前回は、「暦年贈与」の概要と、具体的な活用方法を紹介しました。今回は、相続税額・贈与税額の計算方法と、相続税評価額を減らす方法を見ていきます。

実質的な贈与税率は時間をかければ下げられる

贈与を検討するときには「将来の相続税額」と「贈与することで生じる贈与税額」を比較して、贈与税額のほうが低くなるように計算します。具体的な数字で計算してみましょう。

 

病院の建物が、固定資産税評価額にして3000万円と仮定します。そのまま被相続人が所有を続けた場合は相続時に相続税を支払い、生前に贈与する場合は贈与税を支払うことになります。贈与税は毎年110万円の基礎控除があるので、それを加味して実質的な贈与税率で考えます。相続、贈与ともに対象は子1人です。他の財産もあると仮定し、基礎控除は考慮に入れません。

 

相続税額→3000万円×相続税率15%−控除額50万円=400万円

贈与税額→(500万円−110万円)×15%−10万円=48万5000円

48万5000円×6=291万円

 

3000万円を相続した場合には、400万円の相続税がかかります。1年間で500万円を贈与したときにかかる贈与税は48万5000円です。これを6年間行えば合計で3000万円が贈与できます。6年分の贈与税は合計で291万円です。

 

つまり、6年かけて毎年500万円ずつ贈与する場合の税額のほうが、相続税に比べて100万円以上も安くなります。贈与税率は実質的に10%にも満たないということです。時間をかければかけるだけ、実質的な贈与税率は下げることも可能です。

 

贈与は絶対に控除の範囲内で、という狭い視野で見てしまいがちですが、相続はいつ発生するか分かりませんから、多少のことなら割り切って払ってしまったほうが節税につながるパターンもあるのです。

 

ところで、建物を建てて間もない場合や鉄筋の場合には、固定資産税評価額があまり下がっていない可能性があります。そのときは、子に建物を売却するという方法も選択肢の1つではあります。

 

しかし、この方法は、①子に建物を買い取る資金があるか分からない、②建物を売却したことで被相続人に譲渡税がかかってくる、③売却したことで被相続人に多額の現金が入り、課税対象資産が膨らんでしまう、などの問題があります。

 

「売却しない場合に被相続人に入ってくる賃料が莫大(たとえば年間1000万円)」という人で、「建物を売却して入ってくる現金(1億円)のほうが、この先蓄積されていく賃料(10年で1億円、15年では1億5000万円と膨らんでいく)より小さい」という場合以外は、あまりメリットがないと思います。

 

さらに、1階が医院、2階が自宅のように自宅兼医院になっている建物は、区分建物として登記を行ったうえで、医院の部分だけを子に贈与または売却します。構造的に分離していない場合には、改造をして区分建物にします。

 

[図表]贈与税速算表(2015年1月1日以降)

病院を建て替えて相続税評価額を減らす方法とは?

病院の建物を子に贈与または売却するときは、事前に被相続人のお金で修繕してあげることをお勧めします。修繕によって贈与の評価額や売却価額が上がることはないので、単純に被相続人の財産だけを減らすことができます。

 

もっというなら、キャッシュに余裕がある被相続人は、病院を新しく建て替えてから子にバトンタッチをします。建物を新たに建てるわけですから、被相続人の財産は1億、2億と大きく減らせます。子にしても、新築の建物を使えるほうが嬉しいでしょう。

 

医療機器の買い替えや修繕、メンテナンス、建物のリフォームやリノベーションなど、病院に関係することの刷新は、被相続人の生前にすべて済ませておくことが大事です。いつかは費用の負担が発生するならば、その費用まで高い税金を払って相続するよりも、課税対象資産を減らすついでに被相続人が負担しておいたほうがいいはずです。

 

ただし、病院の増改築など建物の構造自体が変わってしまった場合、相続時の固定資産税評価額も上がってしまう可能性があります。お金をかけた分、評価が上がるということです。その場合は節税の効力としては弱くなりますが、それでも現金で所有しているより、固定資産に換えてしまったほうが相続時の評価は下げられます。

本連載は、2014年11月29日刊行の書籍『開業医の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策

開業医の相続対策

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

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