法的には一般の会社と等しい「MS法人」
今回からは、開業医の節税策の大きなポイントである〝MS法人を絡めた節税策〟に話を移します。
被相続人が医療法人を所有している場合、医療法人の持分は株式会社の株式のように利益の配当ができないので、どんどん評価が膨らんでいきます。また、個人開業の病院でも、院長である被相続人の所得が増えると、相続税の心配が出てきます。
そこでMS法人を設立すると、「医療法人の出資持分の評価を減らす」ことや「被相続人の所得を減らす」ことができるため、結果的に相続税を圧縮できます。
MS法人というのは、メディカル・サービス法人の略称です。医療系のサービスを事業目的とする法人のことで、法人形態としては株式会社や合同会社(LLC)、NPO法人、有限責任事業組合(LLP)などが考えられます。本連載では、株式会社としてのMS法人を前提として話を進めていきます。
MS法人には法律上の制度があるわけではなく、法的には一般の「会社」です。その設立にあたっては、通常の会社と同じ手続きで行えます。医療法人のように監督官庁の認可は要りません。
まず、医療法人とMS法人の違いについて整理しておきます。
医療法人とは、医療行為を行うための法人です。非常に公益性が強く、営利を否定する「医療法」に基づいてつくられた特別な法人です。その性格上、医療行為以外で利益を追求することは認められていません。たとえば医療法人で賃貸不動産を所有し、それを他人に貸して賃料をとるとか、物品を販売して利益を得るといったような営利活動はできないということです。また、医療行為によって得た利益を配当することもできません。
一方、MS法人は会社法に基づいてつくられた株式会社で、その存在目的は利益の追求です。さまざまな営利事業を行い、それによって得た利益を株主に配当したり、残余利益を社内に留保・蓄積したりすることができます。
医療法人にはできない営利事業を、MS法人が代わって行うことで、税制上も経営上もメリットを受けられるようにしようというのが、今回提案したいことです。
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MS法人の設立で得られる6つのメリットとは?
MS法人で行う事業の内容は、以下のようなものです。
●不動産事業として医療法人に対して病院の土地・建物を賃貸
●診療報酬の請求業務
●病院で使う備品類を管理・販売
●医療法人に対して医療機器のリース
●金融機関からの資金調達と医療法人への貸付け
MS法人をつくるメリットは、相続税の節税を含めて、大きく6つあります。
<節税の観点からのメリット>
①医療経営と医業収益の分散による法人税の節税ができる
②所得の分散による所得税の節税ができる
③財産の分散による相続税の節税ができる
<病院経営の観点からのメリット>
④医療法人とMS法人の経営を分離できる
⑤医業と連携した新たな事業展開の可能性が広がる
⑥資金調達がしやすくなる
次回は、MS法人をつくるメリットについて、より詳しく見ていきましょう。