高さ4mの勾配天井、幅2.5mの大開口で広々空間に
前回の続きです。
【実例2】北側斜線制限を逆に活用して開放感たっぷりの家に
敷地面積:102.86㎡(約31.11坪)
延べ床面積:97.92㎡(約29.62坪)
狭小住宅を設計する際に、必ずといっていいほど立ちはだかる大きな壁が北側斜線制限です。
これは、建物の北側にある土地の日当たりを確保するために、北側の土地から一定の距離までの建物の高さを制限するものです。
この制限に従うと、ほとんどの狭小地の建物の北側屋根は低くなってしまいます。今回紹介する家も2階の北側の天井高が1.4mしか確保できませんでした。このままでは大人は歩くことができません。
そこで発想の転換です。まず2階は家のなかでもっとも明るくしたいリビングにしました。
2階なのでまわりが建物で囲まれていても陽光を取り入れることができます。
そして、天井高が1.4mしかない北側の壁には大型液晶テレビを置くことにしました。いくら大型でも1.4mの高さがあれば十分設置することができます。また、テレビを置くことで、低い天井の下を歩かなくて済みます。
さらに低い北側の天井からつながる南側の天井は高さ4mの勾配天井としました。外観としてはおしゃれな片流れの屋根です。
もともと2階は1階のように玄関や階段の面積がいらないので広いワンフロアを確保できます。そのうえで高さ4mの勾配天井としたので、それはもう広々。高さにプラスして幅2.5mの大開口(窓)も設けたので開放感はバツグンとなりました。
ちなみに建売住宅の開口幅の多くは、広くても3.6mです。このような高さや大開口を設けられるのも注文住宅の醍醐味といえるでしょう。
この物件は東京都でもトップクラスの超高級住宅地に建てました。名前を言えば誰でも知っているおしゃれな街から歩いて数分の場所です。施主様は、この憧れのエリアで満足できる一戸建てを持てたのは、建物の建築費が安くできたからだと大いに喜んでいます。
人が歩かない道路側の屋根を低くし、快適な家に
【実例3】誰も手を出さなかった三角形の土地を快適空間に
敷地面積:54.93㎡(約16.61坪)
延べ床面積:90.98㎡(約27.43坪)
家族構成:50代夫婦
次は狭小地+変形地の典型的な例です。立地は江戸情緒が色濃く残る都内の下町。施主様は、もともと近所の分譲マンションに住んでおり、このエリアをこよなく愛していました。そのため、「身体が自由に動くうちにこの地域の一戸建てに住んでみたい」と何年も思い続けていたそうです。
そこで分譲マンションを息子夫婦に譲り、近くに土地を見つけて注文住宅を建てることにしました。
ところが人気エリアゆえに土地の価格が高い。土地の費用だけで予算額を使い切ってしまいそうです。さらにご夫婦はお二人とも50代後半。長期の住宅ローンは組めません。困り切っていた施主様は、ある日土地探しを依頼していた不動産会社から連絡をもらいます。
「実は以前からご希望のエリアで売りに出されている土地があるのです。ただ、面積が17坪しかないうえに三角形なので、建売業者さえも買ってくれなくて・・・」
早速見に行くと、日当たりや交通の便は理想的。しかも価格は相場の約半額。それだけで2000万円の節約になります。
しかし、やはり地形がネックとなりました。狭小地の三角形。しかも2本の道路に面していたので、道路斜線制限で、より3階部分を小さくしなければならなかったのです。
道路斜線制限とは、道路の日当たり・通風、両側の土地の日当たり・通風を確保するために、道路から一定の距離までの建物の高さを制限するものです。一般的な土地は道路に面した辺が1本なので、この制限も1辺だけ対応すればいいことになります。ところがこの土地は道路に面した辺が2本なので、両方向から制限されます。
「どれだけ小さな家にすればいいんだ!?」
施主様は大手ハウスメーカーを含む数社に間取りプランを依頼しました。その結果、ある鉄骨系のハウスメーカーからは「うちでは対応できる短い柱がないので建てられません」という回答。そのほかの会社からのプランも、3階の部屋が小さすぎて実際の生活が想像できないものでした。
施主様はこの状況で私たちに相談に来ました。幸い我々には三角形の土地での設計経験も豊富にあります。制限に対応するように屋根の高さを微妙に調整し、人が歩かない部分(道路側)を低く、人が歩く部分を通常の高さとするプランを設計しました。
また、2本の道路に面しているということは、二方向からの日当たりを確保できるということです。そのメリットを生かして窓を設置し、非常に明るいプランとなりました。
施主様はそのプランに納得。現在は大好きな街での一戸建て生活を満喫しています。