<あらすじ> 望は、自らが紹介した巧に嵌ってしまった雪江の目を冷ますため、巧が以前働いていたホストクラブへ連れて行く。若いホストたちとの豪遊を楽しむ望。しかし、雪江は「ここで飲むくらいなら、巧にお金を使いたい」と思うのであった…。 一部の富裕層しか知らない、「愛人」を持つことの金銭的な損得勘定に真剣に迫るリアル小説、女編〜第5回。  

 

望が経営する「HK サービス」は、一般企業向け(事務・秘書・経理部門)人材派遣と、個人向けのハウスキーパー派遣の二本柱である。

 

まだハウスキーパー派遣は始めてから3年だが、少しずつ需要が高まっている。今は誰もがネットで検索できる時代だから、適用範囲やサービス内容が一致すれば、小規模な業者でも顧客をつかまえることができる。

 

どこから口コミが回ったのか、 キーパーの問い合わせに男性を希望するクライアントが増えてきた。イケメンが多いって本当ですか、という問い合わせが来たこともある。
他の業者は知らないが、望が抱えるハウスキーパーに関しては、女性は40代以上、男性は逆に30代までしか採用していない。

 

メイン顧客である30代から40代の主婦は、自分よりもエキスパートな先輩女性か、雪江同様「家事だけでなく心の部分も癒して欲しい」イケメンを所望することが多い。

 

そんな実態を感覚でつかんだ望は、ホスト遊びをしつつ、夜の世界から足を洗いたがっている子をスカウト(※)し、ハウスキーパーとして採用しているのだ。

 

〜監修税理士のコメント〜

※ 雇用すれば、スカウトまでにかかった費用を経費にできる?

編集N 法人税法によると「セールスマン、ホステス等の引抜料、仕度金等の額は、その支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができる」(法人税法基本通達8−1−12注意書き)とあります。

いい人材を引き抜く際にかかった費用は、損金扱いとして経費計上できるということですか? だとすると、望のホストクラブ豪遊も全部経費計上できちゃうってことでしょうか?

税理士 プロスポーツ選手などのスカウト料や契約金は高額になるため数年間で経費処理する「繰延資産」とされますが、セールスマンやホステスなどの引抜料や仕度金はそれほど高額ではないため支払ったときの損金として認められています。

しかし、これらの引抜料や仕度金は、スカウトする本人に渡すものを指すのであって、引き抜くために豪遊した費用は引抜料や仕度金には該当しません。豪遊の費用は別の取り扱いになります。

新人を発掘するための活動費用で通常必要な金額であれば経費として認められますが、シャンパンタワーなどの豪遊やホスト個人へのプレゼントなどは行き過ぎですね。新人発掘という目的からは逸脱するので基本的にアウトでしょう。

ホストクラブでの豪遊が個人的な趣味のものとなると「役員賞与」と認定されて、法人では損金不算入、個人には所得税住民税が課税されてしまいますね。くれぐれもご注意ください。

 

ホストは寿命が短い。よほど自己プロデュースの上手いタレント気質なホストでもない限り、3年もすれば人気のピークは過ぎ、後は肉体的に辛いだけの商売となってしまう。
ホストを卒業した子たちは、黒服など他の水商売に移ったり、太客だった女のヒモになるケースもあるが、別の業界に転身する者も多い。

 

望がスカウトするのは、業界から足を洗いたがっている子の中でも真面目なタイプだけだ。

 

世の中を知っている子ほど、水商売だけのキャリアで未経験の業界に入るのは難しいことも分かっている。かといって時給の安いフリーターに転身するほど、生活を切り替えるのは難しい。

 

一度吸った甘い水を忘れられない彼らは、多少肉体的に辛い仕事であろうと「稼げる」ことが重要なのだ。

 

「健二くん、こないだの話、考えてくれた?」

 

「収入的には問題ないっす。ただできれば研修費だけ、出してほしいんすけど」

 

「そう言うと思った。 でもね、うちは社員にしか研修費は出さないの。派遣契約でやるとしたら、健二くん自身が自己投資してスキル磨いてくれないと」

 

「じゃあさ、こういうのはどう? 来週、望さんの家でハウスキーパーの仕事やらせてよ。もし合格点ならば、研修受けなくてもいいよね」

 

「健二くん、家事できるの?」

 

「できないと思ってる? オレ、食堂の息子だぜ。こう見えて手料理はプロ級だし、 一人暮らし長いから掃除や洗濯だってできるし」

 

「『できる』だけじゃダメなの。お金もらって家事をやるからには、クライアントが感動するくらいプロの仕事ができないと」

 

「とにかく、物は試しにテストしてくださいよ」

 

***

 

家に男の人がやってくるなんて、何年振りだろう。

 

恋人じゃない男を部屋に入れないほど堅物ではないが、そもそも恋人すらもう4年もいないことに気づき、望は愕然とした。

 

男が出入りしない女の部屋は、どこか雑然としている。 望はわりと綺麗好きな方だが、それでもテーブルの上に郵便物が置きっぱなしだったり、 洗った食器がカゴの中に放置されたまま、食器棚にしまわれていないことに気づいた。

 

(片づけちゃったら、テストにならないか……)

 

そのときチャイムが鳴った。モニターを覗いたら、見慣れない格好の健二が立っていた。

 

「私服は意外と地味なのね」

 

「ひどいなー。家事テストのつもりでコレにしたのに」

 

「そうか、ごめんごめん」

 

ファッション次第で、ホストは普通の男子になる。ポロシャツとチノパン、髪もナチュラルにした健二は、どこにでもいる「ちょっと顔のキレイな男子」という雰囲気だ。

 

「これ、使って」

 

会社オリジナルのエプロンを差し出すと、健二は神妙な顔をした。

 

「オレ、マジで望さんと仕事したいっす」

 

「だったら、テストで合格しないとね」

 

「テストの前に……ちょっとだけ」

 

一瞬のスキに、健二は望を背後からハグした。

 

「……こんなこと、クライアントにやったら一発でクビよ」

 

言葉とは裏腹に、望の頬はみるみるうちに紅潮した。

 

「オレ、望さん専任のハウスキーパーやりたいっす」

 

「……私は独り暮らしだから、必要ないわ」

 

「じゃあ、望さんのペットになりたい」

 

こうなることは、なんとなく予感していた。

 

健二はお気に入りのホストの中で唯一、店外デートに持ち込めなかった子だ。

 

だからこそ「辞めたい」と相談されたとき、思わず手を差し伸べた。

 

公私混同でもいい。できれば傍に置いておきたい。

 

ボトルを入れてもプレゼントをあげてもなびかなかったのに、まさかこんな形で接近してくるなんて。

 

「研修費、出してほしいな。オレ、マジでいい仕事するっすよ」

 

体の向きを変え、正面から顎を持ち上げられる。次の瞬間、唇が重なった。

 

「……私を喜ばせてくれたら、考えるわ」

 

「じゃあ、寝室に行こう」

 

 

(つづく)

 

 

監修税理士:服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

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この物語はフィクションです。

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