認知能力低下前に財産管理を任せる「任意後見制度」
【ステップ1 任意後見制度について知る】
先行きを考えるとぼんやりした不安に包まれる鬱陶しい日々が続くなか、一夫さんは久しぶりに大学のサークルの同窓会に参加しました。
気の置けない仲間に会えた楽しさもさることながら、一夫さんにとって一番の収穫は、「認知症になってからのことを、事前に決めて、託す制度がある」ということを知ったことでした。「任意後見制度」という制度で、地方で病院経営をしている友人が病院の顧問弁護士からの提案を受け、「こんなにいい制度があるのか!」と驚いたというのです。
「うちには子どもがいないから、将来、認知症になって自分の金の管理もできなくなったらどうしようって、女房と話していたんだよ。親戚たちにいいようにやられちゃかなわないからな。財産管理を任せることができることに、何より安心したよ」というのを聞き、自分にもそうしたサポートが必要なのではないかと思うようになりました。
任意後見人には、親族、特に子どもが選任されているケースが多いのが現状です。一夫さんには2人の息子がいますが、長男はアメリカ在住なので、後見人の役割を果たしてもらうのは現実的に難しいでしょう。
次男に対しては、近くに住む妻の実家の両親に気に入られ、親しく付き合っているようなので、自分たちのことで負担をかけたくないという思いがあります。ですから必然的に、友人のように弁護士などの第三者を選任することになります。仮に子どもが後見人になれる状況にあったとしても、子どもを選任するのは、あまりお勧めしません。というのも、相続という観点からすると、親と子は利益相反の関係にあるからです。
子どもは結局「利益相反の関係」にある!?
子どもの側からすれば、親があまりお金を使わず、たくさんのお金を残してくれればくれるほど、相続財産として自分たちに入ってくることになります。しかし、親が自分たちのために多くのお金を使ってしまったら、自分たちに残されるものが少なくなってしまいます。「まさか、うちの子どもはそんなふうには思わないだろう」と、思う人が多いかもしれません。
しかし現実に、資産家であるにも拘らず、認知能力低下とともに子どもに財産を握られてしまい、サービスのよくない介護施設で煎餅蒲団に寝かされている人が世の中にはたくさんいるのです。財産持ちの親は、しっかりしていた頃は子どもの間で奪い合いの人気者ですが、認知能力が不十分になったとたん、厄介者扱いされ、財産を握られ、お金をかけてもらえなくなる、というのが悲しい現実です。
先ほど筆者は法定後見制度のところで、「成年後見人は財産をできる限り多く残そうとするあまり、本人や配偶者のためになるようなところで、お金を使ってくれないことがある」とお話ししました。それと同じことが、利益相反の関係にある子どもを任意後見人に選ぶことで、起こってくる可能性が極めて高いのです。
子ども間の争いの種となり得るのは、言うに及ばずです。子どものうちの一人が後見人になったところ、親のお金を自由に使ってしまい、亡くなった後、何も残っていなかった、という事例を、筆者は多く見聞きしてきました。
結局、一夫さんは、友人の例にならって、自分も第三者にして法律の専門家である弁護士に、任意後見人を依頼しようと考えました。