今日のヘッドライン2018年11月12日号で指摘したように、英国とEUの離脱合意ではなく、離脱合意をまとめた協定草案を英国議会が受け入れられるかに問題の焦点が移っています。辞任を表明した閣僚の意見を集約すると、協定草案を拒否する理由は、アイルランド国境問題の解決方法と、英国がEUの裁量で関税同盟にとどまる点と見られます。
英EU離脱担当相辞任:英国とEUの離脱協定案の承認に抗議の動き
英国のラーブ欧州連合(EU)離脱担当相は2018年11月15日、英政府が承認したEUとの離脱協定草案に反発して辞任しました。同様の理由で、他の閣僚などの辞任が続いており、メイ政権の求心力低下が懸念されます。
英国の政治不安が高まったことから、ポンド安が進行し、英国国債も来年の利上げ観測が後退し利回りは大幅に低下(価格は上昇)しました。
どこに注目すべきか:離脱協定草案、国境問題、関税同盟
今日のヘッドライン2018年11月12日号で指摘したように、英国とEUの離脱合意ではなく、離脱合意をまとめた協定草案を英国議会が受け入れられるかに問題の焦点が移っています。辞任を表明した閣僚の意見を集約すると、協定草案を拒否する理由は、アイルランド国境問題の解決方法と、英国がEUの裁量で関税同盟にとどまる点と見られます。
英国のEU離脱を巡る混乱が深まっています。まず、解消困難な問題のひとつアイルランド国境問題を振り返ります。
英国は正式にはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国と表記されます。アイルランドは英国(グレートブリテン大国)に併合されました(図表参照)。その後20世紀はじめにアイルランドは独立を目指し英国(当時)と戦争となり、1922年に現在のアイルランドとなるアイルランド自由国と、英国領を希望した北アイルランドが分かれることとなります。先の英国の正式名称は22年から使用されています。
[図表]アイルランドの主な歴史上の出来事
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アイルランドは49年に英連邦を離脱し、独立国となっています。なお、60~90年代には英国統治を望む北アイルランドのプロテスタント系と、アイルランド併合(統一)を目指すカトリック系が武力闘争を繰り広げました。その後和平の機運が高まり98年に、北アイルランドの帰属は住民に託すことなどで合意しました(ベルファスト合意)。和平に合意できたことで、紛争により厳格であった北アイルランドとアイルランドの国境は緩やかとなりました。英国とアイルランドは共に73年にEC(EUの前身)に加盟しており、アイルランドに国境の必要性が無いという好条件が、今日まで続いています。
問題は、英国がEUを離脱すると、国境を接するアイルランドと北アイルランドで税制などが異なるため国境復活が懸念されることです。EUと英国は厳格な国境(ハードボーダー)の回避を目指すことで合意していますが、今回の草案で緩やかな国境(ソフトボーダー)維持の条件は厳しい内容となっています。例えば、20年半ばまでにハードボーダー回避の解決策が見つからない場合、英国は移行期間延長か、EUの関税同盟に残るかの選択肢しかないからです。解決策がなければ英国が永遠に関税同盟に残る理屈となり、英国の強硬派には受け入れがたい内容です。また親EU派にとっても、英国が関税同盟離脱の時期を決められない点などに不満が高まっています。今回の合意草案への批判が強い背景と見られます。
なお、草案の合意前には、アイデアとして、北アイルランドをEUの関税同盟に残して、英国の他の地域は新たな制度を適用する案も見られましたが、その場合、英国が1国2制度となってしまい、メイ首相は拒否しています。メイ政権は北アイルランドの英国にとどまることを支持する統一民主党(DUP、与党に閣外協力する北アイルランドの地域政党)の協力でギリギリ政権を維持しています。ハードボーダー回避の解決には時間がかかることが想定されます。
最後に、メイ首相の言葉で気になったのは「選択肢は3つ、今回の合意(秩序ある離脱)か、合意拒否(無秩序な離脱)か離脱なし(再国民投票のことと見られる)」と迫ったことです。さすがに無秩序な離脱は回避の見方が優勢とみていますが。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『やはり簡単ではなかった、アイルランド国境問題』を参照)。
(2018年11月19日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト
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