起業の手段として近年ニーズの高まる「小規模M&A」。背景には、優良な中小企業の後継者不足という社会問題があり、公的機関の支援が豊富に受けられることも魅力となっているようです。本記事では、起業家視点から、小規模M&Aのメリット・デメリット、成功に不可欠な仲介アドバイザーの役割などを見ていきます。

黒字だが後継者がおらず、継続困難な企業は多い

M&Aと聞くと、どんなことをイメージしますか? 

 

TVドラマ『ハゲタカ』を筆頭に、“会社の乗っ取り”のイメージが強く、マイナスの印象をもたれる方もいるかもしれません。しかし、時代の変化とともに、M&Aに対する世間の印象は大きく変化してきています。

 

[図表1]M&Aに対するイメージの変遷

 

2018年版中小企業白書では、「60歳以上の経営者の48.7%が後継者不在」との調査結果が公表されています。これら後継者不足で事業継続が困難になる企業のなかには、“黒字企業”もたくさんあるのが現状です。

 

こうした後継者がいない優良中小企業の事業承継の解決策として、近年、中小企業・小規模事業者のM&Aへのニーズが高まってきているのです。実際に大手M&A仲介企業の扱う中小企業のM&A件数は、年々増加を続けています。

 

[図表2]中小企業のM&A仲介を手がける上場3社の成約組数

 

資料:東証1部上場の中小企業向けM&A仲介起業3社の公表値等より中小企業庁作成(中小企業白書2018 P306)

 

この状況は、起業家にとっては、願ってもないチャンスの時代と捉えることも可能です。

 

本記事は、起業したい人向けの連載ですので、小規模M&Aの買い手になるイメージでお話したいと思います。

既存事業と引継ぐ事業の相乗効果が期待できるM&A

M&Aとは、「事業を手放したい売り手事業者から、買い手事業者に会社(株式)または事業を引き継ぐこと」です。株式譲渡や事業譲渡の対価として、売り手企業は売買代金を受け取り、買い手企業は引き継いだ事業を成長させることで、より大きな成果を得ます。

 

M&Aの買い手は、既存事業と引継ぐ事業のシナジー(相乗)効果が期待できる場合に買収を決めるわけですが、M&Aの引継ぎの形態やそのシナジー効果にはいくつかの種類があります。

 

[図表3]M&A引継ぎの形態の種類

 

①水平統合

 

同業種や同業態間で行われるM&Aです。主に規模やエリアの拡大による相乗効果をねらって多く行われます。牛丼チェーン『すき家』を展開するゼンショーが2005年に同業種の『なか卯』を買収することにより、日本一の店舗数を誇る牛丼チェーンになったことなどが有名です。

 

②垂直統合

 

商品の製造から販売にいたる商流のなかで、自社事業の川上や川下の業種間で行われるM&Aです。例としては、地方の土産品卸売業社が、川上である食品製造業を買収するケースや川下である土産品小売店を買収するケースです。主に商材の安定供給や、取引コストの削減、市場での支配力の確保などの相乗効果をねらって行われます。

 

2018年度版中小企業白書では、これまで外注していた川下工程の個別包装の会社を引き継いだ中小製造業、ツルヤ化成工業(山梨県)の事例が紹介されています。

 

③新分野・周辺市場進出統合

 

自社のビジネスモデルにはない、新しい商品の取り扱いや、新しい顧客の獲得を進めるために行われるM&Aです。

 

2018年11月に発表されたUCCホールディングスの子会社、ユニカフェによるアートコーヒーの買収は、工業用焙煎豆の供給力のアップ(規模拡大)に加えて、ユニカフェが進出をもくろんでいた外食・ホテル・リテール事業者向けの業務用販売事業の獲得を目的に、株式譲渡にて実現したM&Aとして公表されています。

起業家がM&Aを活用するメリットとデメリット

起業家が事業を開始するにあたってのM&Aのメリットは、事業立ち上げから利益確保までの時間が早いことです。

 

ゼロからの創業に比べて、設備や人員、技術ノウハウや主要顧客など、すでに基盤が整っている状態の事業を引き継ぐことで、事業のスピードでは圧倒的に優位になります。また、起業家が持つノウハウやネットワークを新たに組み合わせることで、より大きな成果につなげることも可能です。

 

一方で、M&Aのデメリットとして、潜在的なリスクがゼロではないことに注意が必要です。

 

事業引継ぎ時には、売り手事業者の事業、財務、法務などの調査(※デューデリジェンス)を行いますが、その際に発見できなかった問題が引継ぎ後に判明するケースも少なくありません。多くの場合、それらの問題は買い手事業者が対処することになります。売り手、買い手両者にとってお互いハッピーなM&Aにするには、売り手の誠意と買い手の目利き力が必要となります。

 

※デューデリジェンス(DD):対象企業に対する調査活動のこと。多くのM&Aでは引き継ぐ事業の価値や抱えるリスクの内容について、第三者に調査・評価を依頼し、その結果をもとに買い手が最終判断します。

 

[図表4]起業家にとってのM&Aのメリット・デメリット

 

 

小規模M&Aにおける「仲介アドバイザー」の役割とは

では、M&Aを活用して起業しようとする際、まず何からスタートすべきでしょうか。

 

最近ではM&A仲介業者が増えており、大手M&A仲介企業以外にも、インターネットでのM&Aマッチングサイトなども多数あり、自社に合った売り手事業者が見つけやすい環境になりつつあります。

 

M&Aには「多額の費用がかかる」というイメージもありますが、小規模M&Aに見合った最小限の費用で進められる仲介企業も増えています。しかし、M&Aは現在動いている企業が対象になるだけに、取引形態や条件、制約事項、価格設定など、100社100様の対応が求められます。そこで大切になってくるのが、信頼のおけるM&A仲介アドバイザーの存在です。

 

上記のメリットやデメリットをどう評価するか、資金調達をどうするか、今後の自社の経営戦略をどのように進めるかなど、M&Aの取引以外にも心強い味方となってくれるアドバイザーと出会えることが、ハッピーな小規模M&Aには不可欠な要素となります。豊富な知識と経験・ノウハウをもとに、起業家の立場に立った様々なアドバイスを受けながら、アドバイザーと二人三脚でM&Aを進めることができますので、ぜひ活用することをお勧めします。

 

また、各県に設置されている公的なM&A支援を行っている「事業引継ぎ支援センター」(http://shoukei.smrj.go.jp/consultation/)を活用し、仲介アドバイザーの紹介を頼むこともお勧めです。

 

あなたも小規模M&Aを活用し、起業家としての成功に向けて、最短距離を走ってみませんか?

 

 

丸山 学

MASTコンサルティング株式会社パートナー 中小企業診断士

 

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