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父の再婚相手が相続権を主張! 晩年の恋が招いた親子の亀裂

前回は、税法の改正で激増する「相続トラブル」について取り上げました。今回からは、父親の再婚によって起こった相続トラブルのエピソードを見ていきます。

商売熱心だが、気性が荒く酒癖も悪い元レスラー社長

<子どもを持つ人の再婚は注意が必要だ。というのは、入籍することによって再婚相手に相続権が発生し、もともと相続権を持つ子どもとの間でトラブルになる可能性があるからだ。

レスラーさん(仮名)の相続も、再婚がトラブルにつながったケースの1つだ。

レスラーさんは、60歳で小料理屋のおかみさんと再婚。当初、再婚相手であるおかみさんは相続権を放棄していたが、レスラーさんの死後、自分が持つ相続権を主張し、子どもたちともめることになった。>

 

よく言えば「豪快な商売人」。悪く言えば「暴力的なケチ」。レスラーさん(仮名)はそんな人であった。

 

東京の下町で生まれ育ったレスラーさんは、10代のころにレスリングを習い始めた。地域のアマチュア大会では何度も優勝しており、プロレス団体からスカウトされたこともあるという。その後、プロの道は諦め、20代半ばで商売を始める。ハンドバッグの部品を作る会社だった。レスラーさんには、レスリングで鍛えた根性があった。また、もともと負けず嫌いで、それも商売に生きた。

 

性格面では、極度な倹約家だった。無駄なことにいっさいお金はかけない。酒は好きだったが、それ以外の贅沢もほとんどしない。そのような性格が幸いし、徐々にお金がたまり、会社も少しずつ大きくなった。40歳を少し過ぎるころには、会社は十数名の従業員を抱えるまでに成長していた。

 

私が会社の顧問税理士となったのはその頃のことだ。それからレスラーさんが亡くなるまで、かれこれ20年の付き合いになった。レスラーさんは商売熱心な人だった。しかし、それ以外が無茶苦茶だ。気性が荒く、酒癖も悪い。飲みに出かけて喧嘩になるのは日常茶飯事だ。喧嘩相手をビール瓶で殴り、パトカーで連れて行かれることもあった。

 

家庭内暴力もひどいものだった。レスラーさんには奥さんがいて、会社では専務を務めていた。しかし、相手が女性であっても関係なく殴る。最近ニュースなどでDVという言葉をよく耳にするが、そんなもんではない。半殺しだ。そのせいで奥さんは何度も病院に担ぎ込まれていた。

 

レスラーさん夫婦には息子が2人いて、彼らにも厳しく当たっていた。とくに長男には厳しく、しょっちゅう殴っていたという。

 

「高校生の頃まで、兄貴はよく親父に殴られていました」ある時、次男がそう言っていた。次男は高校を卒業してすぐにレスラーさんの会社に入り、のちに会社を継ぐことになる。彼とも長い付き合いで、私はいつも甥っ子のような感覚で接していた。次男はレスラーさんの子どもとは思えない優しい性格で、今も順調に会社を経営している。

 

「お兄ちゃんは辛かっただろうね」

 

「ええ。なにしろ元レスラーですし、そのころはまだ親父も若く、力がありましたからね。部屋の端っこまでふっ飛んでいました。僕はそれが怖くてね。10代のころは、ずっと親父の機嫌を伺いながら生きていたような気がします」

 

「お兄ちゃんが会社を継がなかったのも、レスラーさんとの確執があったからかい?」

 

「いえ。兄はもともと継ぐ気がなかったようです。親父も継がせる気がなかったのでしょう。それでよかったのだと思います。継いでいたとしたら毎日喧嘩になっていたでしょうから」次男はそう言って笑う。

 

「仕事にならないな」

 

「ええ。会社が潰れるか、兄がストレスで潰れていたと思います」

子どもが生まれ、長男との確執がより広がり・・・

レスラーさんが地元に小さな自社ビルを建てたのは、彼が60歳に差し掛かるころだった。工場兼オフィスのビルである。

 

