本記事は、企業が海外進出を成功させるためのポイントや、海外進出の実態について、筆者の体験談を交えながら解説していきます。

優秀なローカル人材を確保し、意思疎通の苦労を回避

今回は「海外進出を考えるときのポイント、海外進出の実態」を、筆者が海外赴任した実体験を基にお伝えします。

 

海外で成功するためには、「業務開始の壁」、「黒字化の壁(初年度売上の壁)」「本源的価値の壁」と3つの壁があります。

 

① 業務開始の壁

 

最初に苦労するのは間違いなくコミュニケーションです。筆者は英語もスペイン語もろくに話せないなか、メキシコへ赴任しました。赴任当初は苦戦しましたが、それでも3か月もすると単語はつなげられるようになるので、意思疎通できるようになります。

 

ただし、意思疎通というよりも、次第に相手が自分の考えをくめるようになるために、意思疎通できた気がするようになるというのが正解です。

 

また、受注した業務は提携先に振ることもできますが、雑用を振ることはできません。備品の購入、請求書(領収書)の整理・発行、移動、トラブル対応、人材採用など赴任直後はこのような雑用で困ることが多いのです。

 

その国の基本的なルールや慣行は現地人に教えてもらわなければ、いくらネットで夜な夜な調べたところで出てきません。日本人の駐在員であれば、基本的にフォローしてくれる人材がいる環境に身を置くことになりますが、生活を含めてフォローしてくれる方がいなければ自分で探さなくてはなりません。

 

もちろん言語もろくにできない方をフォローなしで海外に送りだせば、すぐに日本に戻ってくる可能性も高く、もし戻ってこなかったとしても、より多くのコストがかかります。

 

そのため、言語のできるローカル人材をフォローにつけることをお勧めします。営業のフォローのための通訳は日本人が良いですが、管理部門のフォローのための通訳はローカル人材が良いです。優秀なローカル人材を雇えれば会社は回りだします。

その国のキーマンと知り合い、引っ張り上げてもらう

② 黒字化の壁(初年度売上の壁)

 

営業戦略を考える際に重要なのが「何を商品とするのか?」です。自分たちで「商品とは何か?」を落とし込んで考えなければなりません。

 

製品の機能なのか、量なのか、価格なのか、人なのか、時間なのか、知識なのか、仕組みなのか、サポートなのか…など、海外ではありとあらゆる要素が売りものとして成立しますので、自社の既存の「商品・製品」を売りにいくという認識では、初年度黒字化は難しいでしょう(もちろん「仕組み」をもっていけば別です)。

 

また、海外では信頼できない者が日本人、ローカル人問わず多くいます。そのために後追いで参入した企業が進出当初から信頼されることは非常に難しいです。

 

「海外生活の期間=海外での成功期間=その人の信頼度」なので、先に進出した方々でコミュニティが形成されています。後塵はガツガツ行っても、引いてもダメということが往々にして起こり得ます。

 

この場合は、先人に引っ張り上げてもらうことが重要で、その国のキーマンが紹介する会社は初年度だろうと、実体が伴ってなかろうと成功します。人からの紹介は大きな武器となるのです。

 

「営業戦略」と「ポジショニング戦略」は切っても切れない縁にあると言えます。「ポジショニング戦略」を考える上で銀行との関係が重要です。

 

特に後追い参入の企業であれば銀行と懇意にすることは難しく、自分たちの存在が銀行に必要とされるものでなくてはなりません。マッチングは銀行の得意とするところですので、その際に名前を出してもらえるような関係づくりが必要です。

 

銀行の駐在員は事業会社の駐在者よりも、その人物と話した印象や中期計画など、多くの情報から総合的に判断する傾向にあるので、どの分野で必要とされるかを意識しながら関係を作れば良い結果につながることが多いです。

 

闇雲にプッシュするよりも新製品開発のタイミングや法律改正のタイミングなどの「タイミング」がとても重要です。

 

例えば筆者は、タイにおいて「タイ移転価格協力会」という会計事務所が集まるコミュニティを作っています。古くからタイで活動されている会計事務所の看板を使って、移転価格税制という新たな分野の実務を行っています。

 

移転価格文書化対応の会計人はタイにおいてもほとんどいないので、銀行との関係も「移転価格税制」という限られた枠内で強固なものを作っています。

スポット業務ではなく「本源的価値」で成功するには?

③ 本源的価値の壁

さて、情報収集とタイミングさえ見誤らなければ、「スポット業務」で売上を立てることはそこまで難しいことではありませんし、実際に「スポット業務」で回している会社が多いです。

 

ただし、これらの会社の多くは、残念なことに、海外事業を軌道に乗せる「過程」としてスポット業務を捉えていたはずなのに、いつの間にかそれが「目的」となってしまっています。スポット業務が目的となってしまっている大きな原因は、その市場において会社に「本源的価値」がないということが考えられます。

 

「本源的価値」は進出前のFS(フィジビリティスタディ:設立前の計画)の段階で十分に検討すべき課題であり、このような検討をしていない日系企業は、海外で中長期的に成功するということは難しいです。

 

FSの段階で「本源的価値」の検討が十分にされていれば、それを達成できないと判断された時点で即時撤退することも可能です。しかし現状は、PLと睨めっこをしながら、状況に応じて意思決定をしている会社がほとんどです。

 

自社の「本源的価値」を確認し、FS作成をすることが2018年現在の日系企業の海外進出において最も重要なこととなります。

 

その他に必要なものは、「言語」、「商慣行(レギュレーション)」、「商品」、「人材」、「国民性」、「銀行」、「情報」、「タイミング」、「ロイヤルティ」、「交渉」など当たり前のことがほとんどですので、海外進出を「本源的価値」と「それ以外に必要なもの」の2つに分けて考えてみてください。

 

 

片瀬 陽平

MASTコンサルティング株式会社 パートナー

 

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