今回は、中小企業の売り手が「M&Aアドバイザー」を選ぶ際の留意点を見ていきます。※本連載では、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 代表理事・会長の大原達朗氏、専務理事・事務局長の松原良太氏、理事の早嶋聡史氏が「M&Aアドバイザー」との付き合い方について解説します。

アドバイザーの報酬額を決めるレーマン方式とは?

中小企業のオーナーが事業・企業を第三者に売却(つまりM&Aによる譲渡)しようとする場合、一般的にはM&Aアドバイザーに依頼することになります。

 

その際、「どのM&Aアドバイザーに依頼するか」が、そのM&Aの結果を左右する大変重要なポイントになります。今回は、売り手がM&Aアドバイザーを選ぶ際の留意点を説明していきます。

 

まずは、報酬額について見ていきましょう。一般的に、M&Aの報酬は下記図表1のレーマン方式を基本に算定されます。

 

[図表1]レーマン方式

 

通常、M&Aアドバイザー会社は、このレーマン方式に付加するかたちで、1案件あたりの最低報酬額を決めていきます。この最低報酬額が、中小企業のオーナー様がM&Aアドバイザーを選ぶ際にとても重要になってきます。

 

たとえば、大手のM&Aアドバイザー会社、銀行などは、この最低報酬額を1,000万円、2,000万円などと定めていますし、規模の比較的小さなM&Aアドバイザー会社は、最低報酬額をもっと低価に定めているところもあります。

 

実は、この最低報酬額は、M&Aアドバイザー会社が取り扱う案件の規模を暗示しています。高額な最低報酬額を設定している会社は、小さな案件は取り扱わないといったことが推測できるのです。そのため、売却する事業・企業の規模に応じた、適切な最低報酬額のM&Aアドバイザー会社を選択する必要があります。

 

報酬に関する2つめの留意点は、報酬を支払うタイミングです。下記図表2が、代表的な支払い方法です。売却を依頼する場合、予想もしないタイミングで請求されないように、こちらも事前に確認しておくことが重要です。

 

[図表2]報酬種類

 

報酬に関する3つめの留意点、それは、前述したレーマン方式でも使用されていた「取引金額」です。この取引金額が何を指すのかも忘れてはならない重要なポイントです。

 

株式譲渡なら「株式譲渡代金」、事業譲渡なら「事業譲渡代金」が取引金額といえそうですが、実際の場面ではそう単純にいかないケースもあります。M&Aアドバイザー会社によっては、対象会社の直近期の総資産や純資産を取引金額としていることもあります。思わぬ報酬額を請求されないように、取引金額が何を指すのかという確認には細心の注意が必要です。

「信頼関係を築けるか」が最も重要なポイントに

次に、「専任条項」について説明します。M&Aアドバイザー会社に売却を依頼する際、M&Aアドバイザーから「専任」つまり「売却を依頼するのは当社1社のみにしてください」といわれるのが通常です。

 

なかには、専任でなければ依頼は受けないというM&Aアドバイザー会社もあるほどです。いったん専任契約を結んでしまうと、一定期間、他のM&Aアドバイザー会社に売却を依頼することができなくなりますので、専任を外す、あるいは専任期間短縮などの交渉を検討してみてください。

 

ただし、あまりにも多くのM&Aアドバイザー会社に同時に依頼すると「出回り案件」と認識されてしまうリスクもあるため、注意してください。

 

次に、専門性についての留意点です。

 

万能なM&Aアドバイザーはいません。どんなアドバイザーにも、業界的な得手不得手があるものです。売却対象である事業・企業の業界に精通しているM&Aアドバイザー、またその業界におけるM&Aアドバイザーの実績などは、M&Aアドバイザーを選ぶ基準になり得ます。特に専門性の高い業界の場合、M&Aアドバイザーの専門性(業界のナレッジ、経験)についても事前に確認が必要です。ここ数年、業界特化のM&Aアドバイザーも増えてきていますので、業界特化のM&Aアドバイザーを探してみるものいいかと思います。

 

最後に、精神論的な話になりますが、依頼するM&Aアドバイザーを信頼することができるか否か、これがもっとも重要なファクターであると考えています。

 

筆者がM&Aアドバイザーとして業務を請け負うかどうかを判断する最大の要因は、顧客と信頼関係を築けるか否かです。M&Aでは、アドバイザーを信頼できるか、双方の当事者(売り手と買い手)を信頼できるかが最も重要なのです。

 

希望通りの条件を提示されているにも関わらず信頼できないなら、絶対にそのディールは止めるべきです。信頼ができず、業界を理解していないM&Aアドバイザーに、自社の規模に合わない報酬で、長期の専任契約を締結してしまった・・・ということにならないよう、M&Aアドバイザーは慎重に選びましょう。

 

 

松原 良太
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 専務理事/事務局長

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