米中両首脳は11月1日に電話会談を行い、貿易問題解決へ向けた協議を進めることで一致。これを受け、翌2日の上海総合指数は大幅に値上がりした。11月5日より開幕した「中国国際輸入博覧会(China International Import Expo)」では習近平主席が輸入促進へ前向きな姿勢を示したが、解決までは長く厳しいプロセスとなることが予想され、既に発動された関税が全面解除になるとは考えがたい。中国の狙いはどこにあるのか?

米中両首脳が電話会談…貿易摩擦の解決へ期待感上昇

先週11月2日、米中の一部報道を受けて、米中貿易摩擦の解決に向けた動きへの期待感からアジア・日本の株価は上昇した。特に、上海総合指数は、大幅に値上がりし、前日比70.24高(+2.70%)の2676.48まで4日連続の続伸となった。

 

米ブルームバーグが、トランプ大統領が中国との通商合意に向け草案作成を指示したと報道したほか、中国のテレビ局は、習近平中国主席が20カ国・地域(G20)首脳会合出席に際し、トランプ大統領と貿易などの問題について協議することに前向きだと伝えた。

 

 

米中両首脳が11月1日に電話会談を行い、貿易問題解決に向けた協議を米中間で進めることで一致したと伝えられ、トランプ大統領も中国との合意(ディール)を成立させることに意欲満々に語ったこともあり、妥協への期待を高めた。11月末にはG20首脳会議が予定され、トランプ大統領も習主席も出席の予定である。それまで、米中間で何らかの通商合意が実現することへの期待は燻(くす)ぶろう。

関税の全面解除ではなく「一時停戦」が現実的か?

そんななか、上海で本日(11月5日)から「中国国際輸入博覧会(China International Import Expo)」が開幕した。開幕式には、習近平国家主席が出席して演説するという力の入れようである。

 

習主席は、諸外国との商取引における障害を取り除き、輸入を拡大するために中国がさらに努力をしていくと表明したほか、輸入促進のための国内消費の刺激や輸入品への関税の削減、通関手続きの簡略化に加え、知的財産権侵害への厳罰化など、中国が輸入対策を強化することに前向きな姿勢を示した。

 

もちろん、貿易黒字を削減するには、輸入促進は重要になる。課題は、それが目に見える成果となるまでには、時間が掛かるということだろう。実際に、10月12日に発表された中国の貿易統計(9月)では、対米貿易黒字は341億ドル(約3兆8300億円)とむしろ拡大している。輸出の好調な伸びは、中国製品に関税が課される前に輸出してしまおうという駆け込み需要にも支えられたものと見られる。そして、中国が輸入する米国製品の量は、むしろ減少しており、輸入増加の掛け声には逆行する現象が見られる。

 

「中国はディールを望んでいる」とトランプ大統領は語る。この数ヶ月、まともに交渉の席についてもこなかったトランプ政権の態度からすれば、11月末の米中首脳会談で、腹を割って話し合い、なんらかでも合意が成立すれば、重要な進展として、市場からは歓迎されるだろう。

 

勿論「ディール」であるから、その場合には、中国は、輸入拡大への数量もしくは金額的なカードを切らなければならないだろう。ただ、上述のように、それは時間の掛かる話になるのではないか。すると、合意内容は、既に発動された関税の一部解除まで及ぶかもしれないが、全面的な解除までに至るとは考えがたい。新たな追加関税を発動しないことなどが主の、「一時停戦」になる可能性は高いのではないだろうか?

 

かつての日米貿易摩擦を思い起こしていただきたい。日米交渉は、議論と妥協を繰り返し、思うようにはついてこない黒字削減の成果に繰り返し向き合い、長い時間を掛けた問題となった。米中貿易摩擦も同じことだろう。トランプ大統領が提起する貿易相手国への黒字の削減は、解決までに時間の掛かる長く厳しいプロセスとなるものである。

中国の狙いは「内需主導型経済」への移行

なお、繰り返しになるが、中国は、長期的には「新常態」すなわち、内需主導型の経済への移行という課題に取り組むことで、中国が経済的にもより強国になるという道筋を見据えている。そして、保護主義的な潮流が世界の主流に躍り出ようとするなか、先のダボス会議で習主席が語ったとおり、今や自由主義経済の庇護者となろうともしている。

 

短期的には、中国経済のダウンサイドリスクへの手当てを財政金融政策で施しながら、経済構造の改革を進め、「新常態」の実現と貿易黒字の削減に取り組むだろう。つまり、中国側にも今回の妥協は、望むところであると考えられる。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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