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兄弟の強欲が招いた相続トラブル…寸断された家族の絆

前回に引き続き、兄弟の強欲が招いた相続トラブルのエピソードを取り上げます。今回は、その結末を見ていきます。

気心知れた家族だからこそ「ゴネ得」になることも・・・

長男を見送った後で、私はスーさんに電話をかけた。

 

「すったもんだありながらも、一応は無事に解決したみたいでさ。さっきダンディーさんがお礼に来てくれたよ」私はそう伝えた。

 

「そうですか。今回もすっかりお世話になりました」

 

「1年もかかったよ。このお礼は高くつくぞ」

 

「わかっています。ところで、母親が住んでいた賃貸用のマンションも売ったのですか?」

 

「売った。そのお金に、残っていた貯金と自分のお金まで足して、次男と三男に渡したんだと。母親は長男と同居するらしい」

 

「そうですか。ということは、これから母親の生活も長男が面倒みるわけですね」

 

「そういうことになるな。長男と母親がすべての負担を背負ったっていうことだ。自宅はいずれダンディーさんが相続するらしいから、遺言状の手続きはそっちで手伝ってやってくれ」

 

「わかりました」

 

「それはそうと、こういう相続トラブルはしょっちゅうあるものなのかい?」

 

「しょっちゅうではありませんが、珍しくもないですね。今回は1年でカタがつきましたが、3年、5年ともめているケースもあります」スーさんが言う。

 

「それはひどいな。なんでそんなに長引くんだい?」

 

「ゴネる人がいるんです。デパートやお菓子屋で子どもが駄々こねることがあるじゃないですか」

 

「おもちゃ買って、お菓子買って、の駄々かい?」

 

「そうです。それと同じことをやるんですよ。遺産があるとわかり、欲しい、もらいたいとゴネる。当然、他の相続人は拒むわけですが、ゴネるほうもしぶとくゴネ続けて長期化します。すると、母親が根負けしておもちゃやお菓子を買うように、家族が折れる。気心知れた家族だからこそ、そういうわがままが通り、ゴネ得となることがあるんです」

 

「甘えだな」

 

「ですね」スーさんはそう言い、笑った。

 

「防ぐ方法はないのかい?」

 

「遺言状を書いた上で、しっかり家族で話し合っておくしかないでしょうね」

「分けるほどの額ではない」という思い込みが危険

電話を切り、私は大きくため息をついた。

 

亡くなった父親は、まさか子どもたちが相続でもめることなど想像していなかっただろう。もめるほどの財産はない。そう思っていたのかもしれない。実際、財産の額は大きくなく、相続税もかからなかった。

 

しかし、相続税はなくても相続はある。税金が発生するかどうかと、相続を巡ってトラブルが起きるかどうかは、実はあまり関係ないことなのだ。

 

「ゴネ得」と、スーさんは言った。その通りだと思った。

 

次男は自分のわがままを通した。その様子を見て、三男もゴネた。やっていることは子どもと同じだ。「あの子がおもちゃ買ってもらった。だから自分も買って」そうやって駄々をこねる子どもなのだ。

 

しかも、次男と三男は欲求を貫いたのに、家族はバラバラになった。そこが最も心苦しいところだ。仮に父親が遺言状を書いておけば、あるいは財産の配分について家族と話し合っておけば、このような末路をたどることは防げたかもしれない。

 

財産について話し合うのは決して難しいことではない。それだけに、最悪といってもいい結果になったことが残念でならなかった。

 

相続でもめるのはお金持ちだけだと思っている人もいるが、それは違う。むしろ、私が実際に担当したり、スーさんのような友人たちから見聞きした例を踏まえると、相続税がかからない相続や、かかるかどうか微妙な額の相続で、トラブルになることが多い。

 

その理由は、相続についての話し合いをしていないからだ。ある程度のお金がある家は、相続の配分でもめるかもしれないという警戒心を持っている。だから、あらかじめ話し合いをする。そこである程度でも家族の合意がまとまるから、いざ相続となってももめないのだ。

 

一方、ダンディーさん一家のように相続遺産が少ない場合、まさかもめるとは思わず、話し合いをしない。「分けるほどの額でもない」「うちは庶民だから相続は関係ない」などと思ってしまう。実はそこに問題がある。

 

亡くなる人にとっては少額のお金でも、相続人から見れば喉から手が出るほど欲しいお金かもしれない。いくらかでもお金があると知れば「もらえるならもらいたい」と思うだろうし、兄弟の誰かがもらえば「自分ももらいたい」と思う。それが人間というものだ。

 

次男は今頃何をしているのだろうか。きっと外車を乗り回して毎日を満喫しているのだろう。三男もきっと、棚からぼたもちで得たお金でちょっとした贅沢を楽しんでいる。

 

人の価値観はそれぞれだ。どんな風にお金を使おうとその人、その夫婦の勝手である。

 

しかし、そういった満足感のために、彼らは家族の絆を犠牲にした。もはや兄の信頼を取り戻すことはできない。母親の愛情を取り戻せない。

 

もしこの先、次男や三男がお金やそれ以外の面で困ったとしても、無条件で手を差し伸べてくれる家族はいない。いなくなったのではなく、彼らが自主的に捨てたのだ。そのことを、いずれ彼らは悔やむのではないか。

 

ゴネることで相続できたお金は大金かもしれないが、そのために捨てた代償はとてつもなく大きかったと私は思う。

税理士法人アイエスティーパートナーズ 代表社員

東京・浅草生まれ。國學院大學経済学部卒業。日本大学大学院・慶應義塾大学大学院修了。又野税務会計事務所勤務を経て、1975年に独立、税理士髙野眞弓事務所を立ち上げ、多種多様な業種・業態の企業の顧問税理士を務める。事業規模拡大に伴い、2016年6月に税理士法人アイエスティーパートナーズを設立。
40年以上にわたり、「税務のアドバイザー」という枠を超えた公私のパートナーとして、多くの経営者の悩みを解決してきた。特に、骨肉の争いに発展しやすい相続税・贈与税等について、一家の思いに寄り添った提案を行い円満相続に導いている。

著者紹介

連載炎上する相続~エピソードで読み解く「相続トラブル」の解決策

 

炎上する相続

炎上する相続

髙野 眞弓

幻冬舎メディアコンサルティング

裁判沙汰になったトラブルの3割が遺産総額1000万円以下!? 「ウチは大丈夫」と思ったら大間違い! 6つの炎上エピソードから学ぶ「円満相続」の秘訣 相続でもめたあげく、兄弟姉妹が憎しみ合い、絶縁状態になってしまうこ…

 

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