<あらすじ> 倉田資郎は結婚8年目。誰もが「美人ですね」と賞賛する妻がいる。彼女を愛してはいるが、夜の生活はご無沙汰だ。ある日、悪友の山本が「愛人の友達を紹介する」と持ちかけてきて…? 一部の富裕層しか知らない、「愛人」を持つことの金銭的な損得勘定に真剣に迫るリアル小説、男編〜第2回。

 

「出会いに乾杯!」

 

「やだぁ、ミッチーってばキザ!」

 

倉田と山本が並んで座っていたバーカウンターの両脇に女性達が座り、宴が始まった。
山本の横には愛人のユカリ、倉田の横にはユカリの友人・マナミが座った。

 

山本の提案から20分後、ユカリがマナミという女を連れてやってきた。

 

きっと山本は、あらかじめユカリと話をしていたんだろう。でなければ、こんな都合よくふたりが合流できるはずがない。

 

「ミッチーって呼ばれてるんだ」

 

倉田は山本をからかった。

 

「かわいいでしょ。道朗だから、ミッチー」

 

若い愛人にニックネームで呼ばれてニヤニヤしている山本は、なんだか幸せそうだ。

 

「マナミちゃんって、何歳?」

 

山本が、倉田を挟んでマナミに話しかけた。

 

「28歳です」

 

「じゃあユカリの4つ上か」

 

「え?」

 

マナミが驚いた声を上げた。

 

「やだもう! あれはお店での年齢だって」

 

ユカリが赤面しながら山本の肩を叩いた。

 

お店というのは、ユカリがバイトをしていた赤坂のクラブのことだ。山本の愛人になったのを機に店は辞め、今は山本が買ったマンションで暮らしている。

 

「マナミちゃんも、同じ店で働いてたんだよね」

 

「ええ。でもお金が貯まったので、もう辞めました」

 

ふたりはホステス時代の同僚らしい。実際は、ふたりとも同じ歳だった。

 

「この子、いま税理士になるための学校に通ってるの。すごくない?」

 

ユカリが言った。

 

「へー。じゃあ将来は税理士になるの?」

 

倉田は感心した。

 

愛人候補としてここへ来たからには、将来のことなど考えていないような子なのかと、勝手な先入観を抱いていた。

 

「一応そのつもりです。OL時代は経理をしていたので、知識を活かせたらと思ったんですが、やってみたらぜんぜん難しくって」

 

「じゃあ勉強も兼ねて、コイツに節税のこと教えてやってよ」

 

横から山本が口を出した。

 

「倉田さんは、どんなお仕事をされているんですか?」

 

マナミがたずねた。

 

「僕はコンテンツ会社……ってわかるかな。こんなサイトを作って運営してる」

 

倉田はスマホを取り出し、自社で手掛けたニュースサイトのアプリを女性たち見せた。

 

「すごーい! このニュースアプリ、私も毎朝見てますよ!」

 

そう言いながら、ユカリは自分のスマホを出して見せた。

 

「そのサイト運営のために、俺の会社からエンジニアを派遣してるんだよ」

 

横から山本が割り込み、ドヤ顔をした。

 

「山本は優秀なエンジニアを育ててるし、僕なんかよりずっとすごいよ」

 

「へーそうなんだ、ミッチー意外とやり手なんだね」

 

「意外ってなんだよ。俺こう見えてIT寵児なんだぜ」

 

「自分で言うかそれ」倉田が突っ込んだ。

 

「だってユカリちゃんに尊敬されたいもん」

 

「チョウジって何?」

 

ユカリのボケともツッコミともいえないリアクションに、全員が笑った。

 

男女4人、まるで合コンみたいな会話を楽しみながら飲む酒は、とても美味しかった。

 

20代を思い出すような感覚。それでもあの頃とは違い、男たちには経済的にも心にも余裕がある。

 

家庭を忘れられる時間は楽しい。だが余裕があるのも結婚したからだと思うと、複雑な気分だ。

 

+ + +

 

女性陣がふたりそろって化粧直しに行ったのを見計らい、山本が言った。

 

「あのさ、デート代は全部経費で落とせるぜ」

 

「どういうこと?」

 

「たとえばマナミちゃんを会社のスタッフということにすれば、制作経費にできるぜ(※)」

 

「そんなことして平気なのかよ」

 

「ホント真面目だよな、倉田は。俺らのギョーカイではみんなやってるぜ」

 

そういうものなのか。倉田は茫然とした。

 

〜監修税理士のコメント〜

※デート代を制作経費に計上することについて

編集N これ、記事にかかわる内容(取材など)ならば、経費に回してもOKなんですか? たとえばニュースサイトで取り上げる場所で(取材を兼ねて)デートするとか……。

税理士 はじめからデート目的で業務に関連しないものは経費にはできないですね。

編集N デートスポットの取材でもダメなんですか? 取材中になんとなくデートの雰囲気になっちゃったら、どうすればいいんですか!?

税理士 目的がデートなのか取材なのか事実認定の問題になりますね。取材であれば通常は会社のスタッフが同行するでしょう。誰と行ったかも重要なポイントです。スタッフと一緒の取材なら信憑性がありますが、愛人とのデートですと経費性の説明が困難ですね。

編集N それなら、確実に取材目的だと証明できるなら、愛人とホテルに宿泊した費用も経費にできるんですか?

税理士 連れて行った相手が会社の業務に携わっていない単なる愛人ということですとアウトだと思いますよ。いろんな意味で。

編集N 今回、本編で4人がバーで飲んだ代金も「仕事に関する打ち合わせ」という前提になれば、会議費あるいは制作費に回すことができますか?

税理士 「仕事に関する打ち合わせ」であったことを明らかにしておくことが必要です。仕事とは無関係の友人との飲食代では経費になりません。

編集N 領収書と記録だけでは、仕事かどうかなんてわからなくないですか?

税理士 会議費であれば「誰と」「何の目的で」「どんな打ち合わせをしたか」の記録を残すことが必要です。領収書があれば良いというものではありません。どの仕事に係るものか説明のつかないホテルの宿泊費なども、税務調査では弾かれることがよくあります。

編集N 接待交際費や出張費にしたらどうですか? それなりにお金がかかることだし、おかしくないと思うんですけど。

税理士 その場合でも、誰を接待したのか、何の目的で出張したのかを証明しなければなりません。それがウソの場合には経費が否認されるだけでなく、重加算税の対象にもなってしまいます。安易な経費処理は結果的に高くつくので禁物です。

 

倉田の家では、家計口座に夫婦で入金する以外の収入は各々自由にしているが、ポケットマネーでは愛人を囲うほど余裕があるわけではない。

 

山本は「工夫次第でいくらでも経費にできるから、愛人を持つのは一石二鳥」だと言う。
果たして、そううまくいくものなのか。いやその前に、マナミは僕の愛人になるつもりなのか……。

 

+ + +

 

「7ポイント」


化粧室から戻ったマナミが、倉田にだけ聞こえるよう小さく耳打ちした。

 

「え?」


「初めてお会いして、今の時点で7ポイントたまりました」

 

マナミは何を言ってるんだ?


倉田は困惑した。

 

「次はふたりきりでデートしてください」


「それはいいけど……」


「10ポイントたまったら、倉田さんの愛人になります」

(つづく)

 

 

 

監修税理士:服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

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この物語はフィクションです。

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