日29日にFRBが公表した11月7・8日の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を読み込むと理解できるだろう。議事録には注目すべき点が二つある。ひとつは、今後の追加利上げについて、それほど時間をおかず正当化される公算が大きいとの見解で委員会のメンバーが一致したとしている。利上げはまだ終わりではなく、現在の物価指標からは、12月のFOMCでの利上げが予想されている。これは今までのFOMCの流れを汲むものだ。

 

もうひとつは、利上げの打ち止め時期やこれまで利上げを断続的に続けてきた利上げ姿勢が変わる場合に、市場との対話のための伝達方法を巡って議論を始めるとのくだりが入ってきたことである。つまり、断続的に実施してきた利上げの終焉をFOMCのメンバーが意識し始めたことを意味するのかもしれない。ここから政策スタンスに何らかの変更が出てくる可能性をかぎ取ることもできよう。

 

前回9月に利上げを実施してから、11月のFOMCまでには、利上げによる長短金利の上昇と資産価格の下落があった。金融状況の逼迫(ひっぱく)や海外リスク、金利動向に敏感なセクターの減速兆候などは、政策決定の際により配慮を要するようになり、景気動向によっては、FOMCが金融政策のスタンスをより柔軟に変化させることになると市場は読み取ったのである。 

経済指標を読む…賃金とインフレの抑制は未だ必要か

ただ、今回のパウエル議長の発言を、市場はやや好意的に解釈しすぎたように、筆者は感じている。米国経済の現状を示す経済指標は、賃金とインフレを抑制するために、まだ利上げが必要なことを示している。それらを注視すべき段階だということは変化がない。このところのFOMC議事録には、景気拡大が継続していることから「段階的な利上げ」が適切であるとの文言が必ずあった。12月のFOMCでは、これが削除されるかどうか?2018年の4回目の利上げ実施よりも、2019年の金融政策についての判断を、市場とどう対話するかが注目される。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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