ちょうどその頃、長男が結婚し、子どもが生まれた。レスラーさんにとって初孫だった。親子の関係にはもともと溝があったが、この頃からさらにお互いの距離が遠くなった。

 

仕事以外のことでは、やることなすことめちゃくちゃなレスラーさんだったが、世間一般のおじいちゃんたちと同じで、やっぱり孫は可愛い。生まれて間もない頃などは、決算の相談などで私の事務所に来たときも、携帯電話で撮った孫の写真を自慢げに見せた。会社経営が順調だったこともあり、話の内容も会社のことより孫のことが中心だった。

 

「なあ、可愛いだろう」レスラーさんが目を細めていう。

 

「ああ、可愛いねえ。そろそろ1歳かい」

 

「そう。もうすぐ1歳。俺は酒浸りだからそう長くは生きられないだろうけど、こいつが成長していくのが楽しみでしょうがない。会社のことは息子(次男)に任せてある。今や孫が俺の生きがいだ」レスラーさんはそう言い、少し寂しそうな顔をした。

 

寂しそうな顔をしたのには理由がある。長男との仲がよくなかったせいで、そう頻繁に会うことができなかったのだ。長男の妻も酒癖の悪いレスラーさんを嫌っていた。

 

この頃になると、レスラーさんは外で飲み歩くのをやめ、家で晩酌するのが日課になっていた。しかし、酒癖の悪さは治っていない。飲みながら気分がよくなると「ちょっと孫の顔でも見てくるか」と立ち上がる。歩いて数分のところに住んでいる長男の家に出かけ、孫の顔を見ようとするのだ。

 

「迷惑だからやめてください」とレスラーさんの妻が止めるが、レスラーさんは聞かない。夜だろうがお構いなしだ。長男家のチャイムを鳴らし、「おい、俺だ。顔を見に来たぞ」と喚く。

 

もちろん、長男一家としては大迷惑だ。1歳未満の子どもは寝かしつけや夜泣きが大変だ。母親は体力的にも精神的にも疲労している。せっかく寝た子どもを起こすわけにはいかない。

 

「飲んでますか?」長男の妻がドア越しに聞く。「ああ、飲んでるよ。早く開けろ」レスラーさんが返す。「じゃあ、ダメです。また今度にしてください」そう言って、長男の妻はレスラーさんを追い返す。レスラーさんが飲んでいるときはいっさい家に入れなかった。

 

しかし、それではレスラーさんの気持ちが収まらない。近所の目を考えることなく、開けろ、開けろと騒く。そんなやりとりを何度かしているうちに、長男の妻はパトカーを呼んだ。年を取り、環境が変わっても、飲んでパトカーを呼ばれるという点ではレスラーさんは変わらなかったのである。

 

人は年をとると丸くなると言う。しかし、レスラーさんにそんな傾向は見られなかった。むしろ頑固さや意地っ張りの性格が強くなっているように見えた。

 

 

 

髙野 眞弓

税理士法人アイエスティーパートナーズ 代表社員

税理士法人アイエスティーパートナーズ 代表社員

東京・浅草生まれ。國學院大學経済学部卒業。日本大学大学院・慶應義塾大学大学院修了。又野税務会計事務所勤務を経て、1975年に独立、税理士髙野眞弓事務所を立ち上げ、多種多様な業種・業態の企業の顧問税理士を務める。事業規模拡大に伴い、2016年6月に税理士法人アイエスティーパートナーズを設立。
40年以上にわたり、「税務のアドバイザー」という枠を超えた公私のパートナーとして、多くの経営者の悩みを解決してきた。特に、骨肉の争いに発展しやすい相続税・贈与税等について、一家の思いに寄り添った提案を行い円満相続に導いている。

著者紹介

連載炎上する相続~エピソードで読み解く「相続トラブル」の解決策

 

炎上する相続

炎上する相続

髙野 眞弓

幻冬舎メディアコンサルティング

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