今回は、「成年後見人の不正」に対し、政府の取った対策とは何かを見ていきましょう。※本連載は、フリーライターである永峰英太郎氏の著書、『認知症の親と「成年後見人」』(ワニ・プラス)から一部を抜粋し、「成年後見人制度」が招いた悲劇について、著者の実体験をもとに紹介します。

2014年、成年後見人の不正数は831件にも達した

2014年4月、私は認知症の父の成年後見人になり、家庭裁判所の判断で私を監督する成年後見監督人が付くことになりました。しかし今現在、私には成年後見監督人は付いていません。

 

15年3月に、家庭裁判所から「後見制度支援信託」という制度を勧められて、利用することになったからです。

 

この制度は、成年後見制度による支援を受けている人の財産のうち、日常的な支払いをするのに十分な額の預貯金だけを、これまでの金融機関の口座に残し、残りは信託銀行等に預けるというものです。

 

本格的に「後見制度支援信託」の構想が動き出したのは、12年。ある司法書士によると、その背景には、後見人等の不正が増加したことが挙げられるとのことです。

 

最高裁判所の調査によると、11年の不正件数は、311件(約33億4000万円)でしたが、翌12年は、624件と倍増し、その被害額は約48億1000万円となりました。13年は662件(約44億9000万円)、そして14年には、過去最高の831件(約56億7000万円)にまで達しました。

 

※「家庭裁判所における不正防止策の現状と今後の在り方等について」(成年後見制度利用促進委員会・2016年
[図表1]成年後見人等の不正報告件数   
※「家庭裁判所における不正防止策の現状と今後の在り方等について」(成年後見制度利用促進委員会・2016年)

 

※「家庭裁判所における不正防止策の現状と今後の在り方等について」(成年後見制度利用促進委員会・2016年)
[図表2]不正による被害額  
※「家庭裁判所における不正防止策の現状と今後の在り方等について」(成年後見制度利用促進委員会・2016年)

「成年後見監督人」の割合増加で不正は減少したが…

その不正を減らすために、まず促進されたのが、「成年後見監督人」の割合を増やすことでした。

 

最高裁判所によると、成年後見監督人(保佐監督人、補助監督人も含む)の選任は、11年で1751件だったのが、12年は2255件、13年は2723件、14年は3213件、そして15年には、4722件と、増加の一途をたどっています。

 

おそらく私に成年後見監督人が付いたのは、こうした背景があったからなのでしょう。「監督人が目を光らせているから、悪さをするなよ」というわけです。

 

家庭裁判所にしても、成年後見監督人を立てることで、不正に関する責任から逃れられるという側面もあると、ある司法書士は話します。成年後見人による不正を、成年後見監督人の責任にできるというわけです。

 

さらに家庭裁判所は、成年後見人そのものについても、弁護士や司法書士など専門職後見人の割合を増やしていきます。2000年は親族の割合が91%でしたが、12年には49%と5割を割り込み、16年には28%にまで減りました。

 

こうして家庭裁判所は、成年後見監督人や専門職後見人の割合を増やしていったのですが、不正件数の推移を見ればわかるとおり、それによって不正が減っているかといえば、そうとも言い切れない部分もありました。

 

そこで導入に踏み切ったのが「後見制度支援信託」なのです。ある司法書士はこう話します。

 

「成年後見人等の不正が多いため、最高裁では10年秋から、導入の検討を始めていたんです。しかし、当初は導入に失敗し、ようやく12年に新規案件から導入がスタートしました。その後、すでに成年後見人になっている人にも、その利用を勧めるようになったのです」

 

[図表3]後見制度支援信託の仕組み   

 

※導入は2012年  ※成年後見制度利用促進委員会資料より
[図表4]後見制度支援信託の利用状況
※導入は2012年
※成年後見制度利用促進委員会資料より

 

 

永峰 英太郎

フリーライター

認知症の親と「成年後見人」

認知症の親と「成年後見人」

永峰 英太郎

ワニ・プラス

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