今回は、クリニックの開業にあたってのフロア設計・システム導入のポイントを見ていきます。※本連載は、中内眼科クリニック・院長の中内一揚氏の著書、『これから開業する君へ』(兵田印刷工芸株式会社)の中から一部を抜粋し、クリニック開業の1年前に始めておくべきことをご紹介します。

25坪以上あれば、処置室付の医院が建設できる

新規の場合は、スケルトンからフロアを作って、そこに合うように待合、受付、診察室、検査室、手術室、更衣室などを配置をすれば良いのですが、周りに趣味で図面を書く人か、建築士などがいないか聞いてみましょう。

 

ただし、医院の設計をしたことのない人には無理です。こころ当たりのない人は、医院専門の工務店がありますので、そちらに図面を起こすところからお願いするのが無難です。ただし、図面起こしをお願いすると、ほぼ契約しているのと同じ感覚になりますので、青写真があったほうが、工務店選びにも交渉がしやすいと思います。

 

また、継承の場合は、現状の医院から何をどのように変えたら上手くいくのかを考えてください。具体的にはフロアの図面が手に入ってから決まっていきますが、どこに何を配置するのかは、院長自らが決めることです。特に、敷地面積の狭い医院では、宇宙船の中のようにいろんなものを詰め込まないと、思った通りの診療ができませんので、かなりの想像力が必要です。

 

本来は手術をするなら、50坪以上とか理想があるのですが、フロア代も広ければ広いほど高くなりますし、改装代もかかります。25坪以上あれば、残念ながら院長室などは作れませんが、処置室付の医院が作れます。狙うのは、ウルトラコンパクトパッケージです。今のビジネスホテルや軽自動車などの発想を生かして、いろいろと詰め込んでください。

電子カルテのシステムは冒険せず、使いやすいものを

これはさらに重要な決定事項となります。結論からいえば、今までの勤務医経験で、良かったと思うシステムを入れるしかありません。ここで妥協しては駄目です。1回入れたら、やり直すということは不可能に近いです。冒険して他のシステムを導入しないほうがいいです。もし、新製品ならば、しばらくデモを入れてもらうか、その会社に出向いて試させてもらうしかありませんが、なかなか短時間の試用ではわからないと思います。

 

もともと電子カルテの始まりは、オーダリングが電子化したのが始まりでした。検査(採血、レントゲン、CTなど)を伝票運用ではなく、パソコン入力で申し込みして、その結果を画面で見るということが可能になり、非常に画期的なシステムでした。次に、投薬が電子化しました。同じものであれば、前回Do (同じ処方を流用)ができるので、これも非常に優れたシステムでした。知らない薬も、検索すれば情報が出てきますし、とても便利なシステムだと思います(不均等用法などは入れにくいときもありますが、覚えるしかない) 。

 

しかし、問題はカルテの電子化です。人間の頭は、左右にスクロールする情報に対してインプットするようにできていると思われます。はるか昔のパピルス紙を使っていた紀元前の時代から、巻物は縦書きではなくて、横書きだったことを考えると、PCの画面で、縦にスクロールするという情報展開は、やはり異質だと考えます。

 

内科の先生たちが、ときどきサマリーと称して、長い長いカルテを数時間かかって書いているのを見ることがありますが、次にそれを読むときに、また長時間かかってしまいます。これが、紙カルテでは、数秒でどこに重要なことが書かれているか認識できるので、患者さんを呼んで、その人が入ってくるまでの時間で今までの状況を把握して、今日の状態と比べることができるのです。まさに神カルテです。もちろん、電子カルテでも同じことが求められますが、やはり紙のスピードには及びません。これは、縦スクロールが生んだ悲劇だと考えています。

 

しかし、世の中にはいろんなことを考える人がいるもので、今は横開きのカルテも誕生しています。私はこのカルテを採用しました。名前はCr io (クライオ)といいます。このカルテの開発者は、実は眼科医なのです。まさに医師の目からみた使いやすい電子カルテの誕生です。

 

電子カルテが決まると、それに対応した医療事務ソフト(レセコン)が決まります。電子カルテの業者さんは、両方セットで取り扱っていますから、そこは長いものには巻かれろです。あとは、担当者が自分とウマが合うかどうかです。納入だけではなくて、そのあとも一年くらいはあれやこれや要望をだして、使いやすいソフトに変えていく必要がありますので、その担当者が自分の意見を聞いてくれないのではダメです。合わない場合、同じソフトを扱っている別のディーラーがありますので、そちらの担当者に会うことをお勧めします。

 

値段は、サーバー2台(正・副)以外に、受付2台(受付・会計用)、診察2台(Dr 用、シュライバー用)、検査取り込み2台は最低限必要です。だいたい総額で1000万円かかります。高い買い物ですから絶対にミスしないようにしましょう。

電子カルテに導入する書類は、使い慣れたものを参考に

これは、勤務医のときしかできません。もちろん、自分の医院用にもう一度作り直すのですが、勤めている病院でこれは良くできていると感じる書類があれば、参考にすることをおすすめします。

 

内容的にはどれも大差ないのですが、ニュアンスが異なります。電子カルテ会社は、紹介状、返書、診断書などのフォーマットはくれますが、それを使うよりは、自分で作ったほうが、気に入ったものができます。また、病状や処置、手術の説明書に関しては、全く用意してくれませんので、自分で用意したものを溜めておいて、いざ導入のときに一気に作らせるということになります。

 

同様に気にいったロゴマークや封筒、紹介状のレイアウトなどもこの時期に集めておきます。

 

採血セット(手術前の感染症、全身状態の確認セットなど)を他科のものも含めてチェックして良いものを参考にする。また投薬セット(風邪セット、花粉症セットなど)も同じように使えそうなものをためておく。電子カルテ設営の時にこれらのデーターも入力してもらえます。こうすることで、開院してから検査のたびに襲ってくる入力の嵐を少なくすることができます。

これから開業する君へ 新装版

これから開業する君へ 新装版

中内 一揚

兵田印刷工芸 出版部

眼科診療所を継承した著者による開業解説本。診療所を事業継承する際の注意点や、継承準備の詳細が記されている。 開業を支援するコンサルタントや新規開業した医師による開業解説本は多いが、昨今増加している継承に関する解…

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