エクセルすら使えない弁護士がいる!?
適正な財産管理を行うための第一歩は、全財産の洗い出しをすることから始まります。不動産の他に、依頼人自身が忘れていることが多いものの一つに、保険契約があります。
任意後見人受任者たるもの、依頼人のこうした「記憶の漏れ」に気づき、逆に忘れていることを指摘するくらいの力量が欲しいものです。依頼者の通帳に目を通したとき、「この日に保険料が引き落とされていますが、何か保険に入っているんじゃないですか?」など、即座に気づく、数字的なセンスを持っていることが大切なのです。
しかし残念なことに、弁護士の多くは言語を扱うことにかけては誰にも引けを取りません
が、数字に弱い人が少なくありません。
これを言うと驚かれますが、いまだに表作成にワード(文書作成ソフトの一種)を使っている弁護士が、非常に多いのです。ご存じの方も多いと思いますが、ワードでは自動表計算ができません。表計算ならエクセルという表計算ソフトが最も便利です。
それなのになぜワードを使うかというと、表計算ソフトの代表格であるエクセルを使いこなすことができないからです。そのため弁護士の多くが、電卓で手計算したものをワードで作った表に打ち込む、という前時代的なやり方をいまだにしているのです。笑い話のようですが、実話です。エクセルを使いこなすことのできない弁護士が、果たして数字に強いといえるのでしょうか。疑問が残るところです。
依頼人も気づかない「願い」を引き出してくれるか?
法律的に物事を解決する能力はもちろん、それにプラスして財務的なセンスを併せ持っていて初めて、財産管理についての適切なアドバイスが可能になるのです。財務的なセンスを持った弁護士なら、まず財源の確保という観点から、問題に取り組んでくれることでしょう。
限りある財産のなかで、依頼人が本当にやりたいことは何なのか、何が可能で何が不可能なのか、本人も気づかない願望を引き出してくれます。
例えば次のような手順だと、納得感のあるプランニングができる場合が多いようです。
① どんな老後を送りたいのかを明確にする
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② それにはどれだけお金がいるのかを計算してもらう
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③ 現在の資産状況でそれが可能なのかを判断してもらう
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④ 願望を実現可能にするために、今あるものを利用したプランを考えてもらう
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⑤ 子どもにどれくらい残すのか、目安を決める
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⑥ 相続税の負担を軽くするにはどうすればいいのか、今、やれることを考えてもらう
これで、十分に満足するプランを作ることができます。
弁護士に依頼する側の「2つの心得」とは?
任意後見契約を実りあるものにするには、力量のあるいい弁護士を選ぶことが大切ですが、依頼する側にも注意してほしい点が2つあります。
第一に「正直に、ありのままを話す」ということです。依頼者のなかには、自分にとって不利なことを隠し続ける人がいます。弁護士がいくら有能でも、依頼者から得られる情報が正確でなければ、有効な対策の立てようがありません。「こんなことを知ったら驚くのでは?」とか「家の恥だから、このことは秘密にしておこう」といった考えは捨ててください。
弁護士はドラマ顔負けの数々の修羅場を見聞きしているので、ちょっとやそっとでは驚きません。「出せる情報は全部出す」つもりで、正直に話してください。
第二に、「自分の考えに固執するのもやめる」ことを心がけてください。依頼者のなかには、何を言っても耳を貸してくれない人がいます。これは非常にもったいないことです。
専門家のアドバイスが欲しくて弁護士を訪ねてきているのに、そのアドバイスを頑固にはねつけるのでは、意味がありません。弁護士活用の効果を最大限にするために、まずは自分の考えは横に置いて、弁護士の言うことに耳を傾け、その内容を咀嚼してほしいと思います。
弁護士は誰でも、できる限り依頼者の望むことを実現したいと考えています。しかし、依頼者が自分の考えに固執し、その内容が依頼者自身の不利になるようであれば、弁護士としては見過ごすことができません。弁護士には依頼者の利益を守る義務があります。
その意味では、決して譲れない部分があるということを、理解してほしいと思います。「必要なことは、正直に全て打ち明ける」「弁護士の意見を聞き、その内容をよく咀嚼する」この2点を守ることができれば、弁護士といい関係を築くことができるでしょう。
子どもに契約締結を報告するか否かは「親子関係」次第
任意後見契約を締結するまでに、弁護士は依頼人に入出金が記帳された預金通帳も含め、株式や有価証券、登記簿謄本など、財産関係の書類を全て見せてもらい、財産の一覧を作ります。多くの場合、契約まで3回ほど弁護士と面談することになるでしょう。
子どもに任意後見契約をすることを告げるか告げないかは、依頼人に個別に判断してもらいます。弁護士から「お子さんの了承を得てください」と言うことはありません。
先ほども触れたように、親と子は、相続財産という観点からすると、利益相反の関係になります。場合によっては、弁護士と任意後見契約を結ぶことで、親子関係がギクシャクすることもあり得ます。
「お父さんとお母さんにも、自分たちの人生がある。私たちはこんなふうに、残りの人生を生きていきたいと考えている。あなたたちにはこれだけ残すから、了解してほしい」と、子どもたちに告げることが望ましいですが、それも親子関係次第でしょう。
眞鍋 淳也
南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員
一般社団法人社長の終活研究会 代表理事 弁護士/公認会計士