境界確定への立ち合いに応じない隣地の所有者・・・
父は日頃から、「自宅以外に土地を持っているから大丈夫。いざというときにはそれを売って相続税を払いなさい」と言っていました。
実際に父が亡くなり、子どもたちは自宅以外の土地を売り、そこから相続税を支払おうと準備を始めました。ところが、売却の相談に行くと、「隣地との境界について測量した資料がないため、それを作らないと売ることができない」と言われてしまいました。
そこで、測量を頼んだのですが、この作業には隣地の所有者の立ち会いが必要になります。しかしながら、その方は以前に父との間にトラブルがあり、境界確定への立ち会い(確認書への署名捺印)をお願いしても、なかなか応じてくれません。
そうこうするうちに、進展がないまま時間がたってしまいました。相続税の申告期限である10カ月が過ぎ、延滞税が発生する事態となってしまったのです。
その土地は「すぐに」お金に換えることができるか?
土地は確実な資産のひとつであることは言うまでもありません。しかし、土地を持っていることと、それがすぐお金に換えることのできる財産かということは別の話です。
「近隣の相場が1坪百何十万円だから、自分の土地は、ざっとこのくらいの時価だろう」
そんな程度の認識である方も少なくありません。自分が元気な間の資産としてはそれでいいとしても、相続が発生し、換金して税金に充てたいという場面になると、実際に売れない土地では意味がないのです。
代表的なトラブルが、例に挙げた、測量して境界確定をしたいのに、隣地の権利者の了解を得られないケースです。
そのようなケースでは、原則的に売買できません。境界の争いごとになれば、時間はあっという間に過ぎていきます。相続税の申告期限は10カ月以内ですから、その期間に売ってお金にできなければ納税資金としては意味がないのです。
その土地に「価値があるはず」という思い込み
他のパターンとして、所有者が現在の不動産評価を知らないまま「価値があるはず」と思い込んでいることも少なくありません。
「5000万円で買った土地だから、今は値段が下がったとしても、3000万円くらいになるんじゃないだろうか」
と思っているのです。しかし、地方は本当に不動産が売れない時代になりました。換金価値がゼロということも珍しくありません。東京近郊ですら、数千万円で買った土地が数百万円でないと買い手が付かなくなっているのです。
確かに昭和の時代、全国どこでも土地は10年で倍の価格になっていましたから、『土地神話』を信じ続けていても無理はないのですが・・・。
土地をお持ちの方が相続税対策を考えるとき、なによりもまず、その土地の価値をしっかり把握してほしいのです。それは本当に現在、価値のある土地なのか――。元気なうちに確認しておくことが重要です。
小林 啓二
一般社団法人あんしん相続支援センター 理事
アセット東京株式会社 代表取締役