
本連載は、スパークス・グループ株式会社のウェブサイトに掲載されている「COLUMN / バフェット・クラブの金言」を転載したものです。
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「実態価値と株価の裁定プロセス」を起こすきっかけ
スパークスの「投資の定義」は、「企業の実態価値と株価の裁定プロセスに主体的に参加すること」と繰り返しお伝えしてきました。
それでは、「裁定(正常化)プロセス」は、いつ起こるのでしょうか。投資の世界で、株価の変動をもたらす材料を「カタリスト(きっかけ)」と呼びます。今回は、カタリストについて考えてみましょう。
第4回でフィッシャーの成長株投資に対する考え方をお伝えしたときに、割安株が長期間OK割安のまま放置される「バリュートラップ」という言葉をご紹介しました。割安株(バリュー株)を見つけることは重要ですが、その割安株の株価が正常に戻るきっかけは何であるか、つまりカタリストを考えることは、割安株を見つけることと同じくらい大事なことなのです。
例えば、ある会社の利益が順調に成長を続けていくと、たとえしばらくの間、株価に反応がなくても、株式市場がいつしか自らの過小評価に気づき、株価の裁定プロセスが働きます。
株価は企業の収益と長期的成長力を織り込んでいくのです。
半導体製造装置大手、東京エレクトロンへの投資の理由
今回は、事例として半導体製造装置大手の東京エレクトロンへの投資について考えてみましょう。
この事例では、企業の変化として経営トップの交代に注目しました。スパークスでは、東京エレクトロン(以下、「TEL」)が2013年から行った米国の同業最大手アプライドマテリアルズ社(以下、「AMAT」)との統合協議を、2015年に白紙撤回した後からの経営変化に着目し、調査を開始しました。
TELとAMATの統合は実現しませんでしたが、白紙撤回の後からTELの経営に変化が起きました。
具体的には、顧客目線の組織作り、事業の選択と集中、株主還元の拡充など前向きな施策が多く見られるようになったのです。
AMATとの交渉過程で数多くの気付きを得たことや、現CEO(最高経営責任者)の河合利樹氏が、AMATとの統合協議白紙撤回の直後にCOO(最高執行責任者)に就任するなど経営体制を見直したことなどが、経営を変化させることにつながったと思われます。
スパークスでは統合白紙撤回以降のTELの変化に着目し、1年以上の調査を経てファンダメンタルズの改善と株価(市場の認識)との間にギャップがあると考えました。
実態価値計測の際に注目したのが「リスク(振れ幅)」です。昨今、AIや自動運転技術の進化などがけん引し、半導体産業の裾野は大きく拡大しています。
より需要変動が緩やかになり、さらには、TELの方針も規模より安定性を重視し始めたことから、従来の半導体サイクルにより収益が大きく変動するリスクは低下すると、私たちは考えました。そして、リスク低下を反映させる、つまり、収益の振れ幅が小さくなることを考えると「企業の実態価値と株価」に大きな乖離があることがわかったのです。
経営環境の変化と経営者の刷新をきっかけとして実態価値が大きく上昇したことを株式市場が認識することで、裁定、つまり正常化のプロセスが始まります。
決算発表などを機に多くの投資家が、TELの経営変化に気付き、半導体関連の企業は高リスクであるという思い込みが変化することが、株価上昇のカタリストになると想定し、2016年半ばに投資を実行しました。
その後、TELを初め半導体関連各社の業績発表がカタリストとなり、TELの株価は投資後1年間で約2倍に急上昇しました。半導体市場の裾野拡大を認識する人が増えたことや、TELの市場シェア上昇が明確になったことから収益安定性や成長性への評価が高まったためです。
今回の事例では、まず、東京エレクトロンの経営トップの交代という「ミクロ」に着目して調査を本格化しました。
その結果、会社のさまざまな戦略や施策に大きな変化が生まれていることや、変化をとらえ、TELが市場シェアを伸ばしていること、さらには、半導体市場全体が、かつて「シリコンサイクル」と呼ばれ、需要の大幅な上下を繰り返した産業から、AI、IoTや仮想通貨用サーバーの需要までを取り込み、一定の安定需要を見込める「スーパーサイクル」と呼ばれるほどの産業になったという構造的変化までをとらえています。
これは「ミクロを集積したマクロ」を積み上げていき、「実態価値と株価の裁定プロセスに主体的に参加する」投資として実行した事例です。
市場には「異常を正常にする」メカニズムが働く
スパークスが投資を決断するには、「いい企業を安く買う」ことが必須条件です。
そのためには、
1.良い企業、かつ安い企業を探すだけでなく
2.なぜ安いのかを考え
3.株価が正常化する裁定プロセスのためのカタリストを言語化する
以上のことが必要です。
そのカタリストの実現時期については、私は短期的な予想をする必要はないと考えています。実態価値が上がっていくというトレンドをしっかり見定めていけば、株価とのバリューギャップは確実に修正されていきます。
資本主義の大前提として、市場には異常を正常にするメカニズムが組み込まれているのです。「異常なことは続かない」というわけです。
時期の特定は難しいものの、カタリストを探すことはとても大事です。
今回の経営者の交代だけでなく、第9回でご紹介した法律などの制度変更、長期間続いた大きなトレンド、例えば「デフレはずっと続く!」というような思い込みが、何かのきっかけで修正・正常化し市場参加者のマインドが変化するなど、社会ではいろいろなことが常に複合的に起こっています。
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さまざまな経験を積んでいくことで、徐々にではありますが、「これがカタリストになるだろう」という予測ができるようになっていくことでしょう。
(2018年8月31日)
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