商標権訴訟の事例「モンシュシュ事件」
今回は、会社を経営するにあたり知っておきたい知的財産権の知識についてお話しします。
知的財産とは、一言でいうと、財産的な価値のある情報です。そして、それらの財産を法的に保護する権利として特許権や著作権、商標権などの知的財産権が定められています。
みなさんはモンシュシュ事件って知っていますか?
有名な洋菓子「堂島ロール」を販売するモンシュシュ社(現在はモンシェール社)は、「ケーキの提供(役務)」に対する商標権を取得して看板やお菓子の包装などに「モンシュシュ」という名称を使っていました。
ところが、それより前に神戸の老舗ゴンチャロフ製菓が、「お菓子(商品)」に対する商標権を取得して「モンシュシュ」という名称を使用していたのです。
裁判の結果、最終的に、モンシュシュ社は、ゴンチャロフ製菓に対し数千万円もの賠償を命ぜられたばかりか、商号変更をも余儀なくされました。
このように、知らずに他人の権利を侵してしまうと訴えられることもあるので、事前のしっかりした調査が必要です。知らなかったでは済まされない問題です。
また、起業(会社設立)の段階では、このような商標法上のリスクが表面化していないため、ついこの点を見落としがちです。商号は、同じ場所に同じ名前の他の会社がない限り、基本的には自由に登記できるのです。しかしながら、いざ事業を始めると、他の会社の商号やブランド、そして商標権との関係で思わぬ損害を被りかねません。あらかじめ知的財産権の専門家に意見を求めるなど慎重に進めることが重要です。
このケースは、モンシュシュ社側からすれば知的財産で被害を被ったように見えますが、ゴンチャロフ製菓側からすれば、知的財産権により自社の利益が守られたことになります。
このように、知的財産権は、無断でそれを利用した者に対して賠償金等を支払わせたり、利用を差し止めたりすることができる「武器」として働くと同時に、他者から侵害を主張されたとしても、正当性を主張して自身の事業活動を守ることができる「防具」としても働きます。
著作権以外の知的財産権は「登録」ベースで発生する
それでは、各知的財産権の特徴を見ていきましょう。
特許権…開発した新商品の性能を守りたい!
特許権は、自然の力(物理・化学・生物)を利用した、産業活動に役立つ高度なアイディアを、新たに作り出したり、発見したりした(これを「発明」といいます)場合に認められることがあります。
発明によって、商品に新たな性能が付け加えられ、商品としての価値が高まります。
特許権は、そのような商品価値を守ることができるのです。
ちなみに、発明といえる程ではない簡単なアイディア(これを「考案」といいます)は、実用新案権が認められる場合もあります。
意匠権…商品のデザインを守りたい!
発明や考案ではないものの「思いついたこの商品デザインのアイディアは守りたい」、そんな方には意匠権がおすすめです。
意匠権は、商品の形状、模様、色彩(これらを合わせたもの含み、総じてデザインといいます)を通じて視覚的な美しさ(美感)を起こさせる場合に認められることがあります。
意匠権は、類似したデザインの商品が発売されることを防ぐことができるのです。
商標権…売れ筋商品のブランドを守りたい!
商標権は、自社の取り扱う商品やサービスを、他のライバル企業のそれらとは区別するために、商品等の外形や名称等(これを識別標識といいます)を登録する場合に認められることがあります。
せっかく自社の商品が有名になっても、お客様が他社の似たような名称の商品を購入してしまったら、自社の売上げはもちろん、他社の商品の質が悪ければ自社の営業上の信用も落ちてしまいますよね。
商標権は、そのような営業上の信用を守ることができるのです。
著作権…自社商品のキャラクターを守りたい!
自社商品を販売する際、キャラクターを用いて宣伝活動をすることもあるでしょう。
著作権は、文学、学術、美術、音楽といった文化的な範囲内において、その人の考え(思想)や感情を個性的に表現した場合に認められることがあります。
例えば、キャラクターの絵が描かれていれば、商品の包装箱やパンフレットであっても著作権の対象です。お客様は、商品のデザインや名称だけでなく包装箱等からも自社商品を見分けてくれるのですから、著作権をしっかり管理して、商品の売上げを守りましょう。
その他、知的財産権の種類や特徴は、以下の点から分類されることがあります。
【図表】知的財産権の種類と特徴
あえて特許を出願しない「クローズ戦略」とは?
ここでは、主に特許権を念頭に、その守り方や活かし方をご紹介します。
従業員が完成させた発明は会社のもの? -職務発明ー
会社の従業員が発明を完成させた場合、その特許権を会社が取得できるとは限りません。
特許権を受けられるのは、基本的にはそれを発明した自然人、すなわち従業員が原則です。もっとも、その発明が会社の業務として完成された場合には、会社はその発明を無料で利用(実施)できる場合があります(これを職務発明といいます)。
ただし、職務発明規程であらかじめ定める等しておけば、会社にその特許を受けられる権利を円滑に帰属させることができます。無用なトラブルを避けるためにも、前もって準備しておきましょう。
そもそも、発明は全て特許にする必要があるの? -クローズ戦略との違いー
特許を出願すると、他のライバル企業であっても、特許料さえ支払えばその発明を利用することができます。これにより自社商品の優位性が後退する可能性もあります。
こういったことから、発明によっては、その不利益を考慮して、あえて特許出願をしない経営判断もありえます(これをクローズ戦略といいます)。
そのような場合には、逆に発明が公に知られることがないよう秘密管理を徹底することが大切になります。
ちなみに、そのように管理された情報は、不正競争防止法上の営業秘密として、知的財産権とは別に、法的な保護を受けられることがあります。
いかがでしたか。知的財産権は複雑で分かりにくい部分がありますが、要点だけでも知っておくことが経営戦略上とても大切な権利ですのでしっかり意識しておきたいものです。
田本 伸雄
MASTコンサルティング株式会社 弁護士
高島 宏明
MASTコンサルティング株式会社 代表取締役
中小企業診断士