航空機の取得手段として活発化する「航空機リース」
少し前置きが長くなりましたが、前回の記事でご紹介した図表で示したとおり、空を覆わんばかりの航空機が毎日空を飛んでおり、2016年末の時点で2万3480機のジェット旅客機が登録・運航されています(※1)。
※1 出所:Boeing”Current Market Outlook 2017-2036”、一般社団法人日本航空機開発協会『民間航空機に関する市場予測2016-2035』、統計は民間機のみの統計で旅客機と貨物機の両方を含む。軍用機や公的機関が使用する輸送機は除く。
航空機の機種の概要については、『無敵のグローバル資産「航空機投資」完全ガイド』(幻冬舎)第4章にて詳述していますが、100席未満のリージョナルジェットと呼ばれる小さめのもの(三菱航空機株式会社が開発中のMRJもこのカテゴリーになります)から500席を超える巨大なものまでさまざまな大きさの航空機が存在し、今日も世界中の人と貨物を運んでいます。
増大する航空輸送需要(旅客・貨物)に呼応する形で航空機も継続して増加してきました。図表1は1995年から2016年までの21年間の航空機数の推移とそのなかに占めるリース機の割合を示したものですが、1995年には約1万2000機だった航空機は2016年には約2万3000機と約1.9倍に増加していることがわかります。
ここまで増加した要因として、旅客需要の増加やエアラインの戦略変更、LCCの台頭、環境対策、買い替えサイクルの促進など複数の要素がありますが、需給や環境変化に加えて、航空機を取得する手段として航空機リース(オペレーティングリース)が活発になってきたことは特筆すべきことです。
リース機はこの20年間で4.5倍以上に
航空機は1機あたり数十億円、大きなものになると100億円を超える超高額な資産ですが、エアラインの財務体質は脆弱で、自社のキャッシュフローと資金調達ではすべての航空機を購入することは非常に難しいのが現状です。
しかしながら、新興国エアラインの増加やLCCの台頭などエアラインの競争環境は激しさを増す一方であり、航空機の継続的な購入は競争力維持・向上のためには必須の戦略であるため、機材調達手段の一つとして近年オペレーティングリースが積極的に活用されてきました。
オペレーティングリースは、航空機の調達手段として世界中のエアラインの間で利用率が高まっています。1995年まで遡ると世界の航空機に占めるオペレーティングリースの割合はわずか17%だったものが、今日使用されているジェット航空機のおよそ42%が航空機リース会社によって賄われるほど急速に増加しました。
世界の航空機のうち約1万機がオペレーティングリースの形式でエアラインにリース・運航されていますが、リース機はこの20年間で4.5倍以上に成長してきたのです。
さらに航空機リース会社は、現在2300機以上の航空機バックオーダーを航空機メーカー(OEM)に対して行っていますし、さらにエアラインが発注し納入される新造機のセール・アンド・リースバックも積極的に手掛けています。航空機調達においてオペレーティングリースが担う役割はますます大きくなると見られ、呼応する形でリース機の機数も加速度を増して増加していくものと思われます。
エアラインが航空機リースを活用する7つの理由とは?
ここ20年にわたる航空機のオペレーティングリースの著しい成長が示すとおり、多くのエアラインが様々な理由から「オペレーティングリースは費用対効果が高く、かつ機動性の高い機材調達源である」と認識し積極的に活用しています。
エアラインが自社調達によるオンバランス取引ではなく、オペレーティングリースを利用して航空機を取得する背景には複数の異なる事情が存在しますが、それは経済的理由だけに限りません。
例えば、これまでエアラインは保有する機体の調達や現金化(セール・アンド・リースバック)、急な航空輸送需要の増加に対応するためにオペレーティングリースを積極的に活用してきましたが、それだけではなく機材計画(フリート戦略)の柔軟性向上、投資リスクの軽減、残存価値リスクの移転等を目的に航空機リースは活用されています。
これらの要素をまとめると、エアラインが航空機リースを活用する理由として次の7つが挙げられます。
①人気機種の調達
近年、航空機の需給は逼迫(ひっぱく)しており、人気の高い機種や最新鋭機においては、注文から納入(デリバリー)まで、最短でも5年以上かかることも珍しくありません。
そのため、エアラインは10年単位の超長期の機材計画(フリート戦略)を作成し、航空機メーカー(OEM)との受注調整を行います。そこまでしないと新造機を予定どおりに取得できないのですが、このような戦略が取れるのは信用の高い大手エアラインのみに限られます。
そのため、中小のエアラインが人気の高い機種や最新鋭機を取得する手段としてはオペレーティングリースが現実的な手段となるのです。また大手エアラインにおいても、長い年月を経てようやく航空機がデリバリーされてくるのですが、5年や10年先となると良くも悪くも市場環境や財務状況は計画を立てた時点から異なってしまうのは避けられません。
悪化していた場合は、発注のキャンセルや、それだけでなく違約金の支払いという状況にもなりかねませんし、時には会社の屋台骨を揺るがす事態に発展することもあります。逆に、良化していた場合でもせっかくの成長のチャンスに際して航空機が足りないという状況に陥ってしまいます。そこから急いで発注しても受け取るのは次の5年後になってしまうので、このような場合にもオペレーティングリースは有効な選択肢となるのです。
②財務的な柔軟性
航空機は非常に高額のため、購入に際しては大手エアラインでも巨額の借り入れを行うことが一般的です。その結果として貸借対照表に巨額の負債を計上することになり、会社の財務内容や信用格付けに悪影響を与えてしまいます。
ところがオペレーティングリースとして航空機を取得(リース)すると機材コストを営業費用として取り扱うことができるようになるため、財務的な柔軟性を目的にオペレーティングリースを選択することは大手エアラインでも珍しいことではありません。
そのほかにも、少々後ろ向きな要素も含みますが、エアラインにとって航空機はキャッシュが不足したときの換金手段の一つにも成り492航空機投資の魅力得、業績が悪くなった会社が本社ビルを売却するように、エアラインも経営が苦しくなったとき、もしくは何らかの理由によってキャッシュが必要になったときに、自社が保有している航空機を売却しリースとして継続利用する、いわゆるセール・アンド・リースバックによって資金調達を行うことが選択されることがあります(※2)。
※2 エアラインの財務諸表を見る上で「固定資産(機材)売却益」は粉飾決算を見抜くためにも非常に重要な要素である。経営が悪化したエアラインは不足する流動性や収益を航空機のセール・アンド・リースバックで補うことがあり、航空機の売却価格を中古市場価格より高く設定し、差額をリース料に上乗せ(プレミアム)して支払うことで架空利益を一時的に捻出することが可能となる。したがって、固定資産売却益が連続して計上されている場合は注意すべきと言える。
次回に続きます。