本記事では、不動産営業マン個人の儲けにつながる、“あるしくみ”の存在について見ていきます。

いろいろな業界に、その業界の人だけが使う業界用語、隠語があります。よく知られているのは、テレビ業界の“逆さ読み”や略語の類。食事を「アゴ」と言うのですが、「アゴ足つき(食事、交通費負担あり)」のように、それらの言葉のなかには市民権を得て一般的になったものもあります。

 

警察業界(?)も業界用語、隠語のオンパレードですね。「ガサ入れ」(強制捜査)、「半落ち」(一部自供)などは広く知られている隠語です。また、銀行にも「ジャンプ」(手形支払期日の延長)、「飛行機手形」(めったに落ちない手形)など、たくさんの用語、隠語があります。業界ごとに挙げだしたらそれこそキリがありません。

 

なぜ、業界ごとに、そのようにたくさんの特殊な用語、隠語があるのでしょうか。きっと、「業界の外の人に知られるとマズイから」とか「業界のなかでは面倒な話を端折って手短かに事を進めたいから」といったことが理由でしょう。

 

「担ボー」というのは不動産業界の用語で、この言葉もあまり業界の外の人には知られたくないことを示しているのかもしれません。

担ボーとは「担当者ボーナス」の略

では、「担ボー」とはどのようなことなのか。それは、言葉のイメージから類推できるように、「担当者ボーナス」の略です。「なんだ、担当営業マンが受けとるボーナスのことか」。そう思った人がいるかもしれません。でも、それでは隠語になっている意味があまりありません。

 

実は「担ボー」は、一般のサラリーマンの方が夏と冬に会社から受けとるボーナスとはまったく異なるものです。その金額や支払われるしくみが一般にはほとんど知られていなくて、家を買うみなさんも、「そんなものが支払われているのか」と、きっと首をかしげるかもしれません。 

物件の販売図面をよく見ると・・・

担当者ボーナスとは、かいつまんで言うと、売主である業者が成功報酬として仲介業者に仲介手数料を支払う際に、手数料とは別に、仲介業者の「営業担当者」に渡す「謝礼金」のことです。取引業者から担当者に渡るリベート報酬というほうが理解しやすいかもしれません。もうちょっと悪趣味な言い方をすれば、「営業マン個人に渡るウラ金」みたいなものです。

 

みなさんが家の購入を考えて不動産会社を訪れたとき、その業者が取り寄せてくれた物件の販売図面を見せてもらったことがある人もいるでしょう。たとえば、下記の図表1に示したような図面です。

 

[図表1]

 

その販売図面には何が描かれていますか? 現地の区画の概略や地図、セールスポイント、建物の間取り図などが示されていて、右のほうに物件種目、価格、所在地、面積、権利関係、地目、本体設備などが記されています。

 

ここまでは、だれでもわかりますね。では、その販売図面の下のほうを見てください。そこには、仲介業者(不動産会社)の名称や所在地、担当者名などが並んでいます。実は、ここにカラクリがあり、暗号があるのです。この販売図面は「オビつき」といって、その裏には一般の消費者は見ることができない次のような言葉が記されています。

 

「手数料:6%。業法にしたがってください」

 

一般の消費者であるみなさんは、この言葉の上に仲介業者名や連絡先などが記された「オビ」を貼られてコピーされた販売図面を見ているというわけです。

 

では、この業法とはどういうものか。それは宅建業法=宅地建物取引業法のことで、そこには物件の金額に応じた手数料が定めてあります。手数料の額は普通は家を買うとなると400万円以上になりますので、「(物件価格×3%+6万円)+消費税」です。

 

ところが、その販売図面のなかに「手数料:6%。業法にしたがってください」と記されたものがあるのです。ちょっとおかしいと思いませんか? 物件価格の3%が仲介手数料の基準なのに、なぜその倍の6%と記されているのか。実はその3%が「担ボー」であり、その担ボーが付いている物件が「担ボー付き物件」なのです。

 

ちなみに、この表記が「3%+6万円」なら、みなさんが売主業者であったとしても業法にしたがっているのですから、納得して支払うでしょう。でも、6%となるとその倍の数字です。金額に置き換えてみると、5000万円の家なら156万円+消費税の仲介手数料に150万円を上乗せすることになるのです。

 

[図表2]

 

「担ボー」は家を買うあなたが直接支払うわけではありませんが、めぐりめぐってあなたが肩代わりして負担しているのと、なんらかわりがありません。

 

こんなことがだれにも知られずに普通に行われているのです。「担ボー」は売主業者が仲介業者の営業マンに支払う報酬ですが、そうした報酬が支払われているとなると、営業マンはその報酬ほしさに営業しているのか、と思うのも筋が通った考えです。「結局、不動産会社の営業マンは、より自分の儲けになりそうな家ばかり紹介するのか」と、猜疑心の塊になってしまう人もいるでしょう。

本連載は、2012年9月10日刊行の書籍『不動産屋は笑顔のウラで何を考えているのか?』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

不動産屋は笑顔のウラで 何を考えているのか?

不動産屋は笑顔のウラで 何を考えているのか?

大友健右

幻冬舎メディアコンサルティング

古い慣習がはびこる不動産業界。消費者には知り得ない業界の慣習(ブラックボックス)の中で家を買おうとすると、どうしても損な買い物しかできない。 本書は、これまで業界でひたすらに隠されてきたブラックボックスの中身を…

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