遠隔地の医療機関同士で、安全なカルテの共有が実現
今存在する多くの仮想通貨にはブロックチェーン技術が利用されている。「中央管理体が存在せず、データを改ざんすることが困難なデジタルデータ」で、ビットコインの基盤技術として世に出たことで注目を集めた。もっとも、ブロックチェーン技術を採用していないリップルのような仮想通貨も確かにある。ただ、リップルの根幹をなす独自技術である「XRPレジャー」は、ブロックチェーンの技術的発想を多分に取り込んでいる。
ビットコインのブロックチェーンは、データの管理をひとつのサーバーが行うのではなく複数が分散して行うことで、データ改ざんを行うことが極めて困難な仕組みだ。そんなブロックチェーンには、様々な応用例が期待できる。
中でもブロックチェーンの応用例として注目されるのが「スマートコントラクト」と呼ばれる、契約の自動執行技術である。たとえば、仮想通貨の貸し借りを行っていて、ブロックチェーン上にその返済期日を書き込めば、期日の到来とともに、借り手から貸し手の口座へ利息付きで自動的に仮想通貨が返還されることになる。
2030年までには、次のような仕組みが始動、あるいは世界中に普及している可能性がある。
記録・書類管理
スマートコントラクトを応用し、AIなどの自動オペレーションシステムと組み合わさることで、会社内では従業員の勤怠管理や、会計帳簿の管理が自動化されるようになると期待されている。株主の議決権行使がオンライン上で行われる場合、複数投票などの不正が行われずに安全に実行される。採用活動では履歴書がブロックチェーン上に掲載され、過去の主要な行動がすべて共有されるため、経歴詐称を防ぐ。
取引先とのビジネスも、契約書はブロックチェーン上で交わされ、貿易での海外送金は、仮想通貨によって低コストで瞬時に行えるようになることが予想される。
現在日本国内では、テックビューロが、「mijin」と呼ばれる国産ブロックチェーンに関するプラットフォームサービスを提供している。
ブロックチェーンでは誰でもシステムの運用活動に安価できるビットコインのようなものを「オープンチェーン」と呼び、特定の社内向けのブロックチェーンを「プライベートチェーン」という。mijinは、プライベートチェーンに属する。また、オープンチェーンのプラットフォームであるイーサリアムを活用する国際企業連合であるEEAには、トヨタ自動車〈7203〉の人工知能研究のための子会社、TOYOTA Research Institute、三菱UFJフィナンシャルグループ〈8306〉、NTTデータ〈9613〉、KDDI〈9433〉といった国内大手企業のほか、ブロックチェーン・コンサルティング企業の「スマートコ
ントラクトジャパン」も加盟している。
日本ブロックチェーン協会(JBC)には、仮想通貨取引所各社のほか、ニチガス〈8174〉、ガイアックス〈3775〉、日本美食といった多様な業界が加盟している。ブロックチェーン推進協会(BCCC)には、各種ブロックチェーン関連企業のほか、リクルートホールディングス〈6098〉、オウケイウェイヴ〈3808〉、電通〈4324〉、大和証券グループ〈8601〉、さらには法律事務所や特許事務所なども会員となっている点も注目される。
こうした企業群が、企業活動の公証にブロックチェーンを用いる最先端の試みを牽引していくものと考えられる。
医療
現在、医療カルテはプライバシーなどの観点からデータ共有が進んでいないが、将来的に「電子カルテ」が専用のブロックチェーン上に載るようになれば、暗号化されて改ざんが不可能となり、遠隔地にいる医師らの間で安全に共有できるようになると考えられている。
またインターネットを介した遠隔診療によって、僻地や島嶼部でも医師の診察を受けられるようになると予想される。専門的な外科手術なども、ロボットアームを遠隔地から操作することで高度医療が提供可能になるだろう。この遠隔診療は、仕事や育児などで忙しく通院できない人々の間で「時短」目的としても活用されていくものと予想される。また2030年までには、AIロボットが自律的に手術を行う技術の実用化も進むといわれている。
国内のプロジェクトとしては、NAM(中野AIメディカル)や、Medicalbit (メディカルビット)が注目されている。Medicalbitは「MBCコイン」というICOトークンを発行して資金調達し、おもにブロックチェーンを用いた電子カルテや医療アプリの展開を進め、第四次産業革命時代の新しい医療のあり方を模索している。NAMも、「NAMコイン」と呼ばれるICOトークンをすでに発行しており、AI(人工知能)を用いた疾患予測や問診ボットを開発、サービス展開するだけでなく、独自の次世代電子カルテ「NAMカルテ」を事業化する狙いがあるようだ。
出版・音楽業界
電子書籍にブロックチェーンの技術を導入して規格統一ができれば、たとえばAmazonのKindleで買った本を、楽天〈4755〉のKobo端末でも読めるといった企業横断的なコンテンツの楽しみ方ができるようになる。また、プラットフォーム企業の都合でコンテンツの消去や操作がなされるということがなくなり、プラットフォーム企業に依存しない、シームレスな電子書籍を実現できる。
