亡き夫の妹が突然主張してきた相続の権利
夫(70)、妻(63)、35年前に大都市郊外の分譲住宅を購入し、ローンはすでに完済しています。子どもはおらず、ずっと夫婦2人で暮らしていました。夫が病気で亡くなりましたが、遺言書などは作っていません。大きな遺産は夫名義の自宅(土地・建物)だけ。夫には妹がいますが、15年前に夫の両親が亡くなってからは付き合いがありませんでした。
妻は、夫が遺した今の家にこれからも住み続けたいと思っています。
「自分と夫の家計から家と土地を購入し、35年間ずっと2人で暮らしてきたのですから、当然、自分がそれをすべて受け継ぐもの」と考えていました。ところが、四十九日法要の終わった後、夫の妹が突然、「私にも相続の権利がある。その家を自分のものとして住み続けるなら、500万円で権利を買い取ってほしい」と言い出したのです。
思いも寄らぬ言葉に驚き、あわてて弁護士に相談に行きました。そこで聞かされたのが『法定相続分』という言葉。
子どものいない人が亡くなると、配偶者(妻)の相続分は全体の4分の3(亡くなった人の両親もすでに亡い場合)。残りである4分の1は、亡くなった人の兄弟姉妹の権利なのです。
つまり、家と土地の権利の4分の1は自分のものになるという夫の妹の主張は正当なものだったのです。とはいえ、妻には他に資産もなく、これから年金中心の暮らしを考えているため、その権利を買い取るような資金はありません。
「それなら、その家と土地を売ってしまえばいい。1人ならば、もっと小さい家で用が足りるだろう」
と言われましたが、長年住み慣れた家から今さら引っ越しするのには抵抗があります。
どうやっても買い取りすることができないと説明して交渉の結果、不動産を共有とすることで義妹と合意が成立しました。当面はこれでなんとかなりましたが、将来、家を処分する必要が出てきたときも、単独の判断ではできないという結果になってしまいました。
兄弟姉妹は法定相続人であっても遺留分は認められない
長年連れ添った配偶者を亡くしたとしても、今住んでいる家に住み続けたい。亡くなった夫が買った家なのだから、それを妻が受け継ぎ、当然、住み続けられるものだと思う人が大半でしょう。それなのに、思わぬ所から横やりが入ったケースを紹介しました。
子どものいない夫婦の片方が亡くなった場合、亡くなった人の親(直系尊属(ちょっけいそんぞく))が健在であれば親に3分の1、配偶者が3分の2が法律で定められた相続の割合です。亡くなった方の親が亡くなっている場合は、配偶者が4分の3、亡くなった人の兄弟姉妹に4分の1と決められています。ですから、例に挙げたケースでは、夫の妹にも遺産相続の権利があることは間違いありません。
ただし、相続にはもうひとつ、「遺留分」という制度があります。これは、亡くなった人が遺言書で遺産の分配方法を指定していたとしても、配偶者、子、親(祖父母)には、一定の割合で相続する権利が残るというものです。たとえ、遺言書に「遺産はすべて愛人へ」と書いてあったとしても、配偶者や子どもには、一定の遺産を相続する権利があります。
しかし、これは事前に準備をしておけば防ぐことができたのです。
さて、この「遺留分」なのですが、兄弟姉妹には認められていません。ですから、例に挙げたケースで夫が遺言書を作り、「全財産を妻へ相続させる」と一行だけでも書いておけば、夫の妹には遺産を請求する権利はなかったのです。
最近は、子どものいない夫婦も少なくありません。自分の死後、配偶者が無用なトラブルに巻き込まれることを防ぐため、ぜひとも遺言書を作成しておいてほしいのです。
小林 啓二
一般社団法人あんしん相続支援センター 理事
アセット東京株式会社 代表取締役