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米株価急落の背景 懸念される「本当のリスクシナリオ」とは?

今週(10/6〜10/12)の国際マーケットレポート。10月10日、米国株式市場は急落。それに引きずられるようにアジア株式市場も下落した。10年米国債利回りが3.0%を超えたことで市場に動揺が拡がったことが主な原因と考えられるが、景気後退の兆候は観測されておらず、FRBは実体経済の推移を見守る姿勢を崩していない。「水準訂正」と考えられる米国長期金利上昇の背景から、今後注意すべきリスクシナリオを探る。

株価急落も、FRBは「実体経済で判断」の姿勢を堅持

米国株式市場では、10月10日、株価が急落し、ダウ平均で831ポイント下落した。続く、11日にも545ポイント下落し、今年2月以来の大幅な下落となった。米国株式市場での株価下落の影響は11日のアジアの株式市場に波及し、東京株式市場では日経平均株価が、前日比915円18銭安の2万2590円86銭、上海株式市場でも上海総合株価指数は前日比5.2%安となり2583.46で取引を終了した。上海株は2016年2月以来の大幅な下げで、2015 -16年の相場下落時でも割り込むことがなかった2600を下回った。

 

米高官の発言からは、今回の株価下落を比較的冷静に捉えている様子がうかがえる。ムニューシン米財務長官は、「米経済のファンダメンタルズは引き続き非常に強く、調整があったという事実は、相場がこれだけ上昇していることを考えると、特に驚きではない」*と述べた。しかし、トランプ米大統領は、相場急落は米中貿易摩擦が理由ではないと責任は棚上げした上で、政策金利を断続的に引き上げているFRBこそが「正気を失っており」、「異常だ」と批判してFRBの政策に問題があると指摘した。

 

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一方、FRB側からは、ボスティック・アトランタ連銀総裁やエバンス・シカゴ連銀総裁が共に、今回の株式市場の動きで景気判断や基本的な見方を変えるものではなく、米経済に与える影響はそれほど深刻ではないとの発言*があった。FRBは、トランプ政権の圧力よりも、実体経済がどう推移していくかを見る姿勢を前回FOMCでも鮮明にしており(9月29日配信、連載第53回/関連リンク『トランプからの独立宣言?利上げ実施で注目されるFRBの中立性』参照)、今のところこれを堅持する姿勢である。

*いずれも『Reuters』10月11日報道

下落の原因は市場の動揺?景気後退の兆候は見られず

今年初めは、長短金利の逆転現象すら予想されるほどであった。しかし、現実には、FRBによる3回の利上げ(利上げは直接には短期金利のみの上昇をもたらす)にも関わらず、逆イールド化は起こっていない。

 

10年物米国債利回りはこれまで米国経済成長の腰折れ観測やごく近い将来での景気後退局面入り観測から、3.0%水準に近づく上昇をするものの、そこからは上昇せず低下することを繰り返してきた。つまり、市場が予想したような、米国経済の腰折れや失速はまだ兆候がないということである。そして、長期金利は結局短期金利の上昇に平行する形で、じわじわと上がり続けた。この間、株価も上昇を続けたのが今年の株式相場である。

 

パウエルFRB総裁は、繰り返し、米国経済の堅調ぶりに言及し、インフレ抑制のための利上げの継続を示唆して市場との対話を進めてきたが、市場はこうした働きかけにも、債券利回りの変動に対しても鈍感だった。しかし、堅調な経済状況が継続するなかで、今回は水準を切り上げるような動きとなって10年米国債利回りが3.0%を超えてきたために、市場参加者の間に動揺が拡がったと考えられる。

米国長期金利の上昇は「水準訂正」であるが…

金利の上昇は、たびたび金融市場の参加者を動揺させてきた。たとえば、2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が量的緩和政策の縮小について言及すると、米債券市場で長期金利が急騰して、特に新興国市場は混乱に陥った(いわゆるテーパー・タントラム)。

 

当時は、量的緩和政策の縮小がテーマだったが、今回は、市場の予想に反してFRBが向こう2年ほどに亘って政策金利を上げ続けるというメッセージを発したことが長期金利の水準訂正に繋がったのである。金利の上昇は、住宅ローンなど各種貸し出し金利の押し上げ要因であり、実体経済に影響する。市場が、そのマイナスの影響をどう消化するかというところで、株式市場のモメンタムが大きく崩れたのが今回の下落に繋がったのであろう。

 

ただ、米国長期金利の上昇(筆者は水準訂正という言い方をしている)背景にあるのはFRBの金融政策の間違いなどではなく、米国経済の堅調さと完全雇用状態からの賃金の上昇圧力、そして敢えて言うならば追加関税からの価格転嫁と財政出動の影響によるインフレへの懸念ではないだろうか。インフレ抑制のために、金利を過度に上げにいかなければならなくなることこそがリスクシナリオであろう。

 

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もちろん、史上空前の企業収益という好調さに循環的な限界が見えてきたとの懸念はある。さらに、米中貿易摩擦と米ドル金利上昇に加え、イタリアの財政問題やブレグジットなど欧州での課題など、不透明要因の多さを考慮すれば、株価が直ぐに反転上昇すると考えることは楽天的に過ぎるかもしれない。当面は、中間選挙を控え、米金利の動向を注視し、これまで株価を支えてきた良好なファンダメンタルズに変調が見られるのかどうかを見極める相場が続きそうである。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。 2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

 

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