擁壁を取り払うことで、平らな敷地の面積が拡大
これまでの連載で紹介したように、狭小地・変形地のデメリットを解決する方法はいくつもあります。とはいえ、デメリットの種類も千差万別。そこに家族の事情も加わると無限大に増えていきます。
そこで実際に狭小地・変形地のデメリットを解決した事例を紹介します。なかには親の介護など最近ありがちな家族の事情も関わっているので、参考になる部分が多いかもしれません。
【実例1】擁壁を下げて建築可能な敷地面積を拡大
敷地面積:67.98㎡(約21坪)
延べ床面積:66.78㎡(約20坪)
家族構成:50代の子世帯と90代の親世帯
その敷地には、もともと90代の親世帯の家(築40年)が建っていました。しかし、そろそろ介護が必要になるだろう、ということで息子さんが二世帯住宅に建て替えることを決意。私たちにご依頼いただくことになりました。
最初に悩んだのが敷地の狭さです。そもそも約21坪と狭いのに、二世帯住宅を建てなければなりません。しかも、息子さんご夫婦は、それまで約30坪と広いマンションに住んでいたので、荷物がたくさんありました。それを全部収納しなければならなかったのです。
その土地の容積率は100%でした。古い家の面積は52.16㎡(約16坪)でしたから、あと15.82㎡(約4.8坪)増やすことができます。
そこで目をつけたのがこの敷地の前後にある擁壁です。この敷地は3軒の家が並ぶひな壇の真ん中にありました。それぞれの境界線には擁壁があります。擁壁は強度を持たせるために斜めの角度がついています。ですから、土地を掘り下げていくらか擁壁を取り払うと、平らな敷地の面積が増えるのです。この方法で容積率ぎりぎりの67・98㎡(約21坪)近くまで建物の面積を広げることにしました。
また、土地の高さを下げるということは、その分道路との段差が小さくなるので、90代の親世帯にはよりやさしい家にもなります。
お隣とのトラブルも「説明を繰り返す」ことで解決
とはいえ、ただ延床面積を増やせばいいというわけにはいきません。当然ながら住む人が快適に暮らせるように設計するのが私たちの使命です。
ところがここが大きな壁となりました。子世帯の奥様がなかなか希望を話していただけない人だったのです。古い家の解体がはじまっても「どうでもいいです」といったスタンス。こちらとしても本当にいいのかな、と心配しているとお隣からクレームが入ってしまいました。
クレームというのは、境界線のことでした。お客様とお隣の水道管は、道路からまずお隣の土地に入り、そこから分岐してお客様の土地に入っていたのです。そこで道路から配管し直すためにお隣の水道管をいじりたいと依頼すると、人の土地で余計なことをするな、と猛烈な抗議をいただいました。
このようにもめないためにも、配管はこの機会に分けるべきです。また水道管の中は30年以上経つと赤さびが出てきます。衛生上の問題としても交換しなければならないでしょう。それなのにお隣は工事を断固拒否・・・。
実はこのような配管方法は、昔の狭小住宅では多々あります。道路から2本配管するよりもいくらかコストダウンできるからです。今では考えられない業者のモラルの低さですが、当時は当たり前のように行われていました。
私たちは経験上そのことをよく理解していました。ですから担当者は見積りの段階で配管工事の費用も含めていましたし、工事日が決まった時点でお隣に説明にもあがっていたのですが、なかなかご理解いただけません。しかも、お隣のご主人は仕事の都合で夜しか会えないという状況でした。
そのため、子世帯夫婦の奥様へのヒアリングと同時進行で、夜間にお隣にも行き、説明を繰り返すということを続けました。
そんなこんなでやっとお隣のご理解を得ることに成功。そのことを子世帯夫婦にご報告に行くと、奥様に変化がありました。すらすらと希望を話してくれたのです。
よくよく聞くと、「今まで気ままな2人暮らしだったのに、念願の一戸建てに住めると思ったら、理由は夫の親の介護。とても気持ちよく住み替えられる気分ではなかった。しかし、担当者が一生懸命お隣に通う姿を見て、本音を話す気になった」と言うのです。
奥様の希望はアジアンテイストのリビングダイニング。そして対面キッチンにバーカウンターを設えることなどでした。介護で疲れたときに好きなインテリアに囲まれてリフレッシュしたかったのです。
これで親子世帯全員が納得できる注文住宅を完成させることができました。
この話は次回に続きます。