相続トラブルの大半は、「不動産」の分割に起因するともいわれています。本連載では、一般社団法人あんしん相続支援センター理事の小林啓二氏の著書、『相続の問題は不動産の問題です!』(南雲堂)の中から一部を抜粋し、実例をもとに、不動産にまつわる相続トラブルの解決策について解説します。

現物分割で決着できるケースは少ない・・・

一人暮らしをしていた母が亡くなりました。その家で育った息子3人はすでに独立しています。父は5年前に亡くなっていました。母の家は、東京都内の私鉄沿線、駅近くのまとまった土地でしたが、さて、残されたこの土地を兄弟3人でどう分ければいいのだろうという話になりました。

 

私のところに相談に来たので、まず、3つの方法を提案しました。

 

⃝土地を売り、代金を3人で分ける

⃝家を壊してアパートを建て、共同経営する

⃝土地を3分割して別々に所有する

 

息子のうち2人は、土地を売ってしまい、お金を分ければいいじゃないという意見だったのですが、一番上の兄は、生まれ育った場所に愛着があり、できることなら売らずにいて、またそこに戻って暮らしたいというのです。また、アパートの共同経営は、今まで縁がない仕事ということで、3人ともあまり乗り気ではありません。

 

道路に面した横長の土地だったため、大きな問題もなく3分割することができます。そのため、3人は結局、土地を3分割することを選択。最終的にそれぞれが土地を所有することで話がまとまりました。

 

横長の土地だったので円満に3等分することができた
[図表1] 実家の土地見取図  横長の土地だったので円満に3等分することができた

 

不動産は分けるのが難しいからトラブルの元になる。ここまでも繰り返し述べてきたことです。遺産として不動産が遺されて複数の相続人がいる場合、やはり問題となるのが分け方です。大きく分けて4つの方法があります。

 

①現物分割

②換価分割

③代償分割

④共有分割

 

①の現物分割は、実際の土地を分筆(地番を分けて登記し直す)して複数の相続人に分ける方法です。

 

例に挙げたケースでは、道路に面した横長で広い土地だったため、比較的簡単に3分割できました。しかし、分割前の土地が縦長で、道路に接している部分が短い場合はそう簡単にいきません。

 

家を新たに建てるときには、建築基準法で接道義務というものがあるのです。それによると、幅4m以上の道路に接している部分が最低2mなければなりません。この規定があるため、道路に面していない土地には建物が建てられず、不動産としての価値が下がります。たとえ同じ面積で三等分しても、道路に接した土地と接していない土地では評価が全く違ってくるのです。

 

また土地の価格については、経済合理性という考え方もあります。面積が極端に小さい土地は用途が限られるため、単位面積当たりの評価も低くなるのです。分割する前に比べると、半分程度の評価額となってしまうこともよくあります。

 

こういった事情もあり、土地を分ける際、現物分割でうまく決着できるケースというのはそれほど多くありません。

 

建物を建てる土地は一定の長さ道路に面していなければならないという規定がある
[図表2] 縦長の土地や旗竿地は分割しにくい  
建物を建てる土地は一定の長さ道路に面していなければならないという規定がある

 

兄弟・姉妹間での「共有分割」は避けたほうがよい理由

②の換価分割は、不動産を売ってお金に換え、代金を相続人で分ける方法です。一番すっきりと公平に分けられる方法ではありますが、相続の場合、生まれ育った家や土地に愛着があって売りたくないというような『心の問題』も生じます。これはもう当事者の心情の話ですから、われわれアドバイスをする側は、相談者の気持ちをうかがいながら、どうするのがベターなのかを提案しています。

 

③の代償分割は、相続人のうち誰か1人が不動産を相続し、他の相続人には自分の懐から現金等を渡して埋め合わせる方法です。他の人の相続分を買い取るという考え方をしてもいいでしょう。

 

不動産以外に現金・有価証券などの相続財産がある場合は、それを他の相続人に相続させることで分割のバランスを取る手段もあります。土地を売らずに残したいとき、まずはこの代償分割を中心に考えることが多いのです。

 

そして、④の共有分割。ひとつの不動産の名義を複数人にし、みんなで権利を共有する方法です。代償分割では土地を相続する人が大きなお金を用意しなければならないところ、共有分割ならそれが不要です。

 

「いい方法じゃないか」

 

と思う人もいるでしょう。しかし、われわれ不動産コンサルタントとしては、親子以
外による不動産共有はお勧めできません。共有は、後で必ずもめ事が起きるのです。

 

6000万円の土地を3人で共有しているとします。計算上、1人が持っているのは2000万円分の権利ということになります。しかし、3人全員の合意がなければ、この土地を売ることはできません。1人がお金が必要になって土地を換金したくても、他の2人がノーと言えば売れないのです。

 

「土地の権利を持っていても、換金できないんじゃまったく意味がない」

 

と思う人もいるかもしれません。

 

念のため申し上げておきますと、法的には一部の共有持分を売ることはできます。最近は、そんな人をターゲットとした業者も現われてきました。電車内に「共有不動産をお譲りください」というような広告も見かけるようになりましたから、みなさんもご存じかもしれません。

 

しかし、共有持分を赤の他人と持つことは、さまざまなトラブルの元になりますから、不動産の共有は避けるべきです。

 

また、一部の弁護士さんも、

 

「法律で共有というやり方が認められているのだから、問題ない」

 

と共有分割を勧める方もいらっしゃいます。法的に考えるとそれでいいのかもしれませんが、われわれ現場を知る者から見ると、将来のトラブルを先送りしているだけだと思います。

 

 

 

小林 啓二

一般社団法人あんしん相続支援センター 理事
アセット東京株式会社 代表取締役

相続の問題は不動産の問題です!

相続の問題は不動産の問題です!

小林 啓二

南雲堂

実は相続の問題の殆どは「不動産の問題」です。不動産には税金のように数字だけでは割り切れない問題がたくさんあります。不動産歴33年、著者の経験を基にして不動産相続にまつわる問題を「あんしん相続」へと導きます。従来の…

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