経営者は「組織の調和維持」のために忙しくなる!?
チームが機能すれば、社長はヒマになるかと思いきや・・・そうではありません。確かに、時間ができますが、その時間とは、新たな戦略を考案し続け、本当の社長としての仕事をするべきときです。
勘違いをして、暇になったからといって遊びほうける社長がいますが、これをすればメンバーから反感を買い、チームが崩壊するだけです。先ほども述べたように、経営者ステージに上がると、起業家ステージで味わっていた自由気ままさを手放す決断をすることになります。
私はこの点においても、過去に失敗しています。起業家ステージの考え方はシンプルで、「商品がたくさん売れ、売上が上がり、お客様が喜んでいたらオールオッケー」です。しかし、経営者ステージでは、この思考は一切通用しません。
経営者ステージでは、バイオリンチームを統率するようなものです。仮に、一人だけ激しく音を外す人がいたら、うまく指導して、全体の調和を維持しなければいけないのです。
それにも関わらず、当時の私は売上にしか焦点が当たっておらず、「調和」というところにまで視点が及びませんでした。「売上が上がって顧客が喜ぶなら、自由に好きな曲を演奏してもいいよ」というお気楽さが抜けていなかったのです。当然、そんな調子では、独自ブランドとして競合を立ち上げようとする人が出てくるわけです。
しかも、演奏の世界では、相手の楽器を取り上げるのはエチケット違反です。これはビジネスにおいても同様です。しかし、私は、「本日からあなたは活動禁止だ!」と言うなど、まるで楽器を取り上げるようなことすらもやってしまいました。これにより、状況は悪化しました。
この経験から何を学べるでしょうか? 経営者ステージでは、組織の調和をとるために、いつ何時、どこにでも飛ぶことができるようにしなければならず、起業家ステージは自由に売上を上げることだけに忙しくできたのに対し、経営者ステージでは、「調和」維持のために忙しくなるということです。
具体的には、定期的にミーティングを開催し、進捗を確認し合い、改善すべきことは解決策を提示します。そして、メンバー全員の士気を高め、歩調を合わせ、情報を共有し合うことで団結を増すことが大切であり、こまめなコミュニケーションが必要です。
社長自身がこまめなやり取りを嫌う場合もあります。そのようなときには、頼りになる右腕の人にお願いするといいでしょう。
また、日頃のコミュニケーションの中で、過去に現場業務の経験がある社長は、自分の代わりに現場で働いてくれているメンバーの気持ちを細部まで汲みとることができます。現場の勘も鋭く、リズム修正が上手です。一方で、現場の経験なしにチームを形成した社長は、リズムが崩れているメンバーの歩調を回復させることに苦労してしまうのです。
このような場面においても、起業家ステージの段階で、いかにあらゆる経験を積み、工夫を重ねてきたのかという豊富な経験値が求められます。そして、経営者ステージとなると、あなたは組織のリーダーです。
やはり、私たちは新しい世界を切り開き続け、まだ見ぬ世界を真っ先に見て、わくわくさせてくれる社長について行きたいと思うものです。
ですから、社長自身が高みに向かって歩み続ける姿なくして、メンバーがついてくることはありません。社長の仕事は、未だかつてない壮大なプロジェクトについて考案し、イノベーションを起こし続けることなのです。
革新的なアイデアは、大半の人が避けることだったり、怪しむことだったりします。しかし、真の社長ならそんなことすらもやります。つまり、1000人中、999人がやらないことをやるのです。
チームメンバーの育成には時間がかかる
大東亜戦争(太平洋戦争)では、日本は神風特別攻撃隊に突撃命令を出すことになりました。そもそも、なぜ特攻隊の必要性が生まれたのかという原因は、ミッドウェー海戦とマリアナ沖海戦で、高い技術を持ったパイロットのほとんどを失ってしまったからです。
つまり、日本は優秀なパイロットの育成に間に合わず戦争に負けてしまいました。
組織においても同様に、忘れてはいけないことは、チームメンバーの育成には時間がかかるものだということです。即戦力を求めてしまいがちですが、人間はロボットではありません。桃栗三年柿八年と言われるように、戦力として活躍できるようになるためには、ある程度の時間がかかるということを考慮しておく必要があります。
ということは、経営者ステージを強固なものとするために、チームの育成に時間を優先的に注ぐことが必須なのです。何も育成していないのに、とりあえずやれ!と、成果のみを求めるのはリーダーとして失格であり、適切なトレーニングをする必要があります。
また、多くの会社が、育成に力を注がないために、売上が下がってきて初めて育成の必要性に気がつきます。これでは遅いのです。
そして、育成の仕事は、基本的には右腕の人の仕事です。トップの社長は、イノベーションを起こし続け、現場とのパイプ役として右腕が存在します。
当然、現場でのスキルと、育成のスキルは異なります。スポーツでいう、プレイヤーとして優秀な人が、必ずしも優秀な監督になれないことと同じです。右腕の人は、育成の能力をも身につけておく必要があるのです。