本連載は、スパークス・グループ株式会社のウェブサイトに掲載されている「COLUMN / バフェット・クラブの金言」を転載したものです。

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20世紀を代表する「知の巨人」ドラッカー

前回、フィッシャーさんを、「先のことはわからないから調べてみよう」という人だったと紹介しました。では、「先のこと」は、どう調べたらよいのでしょうか。

 

スパークスの勉強会「バフェットクラブ」では、たびたび、ピーター・F・ドラッカーさんを引き合いに出します。「マネジメントの父」ともいわれるドラッガーさん。彼の考えは同時代を生きたフィッシャーさん、そして、バフェットさんの投資哲学にも影響を与えたと思っています。今回は、ドラッカーさんについて、私なりの見方を語っていきます。

 

ドラッカーさんはユダヤ系オーストリア人で、1909年にウィーンの裕福な家庭に生まれました。父親は精神科医ジークムント・フロイト博士とも交流があったと言います。フランクフルト大学卒業後、1929年ドイツの経済新聞「フランクフルター・ゲネラル・アンツァイガー」の記者となり、さらに論説委員を務めました。

 

1933年に発表した論文がナチス・ドイツの不興を買うことを予期し、ロンドンに移り住みます。マーチャントバンクでアナリストのキャリアを積み、1937年に渡米。バーモント州ベニントン大学、ニューヨーク大学、カリフォルニア州クレアモント大学院の教授を歴任しながら経営者としての「マネジメントの概念」などを現代社会に知らしめたという功績を持っています。

 

2005年11月、95歳でなくなるまでに、この20世紀を代表する「知の巨人」が与えた影響には計り知れないものがあります。

 

 

特にドラッカーさんが注目されたのは、1946年に発行した「企業とは何か」という著書でした。現代経営論の礎ともいうべきこの本の中で、GM社の経営を通じて企業と組織のあるべき姿を示し、社会に大きなインパクトを与えました。

 

ドラッカーさんは非常に多岐にわたる分野において知見を有していたことでも有名で、その領域は社会、政治、行政、経済、経営のみならず、歴史や哲学、東洋美術にまで及びます。彼の著作は日本語訳されているものだけでも40冊を超えており、膨大な数の名言を残していますから、ビジネスマンの皆さんにはなじみ深いかもしれません。

 

10年ほど前の大ベストセラー、「もしドラ(もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら)」を思い出す方も多いでしょう。

 

豊かな知識と鋭い洞察力によって語られる言葉は、しばしば“予言”となって世間を驚かせました。ゆえに世間から「未来学者」と呼ばれるほどでした。しかし、実は、本人はこれを強く否定しています。自らを「社会生態学者」と位置づけ、その役割は「すでに起こってしまった変化を確認することだ」と語っています。ここがドラッカーさんの面白いところです。

「未来について言えることは、二つしかない」

ドラッカーさんの“予言”がかなりの確率で正しい方向性を示していたのは、当然ながら未来を知っていたからではありません。彼は「未来のことは予測できないけれども、すでに起こってしまった未来を探せ」と教えます。

 

「未来について言えることは、二つしかない。第一に未来は分からない、第二に未来は現在とは違う」と語り、未来は今とは違う変化の果てにあり、予測不能であるとしています。未来を正しく予測するのは不可能ですが、未来を決める要素はすでに存在しています。未来について明らかなのは、今とは違う状況が訪れるということ。ただそれだけです。その未来に備えるためには、すでに起こっている状況とその帰結を正しく認識しておかなければなりません。

 

加えて、ドラッカーさんは「すでに起こった未来は、体系的に見つけることができる」と語っており、人口構造、知識、他産業・他国・他市場、産業構造、組織内部という5つの領域の変化からそれを見出せるとしています。

 

例えば、第一にあげている人口構造について「人口の変化は、労働力、市場、社会、経済にとって最も基本となる動きである。すでに起こった人口の変化は逆転しない。しかも、その変化は早くその影響を現す」と述べており、人口の動向が数年後、数十年後の市場に大きな影響を及ぼすことを教えています。

 

