前回は、中小企業経営者に早期引退をお勧めする理由を取り上げました。今回は、特例事業承継税制の概要を見ていきます。

制度の活用で、株式の贈与税・相続税を100%免除可能

では、ここからは事業承継における最新のトピックである「特例事業承継税制」について解説していきます。親族内承継を考えている方は熟読をお勧めします。

 

平成30年度税制改正で、非上場株式等についての従来からある「贈与税・相続税の納税猶予制度」に加え、新たに「特例事業承継税制」が創設されました。ですから、現在は従来の納税猶予制度と今回新設された特例事業承継税制の2つの制度が存在しています。ここでは従来からあるものを「一般措置」、特例を「特例措置」と呼ぶことにします。この特例措置を活用すれば、主に中小企業の事業承継において後継者の税負担が軽くなり、承継がスムーズに進むとして注目されています。この制度を受けることができれば、株式にかかる贈与税や相続税が最終的に100%免除されます。

 

事業承継税制そのものは、平成21年の税制改正によって創設されました。このときすでに中小企業で社長の高齢化が問題視されており、このままでは廃業していく会社が増えるということで、政府は危機感を持っていました。

 

中小企業で事業承継が進まない理由の1つが、後継者への株の贈与・相続時にかかる税負担の大きさでした。そこで、後継者への株の贈与税・相続税を納税猶予する税制を作り、承継を後押ししようとしたのです。ところが、蓋を開けてみると細々とした取り決めが多くあり、適用を受けるための要件を維持し続けることが難しすぎました。また、平成29年改正以前は、贈与税の納税猶予を受ける際に、贈与税額を暦年課税で計算することになっており、なんらかの事情で納税猶予を取り消された場合に猶予されていた高額な贈与税を利子税とともに一括納付しなくてはなりませんでした。結局、ほとんどの会社は承継後5年間、平均8割の雇用を維持する要件を満たすことが難しく、適用を諦めるしかありませんでした。

 

その結果が、今です。本書(『オーナー社長のスゴい引退術』)第一章でもお話しましたが、中小企業では経営者の高齢化が進み、2025年までに70歳超の経営者が約245万人になるといわれています。にもかかわらず、半数以上が事業承継の準備を終えていません。このままでは多くの中小企業が廃業してしまうでしょう。そうなると、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる恐れがあります。

 

そこで、政府は中小企業の廃業の回避と雇用の確保を目的に、この制度を大幅に改善し、特例措置を創設しました。制度を使いやすくして、特例のメリットを拡大したのです。

 

今回の改正は、政府の大盤振る舞い、出血大サービスと言ってよいほどで、今まで高額な自社株対策に頭を悩ませていたオーナー経営者にとっては、まさに事業承継の救世主です。適用を受けられれば無税で承継が叶うのですから、検討しない手はありません。株価が数千万から億になる中小企業オーナーは、もう一度今までの事業承継対策を白紙にして検討しなおすことをお勧めします。

特例は期限付き…2023年3月末までに計画書の提出を

ただし、今回の特例事業承継税制(特例措置)には期限があります。

 

平成30年(2018年)1月1日から平成39年(2027年)12月31日までが特例措置の適用期間で、平成30年4月1日から平成35年(2023年)3月31日までの5年間に「特例承継計画」を都道府県に提出し、確認を受けた上で、平成39年12月31日までに株の移転を完了することが条件となっています。

 

つまり、今から5年のうちに承継計画を決めて、計画書を出しておかないと、10年以内に自社株を承継しても特例は受けられず、従来の「一般措置」しか適用できません。とにかく5年以内に計画書を提出し、事業承継の意思があることを示しておくことが大事なのです。

 

5年というと長い気がしますが、後継者を決めて計画を練って・・・としていると、意外に時間がありません。たとえば、後継者を息子にしようとは思っているものの、まだ経営者としては半人前だという場合、後継者育成には一般に約5年かかると言われています。

 

悠長に構えていると、せっかくのメリットを取り逃すことになってしまいます。当初、提出した計画に変更があったら5年の提出期間を過ぎても、変更届を出すことができます。また、たとえ計画通りに承継が進まなかったとしても罰則はありません。親族内承継をするなら、多少の見切り発車になったとしても、計画だけ出しておくとよいでしょう。

 

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