前回は、会社の破綻処理と債務の相続問題への対応策について説明しました。今回は、相続した株式について売渡しが請求された場合の対処法などを見ていきます。

相続した株式を売り渡すように請求が・・・

<事例10>

Bさんは、A社の株式の30%を所有する株主でした。

 

A社の過半数の株数を握っているCさんがA社の代表取締役です。他の取締役もすべてCさんと同居の親族で、A社はBさんに配当はせず、Cさんら取締役に役員報酬の形でCさんら側だけにA社の利益を分配していました。A社の利益はCさんら取締役の経営する別会社であるE法人にも業務委託料の形で流れていました。

 

Bさんの配偶者であり、成年後見人であるDさんはA社がCさんら側に牛耳られていることに腹を立てており、帳簿閲覧権を行使してCさんら側の不正の端緒をつかむとともに、株主代表訴訟などの会社法上の権利行使をしていました。

 

このような状況の中で、成年被後見人であるBさんが死亡します。

 

Cさんら側は、DさんをA社の経営から排除しようと考え、会社法174条の規定により、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式を取得したものに対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨に定款を変更しました。

 

この定款により、Dさんに対してBさんから相続したA社株式を売り渡すように請求がきたのです。

「売買価格の決定の申立て」で株価を争う余地はあり

Cさんら側が定款変更により導入したのは、会社法174条の規定に基づく相続人に対する売り渡しの請求に関する定めです。

 

これは、全株式の譲渡が制限されている非公開会社において、会社にとって好ましからざる人物が、株式を相続した結果、株主になることを防ぐために認められているもので、定款に定めることにより、株主の相続人から株式を売り渡すよう請求することができるという制度です。

 

Cさんら側は、自分らの不正を疑い、執拗に追及してくるDさんを排除することを目的として、定款を変更したあと、A社の株式の売り渡しを求めてきました。Dさんとしては、Cさんら側の請求に応じて株式を売り渡すしかありません。その結果、DさんはA社の株主としての地位を失うことになります。

 

ただし、このような場合、株式の売却代金については、争う余地があります。すなわち、会社側が提示してきた代金の額に不満があるのであれば、会社法177条2項の規定に基づいて、裁判所に価格の決定を求めることができるのです。

 

その申立てが行われた場合、裁判所は、株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮して適正な価格を決定します。

 

本事例でも、Cさんら側が提示した金額はDさんのおよそ満足できるものではなかったことから、価格決定の申立てを行い、A社の株式の価格について、公認会計士、税理士による意見書を提出し、買い取り価格が少しでも高額になるように、裁判所で交渉しました。

 

その結果、当初、提示された数字に、大幅に上乗せされた額の代金を得ることに成功したのです。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『ドロ沼相続の出口』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ドロ沼相続の出口

ドロ沼相続の出口

眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の増税が叫ばれる昨今。ただ、相続で本当に恐ろしく、最も警戒しなければならないのは、相続税よりも、遺産分割時のトラブルです。幸せだった家族が、金銭をめぐって骨肉の争いを繰り広げる…そんな悲劇が今もどこかで起…

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