1964年に刊行された「創造する経営者」の中では、「余暇市場では、人は所有のためではなく、行動のために支出する。余暇市場は、報われるところの大きな成長市場である」とし、さらに「家庭用の消費財ではなく生産財でもない」タイプライターやコンピューターを含む、新しい市場の形成を予見しました。

 

すでに起こっており、後の世に重大な影響を与える変化でありながら、まだ一般的に認識されていない変化。それをいち早く見定め大きなチャンスとすることこそ、「未来を探す」という意味です。私は、「すでに起こった未来を探すのが、アナリストの仕事だ」と、運用調査担当者に繰り返し説いています。

どの領域にも必ず「起こってしまった未来」がある

ドラッカーさんの言う通り、どの領域にも「起こってしまった未来」は必ずあるはずです。現時点で誰もが確認できる変化、出来事をしっかり見ていく。その中から社会・産業の巨大なパラダイムシフトが起こるわけですから、そのシフトの行き先を今、目の前で起こっていることの中に見つけていくのです。

 

世界的な賢人であるドラッカーさんのような先見の明を持つことは、一般人にはとても難しいかもしれません。しかし、「5つの領域」の中に起こる変化を注意深く観察できるものだけが、未来を探し出すヒントを手にすることは間違いありません。

 

ドラッカーさんは日本についてもしばしば言及しています。彼は日本が劇的な経済成長を遂げる変化は1960年ごろすでに起こっていたと語っています。「この転換を知ることは、決して難しいことではなかった。観察さえすればよかった」と、彼は著作「すでに起こった未来」で振り返っています。

 

また1970年代の著作「見えざる革命」では、新しい資本所有の形をこう予見しています。

 

世界で高齢化が進み、企業年金をはじめとする年金の影響力が今後、巨大化することで実質的には「年金受給者」が企業を所有する。

 

これはまさに今、起こっている壮大なパラダイムシフトです。

 

私にもこんな経験があります。1980年代、米国で働いていた時、フィデリティやキャピタルといった資産運用会社の勃興を目の当たりにし、いずれは日本でも同じことが起こると考え、1989年にスパークスを創業しました。それから約30年、日本にもいよいよ「貯蓄から資産運用」の時代が訪れようとしているのは、皆さん、ご存知の通りです。

 

確かに未来は誰にもわからないのですが、私たちの回りには多くの「すでに起こってしまった未来」があるのです。

 

日本の人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じ、ここから戻ることはないでしょう。日本の人口構造の減少は確実に進行する「すでに起こってしまった未来」であり、今後巨大なパラダイムシフトが起こってきます。そこに建設的な未来やトレンドを見つけ出し、新しい未来の始まりと成長に勇気と知恵をもって主体的に参加するのが投資家としての役割であると、私は考えています。

 

高齢化社会、人口減少、労働力不足。日本の抱える課題とその解決は、世界の先進事例となるはずですが、そのスピード、広がり方、解決策などは国により異なるものになるはずです。すでに起こっている未来を丁寧に分析し読み解けたとき、そこには勝機が生まれます。であれば、未来を確実に知るためには、すでに起こっていることを直視し何らかの行動の基点とすること、そして自分自身で未来となるものを創り出すことによって予測の精度をあげることができるはずです。

 

 

誰かが動かす未来を探るよりも、自ら未来を生み出す方がずっと確実であることは、新しい考え方を社会に呼びかけ続けてきたドラッカーさん自身が体現しています。スパークスでは、東日本大震災後にゼロから始めた再生可能エネルギー発電施設の数が今や20を超え、ファンドでは日本最大規模です。微力ではありますが、スパークスも事業を創り出すことで未来を創生したいと考える集団です。

 

参考図書

『すでに起こった未来』ドラッカー著 上田惇生:訳 ダイヤモンド社 1994年

『創造する経営者』ドラッカー著 上田惇生:訳 ダイヤモンド社 2007年

『新訳「見えざる革命」』ドラッカー著 上田惇生:訳 ダイヤモンド社 1996年

『マネジメント[エッセンシャル版]』ドラッカー著 上田惇生:訳 ダイヤモンド社 2001年

『企業とは何か』ドラッカー著 上田惇生:訳 ダイヤモンド社 2008年

『17歳からのドラッカー』中野明著 学習研究社 2011年

 

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(2018年6月29日)

 

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