デジタル・テクノロジーで成長した企業が世界トップに
従来の資本主義のように、場所の価格差がなくなり、搾取できる労働者は少なくなり、資本主義の限界とがいわれるようになっても、資本主義を代替するシステムは見当たらない。
そして、資本主義は「デジタル資本主義」と呼ばれる新たなかたちへと移行しつつある。デジタル資本主義とは、野村総合研究所代表取締役社長の此本臣吾氏らによって書かれた『デジタル資本主義』(東洋経済新報社)によると、「デジタル技術を活用して、差異を発見・活用・創出し、利潤を獲得することで継続的な蓄積を追求するシステム」である。
モノに満たされた先進国では、20世紀のように、大量の”モノ”を消費する社会ではなく、”コト”消費の重要性が増す。そうなれば、産業資本の必要性、つまりマネーの重要性は大きく低下する。モノをつくるときのように大規模な設備やヒトを必要としなくなり、むしろ、AIやデータ・アナリティクスといったデジタル技術の重要性が増すということだ。
世界の株式市場の時価総額ランキングを見てもその傾向は如実に見てとれる。産業資本主義時代に富を蓄えてきた大企業たちに代わって、GAFAと呼ばれる「Google(グーグル)」「Apple(アップル)」「Facebook(フェイスブック)」「Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)」といったデジタル・テクノロジーを駆使して成長した企業が、時価総額で世界トップに並ぶ。
グーグルやフェイスブックといった企業をアメリカの大学生が創業したことからもわかるように、大きな資本がなくてもアイデアとデジタル・テクノロジーによって、世界を変える新しいビジネスを創出できるようになった。
GAFAは、検索や情報発信、買い物の履歴など企業に蓄積する膨大な個人データを事業に活用するプラットフォーマーとして、それぞれの分野で圧倒的な地位を築いている。GAFAの共通点は、第三者がビジネスを行うための基盤(プラットフォーム)を構築している「プラットフォーマー」として大きな力を持つ点だ。デジタル技術やデータ量の”差”が利潤の源泉であり、強さの根源になっている。
アマゾンの株価は約20年で1000倍以上に
1990年代末期から2000年代初期にかけて、アメリカでは多くのIT関連ベンチャーの株価が異常なまでに高騰した、いわゆる「ITバブル」が発生した。当時、インターネットへの期待感から、資本家たちはその可能性を正しく評価できないまま、競うようにITベンチャーに投資した。
1996年に1000ポイント前後で推移していたナスダックは、1999年1月には2000ポイントを突破。翌年3月10日には、過去最高値となる5048ポイントに達した。そして、シリコンバレーを中心にベンチャー設立ブームが起こったが、ITベンチャーのほとんどが実力以上に評価されていたことが明らかになってくると、その期待感は徐々に剥落し、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げを契機に株価は急速に崩壊。2002年には1000ポイント台まで下落した。こうした熱狂と失望のなかで、多くのIT関連ベンチャーは倒産に追い込まれた。結局、このときに登場したIT関連企業で残ったのは、グーグルやアマゾン・ドット・コムなど一部のベンチャー企業だけだった。
注目すべきは、当時から生き残っているグーグルやアマゾン・ドット・コムは、その後も成長を続け、いまやプラットフォーマーとして大きな力を持ち、世界トップ5に入る時価総額になっているということだ。
1997年5月に1.5ドル程度だったアマゾン・ドット・コムの株価は、ITバブルの波に乗り、1999年4月には95ドルまで急騰した。ITバブルが崩壊すると10ドルを切るが、2018年8月現在のアマゾンの株価は約1880ドルである。なんと約20年で株価は1000倍以上になっている。もはやITバブル当時の株価下落はノイズ程度でしかない。ITバブルのときに本物を見抜くリテラシーがあれば、同社の株式を買うことで、莫大な資産を所有していたり、IT技術に深い見識を持っているというわけではない一般の人であったとしても、大きな利益を手にできたのだ。