さらに、購入した電子書籍や音楽データの貸し借りも、スマートコントラクトの応用によってブロックチェーン上で可能になると考えられる。貸し借りにわずかな手数料を徴収することで、コンテンツ企業にとってはマネタイズの機会も増えて、収益構造が改善されることも期待できる。
日本国内では、CAMPFIREと幻冬舎が共同で、トークン発行型出版を展開するプラットフォームである「EXODUS」の立ち上げを発表している。編集会議には通らない出版企画でも、支援をする熱心なファンがいれば出版を実現できる仕組みになるとみられている。
また、ブロックチェーンを活用した著作権管理システムの「Po.et」も、出版などのコンテンツ業界に貢献するだろう。
2030年までに、物流の「ほぼ無人化」が完了か
物流・トレーサビリティ
自動運転やロボティクスの技術(詳しくは後述)とも相まって、物流は2030年までにおおむね無人化が完了し、大幅に効率化されるだろう。自動運転トラックが実用化され、長距離輸送はほとんど人間の手を介さずに行われると予想される。従来のように運転手が休憩を取る必要もないため、輸送時間の短縮化が実現できる。また、運転手の寝不足などによって事故を起こす可能性もなくなる。集配所から各住宅へ届けるルート宅配には、長距離輸送よりも複雑なオペレーションが求められるが、2030年までにはロボットが完全自動で宅配を行うことも、実用化を視野に入れて実験が繰り返されているだろう。
2018年現在では、みずほフィナンシャルグループ〈8411〉、日本通運〈9062〉、日本郵船〈9101〉、NTTデータ〈9613〉など、貿易業界に関連する14社が「ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携基盤実現に向けたコンソーシアム」を立ち上げており、まずは貿易関係書類をブロックチェーン上でやりとりする動きが始まっている。
「食の安全」を保つため、農産物などの生産者情報も、IoT(物のインターネット化)を進めることで監視カメラ情報や位置情報と連動してブロックチェーンによって記録され、公証されるようになると想定される。生産地からどのようなルートやプロセスを経てできた製品なのか、工場での加工状況やその間の配送状況を管理しながら、食のトレーサビリティ(過去に遡っての追跡可能性)をブロックチェーンが保証するのである。この技術は、ムスリムのハラル認証にも応用できるかもしれない。
長野県茅野市を本拠とする「日本ジビエ振興協会」は、野生鳥獣の食肉(ジビエ)のトレーサビリティの管理に、ブロックチェーン技術を応用したシステムの試験運用を2017年から進めている。捕獲者と食肉の個体情報を紐付けて、自動的に識別番号を割り振り、これらの情報が即座にブロックチェーンで管理される。また、BtoB取引サイトと連携し、ジビエ食肉の身元を明らかにした上で売買することもできるようになる。この国産ジビエの個体管理システムに用いられるブロックチェーンには、前述の国産プライベートチェーン・プラットフォーム「mijin」が採用されている。
無人店舗
契約を自動化するスマートコントラクトによって、スーパーやコンビニでは無人レジが普及し、商品のカウントから代金の決済、袋詰めまで、すべて自動で行うようになる可能性がある。またAIの高度化によって、接客や決済などを自動化できれば、無人店舗や無人サービスを利用できるようになり、地方にも充実した利便性の高いサービスが普及すると期待できる。
日本電気(NEC)〈6701〉は、客がレジ台に置いた商品を、AIの画像認識技術によって自動的に識別して特定し、瞬時に精算する技術を既に開発している。また、国内ベンチャー企業のVAAKは、店舗の商品を手に取っただけで自動的に精算される、レジ不要の決済システム「VAAKPAY」を開発した。店舗に設置した監視カメラのみで無人店舗を運営することが可能であり、アメリカの「AmazonGO」に匹敵する技術として注目されている。
また富士通は、ブロックチェーン技術を用いた地域スタンプラリーの実証実験を2017年に小田急電鉄〈9007〉と千葉市で行っているほか、台湾のファミリーマートでブロックチェーンを用いたクーポン配布やロボット接客の実証実験も進めている。将来、大手チェーン経営の飲食店では、オペレーションの効率化と人件費削減のため、レジだけでなくホール業務まで機械化されるものと予想できる。2030年までには、調理を完全自動化する店舗も現れるに違いない。
シェアリング・エコノミーの代表格であるレンタカーも、2020年以降は無人化が進むと考えられる。運転免許証にICチップが埋め込まれているため、その確認作業もロボットが行うことができる。2030年には、運転席のない完全自動運転車のレンタルも始まるかもしれない。