自分の思い描いた人生を後見人に託す「任意後見制度」
法定後見制度とならび、成年後見制度のもうひとつの柱である「任意後見制度」についてご説明します。
任意後見制度は、認知能力が低下する前にあらかじめ任意後見人になる人を決めて、その人と契約を結び、将来、認知症などで判断能力が不十分になったときに支援を受ける制度です。契約は公正証書で行います。任意後見人は、相手の同意さえ得られれば、本人が自由に選ぶことができます。ここが、法定後見制度で選任される成年後見人とは大きく違うところです。
法定後見制度は、「もうこの人には判断能力がありません。自分で物事を決めることができません」という段階になったときに、後見人が選任される制度です。つまり、この段階に達したときには、本人にはすでに、「自分が判断能力を失った後、どのような環境でどのような生活を送りたかったか」を伝えるすべはありません。後見人がついた後の自分の人生を自分で決めることはもはや不可能で、自分以外の人に託すしかなくなっているのです。
一方、任意後見制度は、認知能力がしっかりしているときに、後見人として信頼できる人を自分で選び、「将来、もし自分が認知症になって判断能力がなくなったとしても、こんなふうにしてほしい」ということを、託すことができる制度です。生活や療養看護の環境、財産管理などについて、任意後見人に代理権を与える契約を結ぶことによって、最後まで自分の人生を自由に思い描き、実行するのを可能にする制度なのです。
オーダーメイドの老後プランを実現することも可能
資産が5億円もあるのに、設備もサービスもよくない施設に入った人の例を取り上げましたが(関連記事『親族や弁護士までも財産を横領…?「法定後見制度」の危ない話』参照)、こんな人にこそ任意後見制度を利用してもらい、事前に将来のことを決めて、最後まで自分らしく生き抜いてほしいと思います。
例えば、任意後見制度を利用すれば、こんなことまで決めておくことができるのです。
「自分が将来、認知症になって施設に入るようになったとしたら、これくらいのグレードの施設に入居させてほしい。ベッドも枕も、○○という銘柄のものが気に入っているので、施設の自分の部屋では、それを使ってほしい」
まさにオーダーメイドの老後プランをつくり、それが実行されるように細かく契約で決めることができるのが、任意後見制度です。
自分の人生を思うままに自由にデザインし、認知症を発症した後も自分らしく尊厳のある人生を送るのに役立つ制度、ということができるでしょう。
状況に合わせて本人が選べる「3つ」のタイプ
任意後見契約には、本人の生活状態や健康状態によって、次の3つの利用形態があります。このなかから本人が自由に選ぶことができます。
①「即効型」任意後見契約
任意後見契約を締結した後、ただちに家庭裁判所に任意後見監督人の申し立てを行うというものです。契約時にすでに判断能力が低下し始めていて、すぐに任意後見を開始したいという場合には、これを選ぶといいでしょう。
②「将来型」任意後見契約
通常、任意後見契約を締結するときは、同時に生活支援や療養看護、財産管理などに関することについての委任契約を結びます。このタイプは、後述の「移行型」のような委任契約は結ばず、任意後見契約のみを締結して、判断能力が低下してから任意後見人の保護を受けるというものです。
③「移行型」任意後見契約
最も使い勝手がよく、任意後見制度の良さが発揮できるタイプの契約で、任意後見契約の締結と同時に、生活支援や療養看護(見守り契約)、財産管理など(財産管理契約)に関する委任契約を締結するというものです。当初は委任契約に基づく見守り事務、財産管理などを行い、本人の判断能力低下後に任意後見に移行していきます。
「まだ判断力がある」段階からのサポートも可能
任意後見制度を利用する人にとって有用なのは、最後にご紹介した「移行型」任意後見契
約でしょう。高齢者のなかには、まだ判断能力は低下してはいないものの、足腰が弱って銀行に足を運ぶのも大変だったり、細かい字が読みづらいために、通帳の数字がよく見えなくて財産管理が難しくなったりしている人が少なくありません。
財産管理契約を締結すれば、こうしたことを任意後見契約が発動する前(判断能力が低下する前)から、任意後見受任者(いずれ任意後見人になる人)に委任することができるのです。委任できる内容としては、
●財産の保存、管理
●金融機関との預貯金取引
●定期的な収入の受領や支出、費用の支払い
●生活費の送金、生活に必要な財産の購入
など、本人の希望に応じて多岐にわたります。その他、借地や借家などの賃貸不動産を持っている人であれば、それらの管理を任せることも可能です。個々人のニーズに対してフレキシブルに対応できるため、積極的に利用したいものです。