前回は企業の「海外進出」に着目し、その際に気を付けるべき3つのポイントについて見ていきました。最終回となる今回は「補助金」「助成金」の有効な活用方法と、その際の注意点について解説していきます。

補助金・助成金は原則返済不要の資金

「起業」のための基礎講座も、今回でいよいよ最終回となりました。最後のテーマとして取り上げるのは、「補助金」「助成金」です。これらは膨大な種類がありますが、目的に合ったものを選択して活用すれば、事業にとってプラスとなります。一方で注意すべき点もあります。それでは、さっそく見ていくことにしましょう。

 

なお、これから記載する内容は、あくまで一般的なものです。詳細は、実施される補助金・助成金の募集要領に従うことになりますので、ご注意ください。

 

補助金と助成金は異なるものですが、一言で言うならば、「国などが、一定の事業・取組みに対して行う資金的な援助」です。融資とは異なり「原則、返済不要」という点が大きな特徴です。

 

補助金と助成金について、概要と違いについて、下の表のようにまとめてみました。

 

【図表1】補助金と助成金の概要と違い

 

補助金・助成金というと、資金調達が目的だと思われるかもしれないですが、資金調達は課題解決・目的達成のための手段です。では、補助金・助成金で達成する目的とは何でしょうか。近年の補助金・助成金を見てみると、毎年の国の方針や重点施策などが反映されており、政府がどんな課題を解決したいかが見えてきます。今年の場合、働き方改革、高齢者雇用、事業承継などを推進するものが打ち出されています。

 

こうした点も踏まえつつ、自社の課題や目的を明確にして活用してきましょう。

補助金は「事業」助成金は「人」のための取組みを援助

【補助金】

補助金は、「事業」に関する取組みが対象となります。最近の例では、創業、販売促進、設備投資、IT投資、海外進出、事業承継(M&A含む)などがあります。

 

参考として、平成30年度に実施された補助金の一部を以下に例示します。

 

【図表2】申請された補助金一例まとめ(平成30年度)

 

補助金の申請から入金までの流れをまとめると、以下のようになります。申請してから入金まで、おおよそ1年程度は見ておいた方がよいでしょう。

 

 

補助金は募集期間が決まっており、概ね1月末頃から6月頃にかけて募集される場合が多いです。中には同じ補助金で2次募集、3次募集と続く場合もあります。この期間内に申請書を提出し、採択されれば、申請した取組みを実施することができます。

 

ここで注意したいのは、事業の実施期間が決まっているということです。採択前に実施した取組みについては、補助対象にはならないですし、事業期間内に取組みを完了させる必要もあります。

 

また、補助金は後精算です。いったん自社で費用を支出することになりますので、資金繰りにも注意が必要でしょう。

 

さらに、補助金は要件を満たせば採択されるというものではありません。審査があり、他の申請書と比較して、より内容が優れていると評価されたものが採択されます。採択率は補助金にもよりますが、概ね30%~40%程度です。

 

申請書の多くは、事業計画書を作成するようになっています。そのため、補助金申請を通じて、「自らの事業を見つめ直せる」「キチンと計画を立てて事業を実施できる」「新たな事業を行うための資金的なリスクを少し抑えることができる」といったメリットがあります。

 

【助成金】

助成金は、「人」に関する取組みが対象になります。例えば、雇用推進や人材育成、雇用環境の改善などです。

 

平成30年度に実施されている助成金の一部を以下に例示します。

 

【図表3】申請された助成金一例まとめ(平成30年度)

 

助成金の申請から入金までの流れをまとめると、以下のようになります。申請してから入金までは、半年程度から1年を超える場合もあります。

 

 

助成金は、募集期間が決まっていない場合が多いですが、取組みをはじめる前に、あらかじめ決められた期日までに計画を提出する必要があります。その計画に即して取組みを実施した後に、支給申請書を提出します。そして審査が行われ、不備なく要件を満たしていれば支給決定となります。

 

なお、助成金も、補助金と同じように、計画期間前に実施した取組みについては、助成の対象にはなりません。

 

また、後精算という点も同様です。助成金は他の申請との比較による採択という概念はありませんが、申請の前提として、法律などに即して労務管理を適切に実施していることなどが必要です。

 

そのため、助成金申請を通じて「社内の労務管理体制を見直すことができる」「社内制度を整備できる」といったメリットがあります。

資金以外のメリットも含めて専門家の活用も検討

補助金・助成金は種類が多く、相応の手間と時間もかかります。また、専門的な知識や申請書作成のポイントを押さえる必要もあります。

 

そのため、補助金については、中小企業診断士や民間コンサル会社、助成金については、社会保険労務士のサポートを活用しながら取り組むこともよい方法のひとつだと思います。そうすれば、第三者の意見も踏まえて事業内容や取組みを整理することができ、より確実に実施していくことができます。

 

補助金・助成金は、資金的なメリットだけでなく、経営を見つめなおす機会にもなります。上手に活用し、みなさんの事業を発展させていきましょう。

 

27回にわたる本連載『「起業」のための基礎講座』をお読みいただきありがとうございました。いつかは起業したい、企業を買収して経営に携わりたい、という思いを持ったみなさまの参考になった点があれば幸いです。

 

 

加藤 久徳

MASTコンサルティング株式会社 執行役員

中小企業診断士・社会保険労務士・2級機械加工技能士

 

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