ビジネスの現場の様々な場面で、IoT活用が急速に進む昨今。IoTをどのように捉え、どのようにビジネスに組み込めば良いのでしょうか? 本連載では、IoT時代の「バリューチェーン革命」とは何か、そしてどのようにビジネスで活かすべきか詳しく解説します。

IoT=「モノ・コトのインターネット」との理解が適切

IoTは、「Internet of Things」の省略表記であり、一般的には、『モノのインターネット』と翻訳されている。具体的には、『IoTとは、すべての「モノ」がインターネットにつながること』により、その先にある「データプラットフォーム」とのデータ・情報をやりとりすることが可能となることを指す。(以下図表1を参照)。

 

[図表1]IoTとは

 

しかし、IoT活用を考える立場からいえば、この翻訳の形で理解することが適切とは思えない。

 

Thingを辞書で調べると、モノとコトの双方を指すことが分かる。実際には、IoTは、モノにインターネット接続機能を持たせて、データ・情報のやり取りをする。その場合、データ・情報は、モノの状態を示している。例えば、稼働状況、停止状態とか、あるいは、温度・音・高度等のモノの置かれた環境状態等である。

 

そう考えると、IoTでやり取りしているのは、コト情報(モノの状態)である。モノ情報といえるのは、例えば製品では、シリアルナンバー等のID程度で、大切なものは、コト情報のほうが圧倒的に多い。

 

表現を変えると、IoTでつないで情報活用する場合、重要になるのは、コト情報の把握が目的である。モノはそのための端末・ツールに位置付けられる。

 

さらに、モノやコト情報は、インターネットを介して、データを収集・蓄積・加工する「データプラットフォーム」というべきものとつながって初めて意味を持つ(以下図表2を参照)。つまり、IoT活用の立場でいえば、IoTは、「モノのインターネット」よりも、「モノ・コトのインターネット」という理解が適切と思われる。

 

[図表2]IoTとは

 

また、IoTを製造プロセス等で活用する場合、インターネット接続が不要な場合もある。つまり、必要なのは、モノに通信機能を持たせて、外部のデータ・プラットフォームまたは、別のモノと情報交換できるようになることである。

 

このように考えると「IoT」は以下の定義のほうが、実務的には良いと思われる。

 

「IoT」は、『あらゆる「モノ」に、通信機能を持たせ、インターネット接続や相互通信により、「モノ」の状況(=「コト」)を把握し、緻密で自律的で柔軟な、自動認識、遠隔計測や自動制御等を行うこと、またはツール、技術』を指す。

 

つまり、IoTにおいて、「モノ」は、「コト」を把握するための結合点に位置付けられる。さらにいえば、IoTの目的は、「コト」(の状況把握や制御)にあり、「モノ」(をインターネットにつなぐこと)は手段といえる。

 

この観点がないと、IoTの表面的理解に引きずられ、本来の「目的」に関する議論が進まなくなる可能性が高い。

国内企業のIoT利用率は6.0%・・・遅れが目立つ日本

総務省の情報通信白書では、日本企業のIoT・AI活用の取り組みへの意識の低さについて警鐘を鳴らしている。2017年白書では、取り組みへの意識や進捗に関する調査を示し、海外企業と比較しての遅れを指摘している。

 

IoT・AIを活用した第四次産業革命への期待認識の差を企業・個人双方に対して国際比較している。調査結果を見ると、日本は、欧米に比べダントツにポジティブ度が低い結果となっている。特に、個人よりも企業としての認識のネガティブ度が高い(以下図表3を参照)。

 

[図表3]IoT/AIへの取り組みに関する意識の国際比較

総務省「情報通信白書2017」より作成
総務省「情報通信白書2017」より作成

 

また、第四次産業革命への取り組み(具体的には、IoT・AI導入や活用への取り組み)の進捗度に関しても、米国・ドイツ・英国に比較して、日本の「検討段階」の回答が、ほぼ50%となっており遅れが際立っている(以下図表4を参照)。

 

[図表4]第4次産業革命に向けたIoT・AI 等の取り組み状況

※第4次産業革命にかかる取り組みを行っていない、今後行う予定がない回答は除く
※第4次産業革命にかかる取り組みを行っていない、今後行う予定がない回答は除く

 

図表4は、第四次産業革命に取り組んでいる企業に限っての回答まとめであり、取り組みをしていない企業を含めた全企業レベルとなると、さらに大幅に低い比率となる。

 

参考のために付記すると、IT専門調査会社IDCの2017年調査によれば、国内企業のIoT利用率は6.0%である。日本の企業の「意識」の低さや「検討段階」が多いという調査結果は、IoT活用相談や対応を検討している現場の感覚からみても、頷ける結果となっている。

 

図表4の「検討中」の企業群の中をみても、レベル差が大きいように思う。現場での悩みを知る立場からいえば、「検討中」としている企業にも、3つのレベルがあるように思う(以下図表5を参照)。

 

[図表5]「IoT」の活用レベル

 

第1のレベルは、議論段階であって、「そもそもIoTとは何か?」「うちにとってIoTはどこにどう活用できそうなのか?」的な入り口論的な企業。

 

2016年頃は、「そもそもIoTとは?」論が多かったが、2017年以降は、「うちにとってのIoTの意味・価値」論がほとんどの状況となっている。

 

第2のレベルは、試行錯誤段階に入っている企業。このレベルの悩みは、「IoTは使える、効果があることは分かるが、どうビジネスインパクトを出すように導入するかが見えない」という企業が多い。実際に、製造プロセスの工程管理や、作業支援にIoTを活用する等の取り組みを行っているが、効率化効果そのものよりは、IoT概念検証レベルか、あるいは、内外へのアピール効果のレベルにとどまっている。

 

第3のレベルが、実際に、IoT活用の目指す姿を描き、実現シナリオを持って進めているレベルで、実際は極めて少ない。公開されている情報から見て、国内企業でいえば、コマツがこのレベルの典型的な例といえる(以下図表6を参照)。

 

[図表6] IoT・ICT 活用をベースにした成長戦略

 

本連載の主たる対象は、第1、第2のレベルの企業の経営者あるいは経営者予備軍の読者であるが、第3のレベルにある企業向けには、現状の取り組みをさらに飛躍・進化させるにはどうするかの視点や方法論を提供することを意図している。

 

IoT時代に競争力あるビジネス体質を実現するためには、どうしても、第1、第2のレベルを脱皮する必要がある。次回は、この段階で抱えている問題は何かを次に深堀していきたい。

本連載は、2018年7月3日刊行の書籍『IoT時代のバリューチェーン革命』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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長谷川 建一

扶桑社

シティバンクグループのニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任し、日本に「プライベートバンク」を広めた第一人者である著者。現在は香港に自ら設立した『Wells Global Asset Management Limited』の最高経営責任者と…

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