今回は、離婚(死別)した配偶者との間にもうけた子どもの相続権について見ていきます。※本連載では、一般社団法人あんしん相続支援センター理事の小林啓二氏の著書、『相続の問題は不動産の問題です!』(南雲堂)の中から一部を抜粋し、実例をもとに、不動産にまつわる相続トラブルの解決策について解説します。

今の妻は「遺言書があるから」と安心していたが・・・

夫(68)、妻(60)、娘(30)の3人家族。夫には前妻との間に息子(40)がいましたが、その子が成人して以来、連絡を取っていません。夫が亡くなりましたが、遺産は、妻と娘と3人で住んでいた家・土地(夫名義)がほぼすべてでした。夫は生前、自分が死んだ後も妻と娘が変わらず家に住めるようにと、すべての財産を妻と娘に相続させる趣旨(しゅし)の遺言書を作っていました。

 

ところが、夫が亡くなった後、くだんの息子がやって来て、自分にも相続の権利があると言い出したのです。妻は遺言書があるからと安心していたのですが、前妻の息子にも遺産の8分の1を相続する権利があることを知らなかったのです。

 

知ったからといっても、家と土地について、前妻の息子の相続分を買い上げるほどの蓄えは妻と娘にはありません。協議の結果、不動産を前妻の息子との共有名義にすることで、今の家に住み続けられることになりましたが、将来、権利関係でまた一悶着が起きそうなトラブルの種を抱えています。

 

[図表]前妻との子どもには相続の権利がある?

法律で決まっている「遺留分」の存在

離婚(死別)した配偶者との間にもうけた子どもは、長く一緒に暮らしていないとしても、相続権があります。例に挙げたケースですと、法定相続分は妻が2分の1、娘が4分の1、前妻の子が4分の1ということになります。

 

子どもが相続人の場合は遺留分が認められ、それは法定相続分の半分です。ということは、たとえ夫が現在の妻と娘に全財産を相続させたいと思って遺言を残していたとしても、前妻の子には全遺産の8分の1を相続する権利があるということになります。

 

もちろん、話し合いで決着すればいいのですが、そう円満にいかないことも多いでしょう。とはいえ、この遺留分の存在は法律で決まっていて、前妻との間に自分の子どもがいることもあらかじめわかっていることです。家と土地を現在の妻と娘だけに残したい、自分がいなくなった後も安心して暮らしてほしいと思っていたなら、遺言書のみならず、前妻の子に渡す遺留分を現金や生命保険などで準備しておくべきだったのです。

 

 

 

小林 啓二

一般社団法人あんしん相続支援センター 理事

アセット東京株式会社 代表取締役

相続の問題は不動産の問題です!

相続の問題は不動産の問題です!

小林 啓二

南雲堂

実は相続の問題の殆どは「不動産の問題」です。不動産には税金のように数字だけでは割り切れない問題がたくさんあります。不動産歴33年、著者の経験を基にして不動産相続にまつわる問題を「あんしん相続」へと導きます。従来の…

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