定期的な連絡で認知能力を把握する「見守り契約」
まだ判断力がある段階から、財産管理をサポートしてもらえる財産管理契約と並んで、活用を検討したいのが「見守り契約」です。見守り契約とは、任意後見制度が始まるまでの間、任意後見人候補者が本人と電話などで連絡を取り合ったり、定期的に訪問したりする契約です。
定期的に連絡を取り合うことで、本人は健康面の変化や悩みごとの相談をすることができ、後見人となる人の側にも本人の判断能力がどの程度なのかを確認することができるというメリットがあります。
任意後見制度は、判断能力が低下してきたときに、本人や配偶者、四親等以内の親族、あるいは任意後見受任者によって任意後見開始の申し立てを行い、これを受けて家庭裁判所が任意後見監督人を選任することによって、任意後見契約がスタートできる仕組みになっています。
任意後見契約は申し立てによって発動する
任意後見監督人は、裁判所により選任されます。任意後見人が任意後見契約の内容通りに、適正に仕事をしているか、任意後見人に財産目録などを提出させ、監督するためです。任意後見人が親族などで、本人と任意後見人の利益が相反するような法律行為を行うときは、任意後見監督人が本人を代理することもあります。その際、任意後見監督人はその内容について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。
任意後見契約は申し立てによって発動する仕組みなので、誰かが申し立てをしないことには、契約を生かすことができません。任意後見契約を適切な時期にスタートさせるためにも、見守り契約を結んで、定期的に面談を行ったり電話等で連絡を取り合ったりして、本人の認知能力の状態をチェックしてもらうことは、非常に重要になります。
使い方次第では悪用される可能性もある任意後見制度
任意後見人には、本人の代理権が与えられます。任意後見契約締結時に、見守り契約や財産管理契約も併せて締結することで、高齢世帯にとっては非常に使い勝手のよいものになるということが、本連載の第6~8回でお分かりいただけたことと思います。
しかしひとつ、重大な問題があります。それは「誰を後見人に選ぶか」ということです。誰が後見人になるかで、この制度が実りあるものになるか、ならないかが決まると言っても過言ではありません。というのも、この制度は使い方次第で悪用される可能性があるからです。
契約発動前の後見人を監視する人は誰もいない
財産管理契約を締結すると、任意後見受任者は本人の代理として、通帳や印鑑を預かることができます。この段階では、まだ本人に十分な認知能力があるため、任意後見契約は発動していません。任意後見契約が発動すると、任意後見監督人がつきます。任意後見人は帳簿つけをするなど、財産管理をしっかり行い、任意後見監督人に財産目録等を提出しなければなりません。一切のごまかしがきかなくなるのです。
ところが、任意後見契約発動前の、財産管理契約に基づく財産管理を行う段階では、任意
後見受任者に監督人はつきません。これは何を意味するのでしょうか? 察しのいい皆さんなら、もうお分かりのことでしょう。任意後見人受任者に悪意があれば、「通帳も印鑑も握った。うるさい監督人もいなくて、やりたい放題」ということになるのです。
ですから、任意後見人には、絶対的に信頼がおける人を選ばなければなりません。悪質な人を選んでしまうと、本人の認知能力が低下してきて、任意後見契約を発動すべき時期になっても、申し立てを行わず、財産管理と称して横領を続けるということになりかねないのです。
眞鍋 淳也
南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員
一般社団法人社長の終活研究会 代表理事 弁護士/公認会計士